これまで困難だった犯人捜査がはかどるかもしれない。光るクラゲのタンパク質から作られた特殊なスプレーは、シュッとひと吹きするだけで、犯行現場に残された指紋をわずか10秒で浮かび上がらせる。
従来の指紋検出キットと違い、クラゲスプレーは指紋に残された貴重なDNAを破壊してしまうこともない。また、これまでは検出が難しかったざらざらした表面であっても有効だ。
事件や事故の捜査にたずさわる者なら、是非とも使ってみたい強力な捜査ツールが誕生したのだ。
現時点で、犯罪や事故の現場から指紋を採取するには、細かい粉末や発煙性の化学試薬が使用される。
だがそれは理想的なものではなく、指紋を採取するには少なくとも数分かかる。
さらに悪いのは、それが汗や皮脂に含まれるDNAを傷つける可能性があることだ。事件解決の手がかりを得るための行動が、かえってそれを壊してしまうのでは本末転倒だ。
そこでイギリス、バース大学と中国、上海師範大学の共同研究チームは、そんな心配のない無害な指紋検出スプレーを発明した。
それはクラゲから抽出される「緑色蛍光タンパク質」を利用したもので、さっと吹きかけるだけで、現場に残された指紋が10秒もしないうちに浮かび上がってくる。
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スプレーには「LFP-Yellow」と「LFP-Red」の2種類があり、吹きかける表面の色に応じて使い分けることができるという。
使用する表面の色に応じて2種のスプレーが用意されている / image credit:University of Bath
緑色蛍光タンパク質は、生物学的プロセスを観察するために、さまざまな研究で使用されているなにしろ、これを発見した下村博士はノーベル賞を受賞しているくらいだ。
つまり、指紋に含まれるDNAのような生体物質にほとんど影響しないことが、すでに保証されているのだ。
クラゲスプレーで浮かび上がった指紋。奇遇にもちょっとクラゲっぽい / image credit:University of Bath
クラゲ指紋検出スプレーの秘密は電荷
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スプレーのインク分子は、正の電荷を帯びている。一方、指紋となる汗や脂に含まれる脂肪分子やアミノ酸分子は負の電荷を帯る。だからインク分子が指紋にピタッと結びつき、指紋の形に沿って固定される。
それを青色光で照らしてやれば、インク分子が10秒もしないうちに黄色や赤の蛍光を発するという仕組みだ。スマホで撮影すれば、記録にするのも簡単だ。
image credit:University of Bath
スプレーの霧は、とても細かいので、それによって指紋を壊してしまうようなこともない。
また、レンガのようなざらざらした表面にも有効だ。これは従来の指紋検出キットでは難しかったこと。それも指紋がついてから1週間後でもOKというのだから、強力な捜査ツールになるだろう。
「この技術で、犯罪現場での証拠集めが楽になればいいですね」と研究者は話す。
研究チームは現在、いくつかの企業と協力して、この新しい捜査ツールを販売する方法を探っているとのことだ。
この研究は『Journal of the American Chemical Society』(2023年1月8日付)に掲載された。
References:Scientists develop biocompatible fluorescent spray that detects fingerprints in ten seconds / Glowing jellyfish protein lights the way for better lifting of fingerprints / written by hiroching / edited by / parumo
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