◆男子サッカー日朝戦はどこで……?

「今月中に中国から北朝鮮への定期便が再開する可能性は極めて低いです。次の男子サッカー日朝戦も第3国ではないですかね?中国決戦であれば観戦ツアーを組みますよ」
   
 と中国でのサッカー日朝戦を期待するのは、中国上海の旅行会社。

 2月28日、東京国立競技場では、なでしこジャパンが、パリ五輪出場をかけて北朝鮮と対戦した。

 2万777人が寒風を吹き飛ばす熱い応援を送る中、注目を集めたのが北朝鮮チームの応援席だった。カテゴリー3南のアウェーエリア3000席はいち早く完売していた。

 最前列には、「イギョラ(勝て)朝鮮」の横断幕と巨大な北朝鮮国旗を掲げ、2021年にユーチューブで800万回を超える再生で話題となった「コンギョ(攻撃)」などを歌う熱い声援は、日本人サッカーファンにも強烈な印象を与えた。

 北朝鮮代表が帰国した29日の夕方に開催されたイベントであいさつした朝鮮総連幹部は、「次の男子は平壌で」と期待を込めて発言した。そう、サッカーファンの次の関心は、3月26日に行われるサッカーワールドカップ(W杯)アジア2次予選、北朝鮮戦だろう。

 26日はアウェー戦、現時点でも開催地は平壌となっているが、2月25日なでしこジャパンのアウェー戦が迷走のすえ、決戦直前で平壌からシッダ(サウジアラビア)へ変更となったことは記憶に新しい。

 果たして、今回はどうなるのであろうか。

北朝鮮への定期便がないという現実

 3月2日からアジアサッカー連盟AFC)が7人の視察団を平壌へ派遣。決戦場所となる金日成競技場や日本代表が宿泊する予定のホテルなどを視察したという。

 しかし、そもそも2月のなでしこジャパンのアウェー戦が、第3国となった要因の1つに北朝鮮へ定期便がないことだったとされる。

 現時点でも中国やロシアとを結ぶ空路の定期便、旅客を運ぶ国際列車も再開されていない。

 ナショナルフラッグ高麗航空の臨時便や貨物輸送の国際列車は再開されているが、旅客を安定して輸送する手段、つまり、平壌へのアクセスがないのだ。

 アクセス手段の他にも、金日成競技場のピッチが人工芝であることも日本側が懸念を示したとも伝えられる。

 金日成競技場は、コロナ禍前でまでアマチュアランナーに人気だった平壌マラソンのゴール地点だ。市民マラソンで競技場ゴールができる珍しい大会として知られる。

 2017年に平壌マラソンへ参加した日本人ランナーによると、選手がスタートして平壌市内を疾走している間、ガイドらが待つ金日成競技場では、サッカーの試合が行われているという。

 競技場ゴール後にピッチへ入ったという日本人ランナーは、「都会の校庭のような少し硬い感じだった」と語っていた。人工芝なので滑ると火傷などを負うリスクも高い。

◆中国旅行会社関係者はなぜか暗い顔

 まだ、決戦地は確定していないが、サッカーファンの熱は高いようで、北朝鮮旅行を手配する旅行会社へ問い合わせが増えいるそうだ。

 しかし、関係者の顔は暗い。

「仮に平壌で開催されたとしても、過去の前例から私たちのような一般代理店では手配できない可能性が高く、期待はしていません」(中国の旅行会社)

 中国からの定期便が再開できないのであれば、2月上旬に100人近くで「北朝鮮ツアー再開1号」を実施したロシア・ウラジオストク経由での定期便を復活させたら良いのではないか、と思うが、後述するように、中国政府が、さらに怒る可能性もあるので、北朝鮮も慎重になっているのかもしれない。

 さて、ここで平壌決戦が認められ、中国から臨時便なり、安定したアクセス手段が確保されたと仮定しよう。

 現在、日本人は中国の入国ビザを取得する必要がある。日中間の航空券は一気に安くなり、コロナ禍前に戻った感があるも、最安の観光(L)ビザであっても2万円以上のビザ代がかかる(代行業者へ依頼した場合)。

 もし、中国での決戦となれば、帰路を韓国経由などにした航空券を持つことで、144時間のビザ免除(正確にはトランジットビザ免除)が適応となる。このビザ免除での訪中を勧めたいと中国の旅行会社は話す。

ロシアからの定期便復活というウルトラCの可能性も

 2023年11月21日配信記事、「報じられたはずの北朝鮮の外国人入国、未再開の謎。ロ朝接近を中国警戒か」では、中国政府は、ロ朝接近を快く思っておらず、国境封鎖を続けているのではないかと考察した。

 2023年末、中国の国営旅行会社代表が、金正恩プーチン会談に習近平国家主席が怒り、制裁として人的往来の制限を継続していると関係者へ語ったことで、筆者の考察は正しかった可能性が高い。

プーチン大統領が3月中にも24年ぶりの北朝鮮訪問すると聞いてます。その後、北朝鮮の最高指導者が北京へ説明にでも訪中しないと、国境開放も観光ツアー再開もないでしょうね。観光再開は、早くて4月末くらいじゃないかと中国の旅行業界では情報が出回っています」(中朝関係筋)

 3月は、中国政府からさなる怒りを買うリスク承知で、ロシアとの定期便を先に復活させるかに注目したい。そうすれば平壌決戦が実現するかもしれない。
<取材・文・写真/中野 鷹 X ID:@you_nakano2017

【中野 鷹】
なかのよう●北朝鮮ライター・ジャーナリスト。中朝国境、貿易、北朝鮮旅行、北朝鮮の外国人向けイベントについての情報を発信。東南アジアにおける北朝鮮の動きもウォッチ。北レス訪問が趣味。 Twitter ID @you_nakano2017

2月28日に行われたサッカー女子日本対北朝鮮戦で2階席まで埋まった北朝鮮チーム応援団