3月から4月は、出会いと別れのシーズン。進学する子供たちは希望を抱えつつ新たな目標に進んでいく。

そんな子供がいる一方で、親は大学生の子供を一人暮らしさせたり、進学のための学費を払ったりと、なにかと心配なことが多くなる時期でもある。

 

■学費を遊びに使うと脱税に繋がってしまう可能性がある?

家庭によっては子供に一旦学費を預けて大学に振り込んでもらうパターンも少なくないようだが、万が一子供が学費を大学に振り込まず、遊びに使ってしまった場合贈与税がかかるなど、脱税に繋がってしまう可能性はないのだろうか?

進学すると宣言した以上、しっかり有言実行してほしいものだが、万が一の可能性もある。そんな不安を抱えた親御さんのために、学費や医療費など子供に渡して浪費される可能性があるお金の質問を、離婚・不倫・相続・債務整理等に詳しい弁護士法人C-ens法律事務所代表弁護士・森崎秀昭先生に質問した。

 

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■森崎弁護士の見解

そもそも「脱税」とは、支払う義務がある税金の金額を過小に申告するなどして、納税額を不当に減少させるようなことを言います。「親御さんからもらった学費」というものが関係してくるのは、お金をもらったということですから、贈与税という税金の問題になりますね。

贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。つまり、もらったお金が1年間で110万円よりも多い場合には、お金をもらった人(今回であればお子さん)が税金を納める必要が出てきます。

ということは、お子さんに学費や生活費を年間で110万円を超えて渡したら贈与税がかかりそうですよね? まずそもそも、子どもの学費について、親に支払う義務はあるでしょうか? 親が支払う義務があるなら、学費を親が払うことは贈与にならないので、見てみましょう。

この点、在学契約という大学との契約は、大学とお子さんとの間で締結されていると考えられます。そうだとすると、大学との関係ではお子さんが大学に学費を払う義務を負っていることになります。ということは、親御さんがお子さんに学費を渡すことは形式的には贈与になりそうですね。

しかし、親にはお子さんを扶養する義務(いわゆる扶養義務)というものが民法上定められています(民法877条第1項)。これにより、親はお子さんの学費や医療費、生活費などを負担する義務を負っているのです。

実は、このような扶養義務があることとの関連で、お子さんの生活費や教育費について、税務上も贈与税について特別な定めが設けられており、贈与税の対象外とされております。ということは、親御さんが一人暮らしのお子さんに学費を渡したり生活費を渡すことについては、贈与税がかからないということになります。

では、お子さんがこのような親御さんからもらったお金を学費や生活費以外につかってしまった場合についてはどうなるの?という問題が残っているかと思います。

これにつきましては、あくまでも贈与税の対象とならない「生活費」とは、「その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除きます)をいいます。ちょっと難しいですよね(笑)

要は、例えば、お子さんが自分の収入で負担しきれない、家賃、食費、水道光熱費、通信費、交通費などの生活に必要なお金であれば、贈与税はかからないよということになります。

これを超えて、パチスロなどのギャンブルに使うお金、キャバクラホストクラブ、風俗の代金などの浪費、預金、株式や金融資産の購入などの投資の原資、学生起業における事業費などは、日常生活を営むのに必要な費用に該当しないと考えられるでしょう。

そうだとすると、親御さんがたくさん学費や生活費を渡しているにもかかわらず、お子さんがギャンブルなどに費やしてしまった場合には、その金額が年間110万円を超えてしまうと、贈与税がかかることになってしまいます。

そして、この贈与税を申告せずにいると、無申告加算税や重加算税が賦課されるおそれもあり、納税できていなかったことについて延滞税も課されることになります。税金は、破産などしても免れられないので、お子さんが学生のうちに重い負債を抱えることになってしまうので要注意です。

 

 

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■現実を子供と一緒に見つめる機会を

そういった状況を防ぐため、具体的には生活費や学費の仕送りに贈与税が課されないために、次のようなことに注意してみましょう。・

・毎月定額の仕送りをする(※不当に高額にしない)
・使途を明確にするために領収証などを確保しておく

なお、学費や生活費として仕送りをしている分には、贈与だとしても贈与税がかからず、確定申告の必要はないのでご安心ください。

ちなみに、教育資金の贈与については、特別な定めもありまして、年間1500万円までは贈与税がかからないとされています。これには条件や贈与税申告の際の資料の保管も必要なので、ちょっと手間はかかりますが、必要な方は調べてみてくださいね。

今回は贈与税という括りで見てみましたが、法律や税金という視点でみると、ちょっと殺伐としちゃいますよね。法律で扶養義務があって「支払う義務がある」なんて言われると、人間ですから、ちょっと学費や生活費を払いたくなくなる気持ちもわかります。

そこは、愛する我が子の学費や生活費について、愛情があるがゆえに支払っているという大前提を忘れないでもらえたら嬉しいです。我が子が生まれた瞬間のこと、初めて小さな命を抱き上げた時のこと、初めて立ち上がった日のことなどを思い出しながら、改めて愛情をもって学費や生活費を払ってあげてもらえたら嬉しく思います。

また、学費をもらうお子さんが親に嘘をついて学費や生活費をせびるというのは、お子様の中で様々な葛藤がたくさんあると思います。特にお金の使い方は、心の現れなので。

このようなお子さんの変化に少しでも気付けるように、離れていてもお子さんが連絡しやすいご両親、帰省しやすい実家、相談しやすいご両親になれるように、日頃からのお子さんとの関係性を意識してもらえたら幸いです。ありのままのお子さんを受け入れてあげられるように。

そして、場合によっては、1単位あたりの学費を計算してみたり、仕送りしている生活費を稼ぐとしたら、アルバイトで何時間働かなければならず、そのためには、どのようなスケジュールで生活しなければならないのかをお子さんと一緒に具体的に計算してみたりするのも効果があるかもしれません。

実は、私も、大学受験の時に実家のある東京から関西の大学に進学して、一人暮らしをしようとしたことがありました。その際に、親から「生活費は自分で稼げ」と言われ、必死に計算した結果、親に対して「すいません。東京の大学にします。」と頭を下げたことを覚えています。

進学のタイミングで、大学に通うこと、一人暮らしをすること、そのためには何がどれだけ必要なのか?そんな現実をお子さんと一緒にしっかり見つめてみるにも良い機会かもしれませんね。

 

 

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■贈与税がかかる可能性があることが判明

親としてはやや不安なことに、やはり学費を遊びに使ってしまった場合、贈与税がかかる可能性があることが判明した。

もちろん子供なので過ちはあるかもしれないが、学費を正しく使わないのは将来に大きくかかわる問題。

そうならないためにも、森崎先生が話すとおりお金を渡すだけではなく、子供と一緒にしっかりと現実を改めて見る機会を作ってみてはいかがだろうか。

 

・取材協力

森崎秀昭(弁護士)
東京都出身。立教大学法学部法学科卒。お客様の本質的な成長や幸福を希求する弁護士法人C-ens法律事務所の代表。法人のクライアントに対しては、スポーツ・エンターテインメント分野、知的財産権、事業承継、マーケティングや人的資本経営を見据えた労務管理などを得意分野とする。また、個人のクライアントに対しては、相続、男女問題、借金問題、詐欺被害回復などのサービスを通して、より豊かな人生を送ってもらえるようなサービスを構築し続けている。公益財団日本バスケットボール協会や公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグなどのスポーツ団体で各種委員会の委員を担当。プライベートでは育児に全力投球。育児も勉強と実践を繰り返し、PDCAを回しまくっている。

事務所ホームページ
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