シマフクロウ(絶滅危惧IA類)

林業と生息地保全の両立を図る覚書を更新

2024年2月、公益財団法人日本野鳥の会(東京都品川区、会長:上田恵介)は、2015年5月に締結した日本製紙株式会社(本社:東京都千代田区、社長:野沢 徹)所有の北海道・道東の森林(約2,000ha)における、「シマフクロウの生息地保全と日本製紙株式会社の木材生産事業の両立に関する覚書」を更新し、道東におけるシマフクロウ生息地の保全対策を強化いたしました。

*シマフクロウ保護観点から、具体的な場所、地名などの情報は明らかにしていません。

河畔林の保全を拡大―持続可能な林業のビジネスモデル

今回の保全対策強化では、河川本流において河畔林の保全範囲を拡大したほか、新たに河川支流部の河畔林についても保全範囲に指定しました。また、調査の結果から利用頻度が高いと推定される地点については、周囲の河川を中心に河畔林に沿った形で保全範囲を拡大することで、シマフクロウの主要な行動圏にさらに配慮しました。

今回の更新に際し、内容を見直した覚書の対象地の大部分は、日本製紙(株)が通常の木材生産の施業を行なっている森林です。施業を継続しながら、絶滅危惧種の保護を行なうというこの取り組みは、ネイチャーポジティブ時代の新しい生息地保全のあり方を提示するものであり、持続可能な社会を築くうえでの象徴的な事例に位置づけられると考えています。


2024年2月に覚書を更新

覚書の範囲のイメージ図 (ピンク着色部が2024年の保全範囲の部分)

日本製紙(株)との協働の経緯

●2010年 社有林Aでの保護区設置 協働のスタート

当会は国の天然記念物、絶滅危惧種IA類であるシマフクロウとその生息地保全に取り組んできたなかで、北海道・道東の日本製紙(株)の社有林Aにシマフクロウの繁殖地があることを確認し、2010年10月、同社との協定でその一部126haをシマフクロウのための野鳥保護区としました。それ以降、毎年協働でシマフクロウ保護につながる鳥類調査や現地巡回、生息に配慮した森林施業についての協議を実施してきました。

●2015年 社有林B(経営林)での施業に関する覚書を締結

2015年には、新たにシマフクロウの生息が確認された道東の社有林Bにおいて、同社の森林施業とシマフクロウの生息地保全を両立させる覚書を結びました。この社有林は9割以上が経営林(植栽、保育、伐採を循環させて木材を収穫する林分)であり、従来ならば天然林にすむシマフクロウの生息地保全とは両立が難しい方針の森でした。しかし、当会では日本製紙(株)と協働でシマフクロウの利用範囲を把握する調査を実施し、利用が多いため施業制限をする区域と、利用が少ないため施業ができる区域を分けることを同社に提案しました。2年以上検討を重ねて結んだこの覚書には、シマフクロウが繁殖に利用する重要なエリアにおいて、繁殖期の施業の禁止、皆伐の制限(間伐は実施)、営巣が確認された樹木は伐採しないことなどが含まれています。

そしてこの度2024年の更新は、当会が継続して実施してきた音声調査等による繁殖エリア、採餌エリアの抽出を基に、日本製紙(株)と共に現地調査や情報交換を行なったうえで、対象エリアの拡大を取り決めました。


協働での巣箱設置

現地調査のようす

ますます高まる民有林の重要性―生物多様性を企業と共に守る

絶滅危惧種を保護しつつ森林施業を行なう、即ち生物多様性の保全と経済活動が両立したこの取り組みは、今後の世界的な課題であるネイチャーポジティブを実現するうえでも重要な施策です。また、環境省主体で進められているシマフクロウの保護活動の多くは、国有林や道有林等の公有林での活動です。個体数が増加しつつある今、当地のように近年生息が確認された民有林だけでなく、これから新たに生息し始めることが想定される民有林、特に広大な面積を保有する企業の社有林において、同様の取り組みが行なわれることが、シマフクロウの生息地拡大のために重要になってきます。

