老後資金2,000万円問題が話題になりました。が、根拠はあくまでも年金額や支出の平均をもとに算出されたもので、年金や貯蓄額、ライフスタイルにより、備えておくべき老後資金は十人十色です。たとえば65歳のときに2,000万円の貯蓄があったとしても、いつの間にか「こんなはずでは……」と老後破産に陥ることもあります。恐ろしいですよね……。今回はそんなお話です。

 夫婦で「年金月27万円」「貯蓄2,000万円」でも余裕のはずが…一転!「老後破産」に陥る理由

登場人物ゆめこさん(以下、ゆ)……大正時代からタイムスリップしてきた26歳女性。なぜか、現代社会にめちゃくちゃ詳しい。

・ワイ(以下、ワ)……ゆめこさんの白い飼い犬。お菓子好き。ミーハー

・有識者のおじさん(以下、お)……難しい単語や複雑な制度を解説してくれる物知りな優しいおじさん

・秋田ヒロシ(以下、主)……今回の主人公。元会社員68歳。現在は妻と2人、悠々自適なリタイア生活を送っていたが……。

主:俺の名前は秋田ヒロシ、68歳。会社を定年退職し、現在はのんびりリタイア生活を送っている。巷では「年金生活者の困窮」なんかが叫ばれているが、俺にとってはまったくの他人事。老後資金が底をつく心配はない。

ワ:ヒロシさん強気だね! 根拠はあるの?

主:そりゃあ確かに年金生活になったことで収入は減ったさ。とはいえ、俺も妻も元々好んで贅沢するタイプではない。これまで一番お金を使ってきたのは、2人の子どもの教育費。今は2人とも独立してそれぞれ元気に暮らしている。

それに誰もが知ってる大企業で営業職をしていた俺は収入にも余裕があり、かなりの貯金をしてきた。おかげさまで65歳までには2,000万円の貯蓄を達成。老後資金の心配なんてどこ吹く風ってわけだ。

ワ:どうして2,000万円貯蓄してたら安心なの?

有:「老後資金2,000万円問題」は、2017年の政府調査が参考になっています。夫65歳以上、妻60歳以上、夫婦ともに無職であるシニア世帯を想定したとき、「年金の他に老後資金として2,000万円必要」と試算されました。前述の条件のシニア世帯における受給年金額の平均は月21万9,762円です。そこから家計の黒字額の平均を算出した額が根拠となっています。

ワ:具体的な計算方法を教えてー?

政府調査(2017)

黒字=実収入-実支出=可処分所得-消費支出

有:黒字額の計算方法は「実収入−実支出」です。この「実収入-実支出」は、具体的には「可処分所得-消費支出」です。

ワ:むむ、可処分所得ってなーに?

ゆ:可処分所得とは、いわゆる手取りのことです。収入から税金や社会保険料などを差し引いた、自分で自由に使える金額を指します。

ワ:ふむふむ

有:実収入を年金収入のみと仮定し、それぞれ平均額を当てはめて計算。すると、一般的なシニア世帯の支出は月平均5万2,120円、年金でまかなうことができないという結論になります。

ゆ:つまり毎月5万円強の赤字ということです。

ワ:そんなに足が出ちゃうの!?

ゆ:そうなんです。月5万、年間62万5,000円の赤字です。仮に95歳まで生きるとした場合、1,875万円足が出ます。そこで、「年金収入のほかに2,000万円の資産があれば、赤字分を補えますよね」という考えのもとたどり着いたのが「老後資金2,000万円問題」なんです。

主:うちには65歳の定年当時すでに2,000万円の貯蓄があった。95歳まで生きたとしても十分な余裕があるってわけさ。

ワ:おお! ヒロシさん、着々と準備をしてきて満を持して迎えたリタイア生活なんだね。

ゆ:ですが、油断は禁物。なぜなら2,000万円の貯蓄があっても、老後に破産する可能性は十分に有り得るからです。

有:おやおや、どこからともなく悲鳴が聞こえてきましたね。

主:ええーー!? そ、そんな馬鹿な……! この通帳の残高どうか老眼による見間違いでありますように……

ゆ:たとえ自分たちの生活水準は一定を保っていたとしても、月の支出額は景気や住んでいるエリアなど環境要因によって変わってきます。たとえば、昨今世間をにぎわせている物価の高騰。1ヵ月の電気代は、2021年1月の時点で平均1万2,000円でしたが、2年後の2023年1月までに30%上昇しています。

主:た、確かに、妻が電気代の値上がりが激しいとは言っていたような……。とはいってもそれだけで破産するなんてことあるはずがない。はは、老後破産なんてものは、低所得者や、ギャンブルや株なんかで大損する輩が陥るものだろ? この俺にはどう転んでも無縁のはず……。

ゆ:果たしてそうでしょうか? たとえば、平均寿命より長生きするケースを考えてみましょう。日本人の平均寿命は2022年の調査で男性が82歳、女性が88歳です。今後は医療の発展により、さらに平均寿命が伸びる可能性は大いに考えられます。

主:う……言われてみれば妻と俺が100歳まで生きるとしたら、2,000万円でも心もとない。

ワ:長生きっておめでたいことのはずなのに、お金の心配もあるんだね……。

主:平均寿命より長生きしたうえで、すこれからさらに物価が上昇しつづけたりしたりしたら……急に不安になってきたぞ。

ワ:ゆめこさん、ヒロシさんたちどうすればいい!?