持続可能な企業経営が求められる今、かつては立場を異にするとされてきた企業活動と自然保護活動は、協働して自然を守りつつ利用する方法を模索する時代へと移ってきました。北海道の身近な野鳥であったシマフクロウを架け橋にして、日本野鳥の会と日本製紙(株)は2010年から継続してシマフクロウのすめる環境づくりを実施してきました。シマフクロウがすめる森を守ることは、そこにすむ多くの動植物が利用できる自然環境を守ることにもつながります。2050年の「自然と共生する世界」実現に向け、これからも両者協働でシマフクロウの生息地保全活動を進めてまいります。

資料

<日本製紙(株)社有林でのシマフクロウ生息地保全の取り組み>

●2010年 野鳥保護に関する協定を締結し、北海道東部の日本製紙(株)社有林A126haをシマフクロウの野鳥保護区化。

●2011年 北海道東部の日本製紙(株)社有林Bでシマフクロウの繁殖を初認。

●2014年 日本製紙(株)からの支援により、社有林Bで大規模な音声調査を実施。繁殖にかかわる重要エリア134.8haを選定。

●2015年 前年の調査を基に「シマフクロウの生息地保全と日本製紙株式会社の木材生産事業の両立に関する覚書」を締結。保全範囲を抽出し、シマフクロウの生息地保全と森林施業を両立する基準を新たに設定。日本製紙(株)、環境省「生物多様性アクション大賞」受賞。

●2020年 社有林Bでシマフクロウの繁殖を支援するため巣箱を設置。

●2021年 日本製紙(株)、北海道庁「北海道生物多様性保全実践活動賞」受賞。

●2023年6月 社有林Bに設置したシマフクロウの巣箱から雛が1羽巣立つ。

●2024年2月 2015年の覚書を見直し、新たに社有林Bの保全範囲を45.2ha拡大し、180.0haに。

日本製紙(株)の社有林について

日本製紙(株)は国内に約9万haの社有林を保有。木材生産を行なう「経営林分」と、自然保護に配慮し木材生産をめざした施業を行なわない「環境林分」に区分した上で地域特性や周辺環境、生物多様性に配慮した適切な森林経営を実施しており、国内全ての社有林についてSGEC森林認証を取得。

シマフクロウについて

シマフクロウは、極東地域の狭い範囲に分布し、日本では北海道の中部から東部にかけて局所的に生息する、翼を広げると約180cmに達する世界最大級のフクロウの仲間。主に河川の魚を食べ、巨木にできる樹洞で繁殖。かつては北海道全域に分布していたが、森林の伐採や河川環境の変化により減少し、現在では道内に約100つがいが生息しているのみとなっている。環境省のレッドリストでは絶滅危惧種IA類に指定。1971年に国の天然記念物、1993年には国内希少野生動植物種に指定。

日本野鳥の会のシマフクロウ保全活動について

シマフクロウ生息地保全のため、土地の購入や地権者との協定により、独自の「野鳥保護区」を設置する活動を2004年から展開。2010年に日本製紙(株)と設置した野鳥保護区では、シマフクロウをはじめ生息するさまざまな生物の調査を行なっている。2011年からは日高地域の生息地において、不足する餌を補い繁殖を補助する給餌活動を開始。2012年からは、富士通(株)および富士通九州ネットワークテクノロジーズ(株)(当時)の技術協力により、各地で集音したデータからシマフクロウの鳴き声を抽出し、シマフクロウの生息状況調査を実施している。今回の覚書においても、音声解析により森林内のシマフクロウの利用範囲の推定を行い、対象地の設定に活かしている。

シマフクロウ保護の活動内容の詳細はこちらをご覧ください。

https://www.wbsj.org/activity/conservation/endangered-species/kb_hogo/

<組織概要 2024年2月現在>

組織名 :公益財団法人 日本野鳥の会

会長  :上田恵介(立教大学名誉教授)

代表者 :理事長 遠藤孝一(日本野鳥の会栃木県支部副支部長)

所在地 :〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

創立  :1934(昭和9)年3月11日 

会員・サポーター:約5万人

URL  : https://www.wbsj.org/


配信元企業:公益財団法人日本野鳥の会

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