ゆ:たとえば投資や資産の運用などを考えて貯蓄を増やす方法を考えてみるのもひとつの手ですね。とはいえ、資産運用はどれも一朝一夕にはできることではありませんが。

ワ:確かに……68歳にして初めての資産運用は不安が大きいよね。

主:いや、俺たちならやれる!

ワ:ええ!?

主:俺は営業職をやっていて、妻は現役時代は証券会社に勤めていた。幸いにも俺には事業を分析する力があり、妻は株売買のタイミングや金額の見極めてきた経験がある。妻は現役時代「仕事とプライベートをきっちり分けたい」「私生活まで株のチャートは見たくない」が口ぐせで、私生活では株投資をしてこなかった。だが老後破産の危機となれば、元証券マンの血が騒ぐだろう。

力を合わせれば、今からでも資産運用をして老後資金を増やす道もみつかるはずだ! そのためにはまず今の企業についての情報収集からだ!

ワ:ヒロシさん、エネルギッシュだね!

ゆ:現役時代も仕事熱心で真面目なご夫婦だったみたいですね。前向きに新たな問題に立ち向かっていけるヒロシさんたちならきっと老後の資産不安にも前向きに挑んでいけますね。

年金だけで生活できて、貯蓄も2,000万円。それでも安心できないのはなぜ?68歳がこれから貯蓄を増やす方法とは

ゆ:ヒロシさん夫妻は年金月27万円。政府調査によると、2人以上の無職世帯の消費支出平均も27万円、税金や社会保険料などを加味すると28万円でした。無駄遣いしなければ、なんとか収支トントンでやっていけそうです。ヒロシさん夫婦はもともと贅沢志向ではないので、一見すると、老後破産とは無縁に思えます。

ワ:うんうん。

ゆ:しかし昨今の急激な物価高を考えると、このままずっと年金だけでまかなえるかどうかは分かりません。実際、年金のみで生活している世帯は2019年時点で48%でしたが、2021年は24.9%にまで低下しています。また2,000万円の貯蓄があるとはいえ、長い老後生活には日常生活を維持するための消費支出以外にも大きな出費が考えられます。

ワ:たとえば?

ゆ:持ち家だと経年劣化で建物や設備の補修費用がかかります。30歳代で住宅を購入したとすると、新築でも60歳の定年時には築20年超。多くの場合60代以降に住宅リフォームピークを迎えます。

マンションの場合共用部の修繕積立金などが必要です。バリアフリー化の費用も必要になるかもしれません。

ワ:じゃあ、住むお家は賃貸の方がいいの?

ゆ:賃貸の場合は家賃や更新料が必要です。更新時に家賃が値上げされる可能性もあります。持ち家と賃貸、一概にどちらが得かはそれぞれのケースで異なります。

さらに家族の冠婚葬祭代や、子供や孫に資金援助をしたいとも考えるでしょう。

ワ:2,000万円あってもすぐになくなりそうだね。

ゆ:ヒロシさんは68歳。100歳まで生きるとまだ30年以上あります。確かに2,000万円だけでは心もとないですね。

年金暮らし夫婦の現実

2,000(万円)÷30(年)÷12(カ月)≒5.6(万円)

ゆ:2,000万円割る、30年割る、12ヵ月。単純計算で資産から切り崩せる額は2人分で月5万6,000円。長生きするリスクが分かります

ワ:68歳から資金を増やすには資産運用の他にどんな方法がある?

ゆ:働くという手があります。シルバーセンターに登録して仕事を受けたり、アルバイトに応募する。また、今までの経験を生かしてWebライターなどの在宅の仕事に挑戦することなどもできますね。

ワ:ヒロシさんご夫妻は資産運用を考えることにしたみたいだよ。

ゆ:もし半年程度の生活費、いざという時の医療費を確保したうえでまだ資金に余裕があるようなら、新NISAを検討するのも1つの手です。ヒロシさん夫婦のように投資の知識があれば、さらに勉強して投資信託や株式投資に挑戦する選択肢にあります。

ただ貯蓄を減らさないよう、リスクの少ない安定運用を目指さないといけません。資金を増やそうと焦って、全財産を投資して失敗してしまったという話は往々にして聞かれます。

ワ:ヒロシさんはやると決めたらすごく頑張りそうだね!現役時代のように張り切っているよ!

ゆ:現在の60歳代はひと昔前の世代とは違います。まだまだ元気で新しい情報への感度も高く、情熱をもって積極的に活動している方々が沢山いらっしゃいます。ヒロシさんのように、新たな目的ができれば張り合いのあるシニアライフを送れそうです。

まとめ

ゆ:老後資金は2,000万円あれば大丈夫という訳ではありません。世帯のライフスタイルによって必要な金額はそれぞれ全く異なります。まずは自身の家計の収支バランスを把握し、不安な場合は資金を増やす手段を考えましょう。

60歳代からでもやれることはあります。投資による資産運用も1つの手ですがりリスクがつきます。ハイリスクの投資は避け、安定運用が見込める商品を選びましょう。

ゆめこさんの部屋>  

ワ:ワイ、シニアワンコになっても元気でいられるように筋トレ始めたの。

晴れてムキムキになったら、ボディビルダーの大会に出たいな!

ゆ:大会で生まれつきムキムキのワンコに勝利するのは至難の業よ。アメリカンピットブルテリアとか生まれつきムキムキよ!!!

さらにピットブルは、あんたみたいな小型犬に攻撃的になる習性があるわ。ステージでひと思いにやられるかもしれないから、気をつけなさい。

ワ:きゃー、やめておきます。

(※写真はイメージです/PIXTA)