地主の相続対策として、銀行から不動産の取得を提案されることがしばしばあります。一体なぜなのでしょうか。本記事では、相続対策としての不動産活用の有効性について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

不動産を活用した相続対策

相続対策の検討を行う場合においては、銀行や税理士、コンサルティング会社などから不動産について提案を受けることがほとんどであろう。その内容としては不動産の購入、未利用地に建物を建設する不動産有効活用である。

なぜ「相続対策=不動産」なのか。結論からいえば不動産の取得(この場合には有効活用も含む)によって、「相続税の課税資産を減らすことができること」にある。

数字を使って検証を行う。不動産を追加で取得する前における個人の貸借対照表B/S)が以下のとおり(図表1)であるとする。

当該個人の純資産は200(現預金100+既存不動産100=資産200)である。

相続が発生した際には当該200に対して非課税財産、葬式費用、借入(債務)を控除し、さらに家族構成に応じた基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を減らした課税資産に対して相続税が決定される。

ここで、不動産を追加取得するとどうだろうか(図表2)。

このケースでは相続対策のため、売買価格100の不動産を全額借入して購入する。相続税の計算における不動産の計算は相続税路線価や固定資産税評価額によって決定される。

さらに不動産はその利用方法(自用か賃貸か)や土地の形状、道路への接道如何などによって計算し、当該調整を経て最終的に決定される。一般的には、賃貸用不動産として利用していれば時価の30%~60%の水準(後述)となることから、検証にあたっては不動産の相続税評価は50として考える。

当初、純資産は200であったことに対して、不動産の取得により150まで圧縮されている。たとえば、所有する現預金を(生命保険を除く)ほかの金融商品に置き換えたとしても、多少の値上がり値下がりにより変動はあるものの、不動産ほどのインパクトはない。

なお、生命保険については受取人の要件などあるものの「500万円×法定相続人数」は非課税になることから、納税資金の確保としてよく利用される。

土地の価格

4つの異なる価格がある土地

土地は「一物四価」といわれることがある。

①時価:実際の不動産取引などにおいて形成される価格

②公示価格:地価公示法により2人以上の不動産鑑定士が鑑定評価を求め土地鑑定委員会により調整し公示される価格

相続税評価額:相続税法や財産評価基本通達などに基づき算出される価格

固定資産税評価額:地方税法における固定資産税評価基準により算出される価格

一般的に、公示価格(上記②)を基準とし相続税評価額(上記③)は約80%、固定資産税評価額(上記④)は約70%の水準とされている。また、時価(上記①)と公示価格は特に都市部においては大きく乖離することが多く、昨今の好調な不動産市況においては時価が公示価格の倍以上というケースもある。

検証として、時価が公示価格の1.5倍であったと仮定すると各価格は図表3のとおりとなる。

時価を基準とすると、本件仮定においては相続税評価額の割合は時価に対して約50%の水準となる。

家屋の価格

家屋の相続税評価額は固定資産税評価額を採用する。当該固定資産税評価額は、市町村に選任された固定資産評価員により算出され決定されるが、昨今の建築費上昇においては、固定資産評価額は建築費の半分程度となることが一般的である。

したがって、現状の建築費を100とした場合に固定資産税評価額を50とすると図表4のとおり整理できる。

追加不動産を賃貸用とした場合の相続税評価額

たとえばアパートやマンションなど賃貸用不動産を購入した場合の相続税評価は、土地建物それぞれ以下のとおり計算される。

土地

賃貸に出している土地は「貸家建付地」という。

《計算式》

自用地としての価格-自用地としての価格×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

注)借地権割合……国税庁が公表している「路線価図」において、対象不動産に接道する道路に記号が付されている。当該記号の割合は下記のとおり。

A:90% B:80% C:70% D:60% E:50% F:40% G:30%

当該記号の割合を計算式に当てはめ、計算する。

注)借家権割合……30%

式を見ると複雑であるが、貸家建付地は借家人に賃貸していることにより、土地の利用阻害(たとえば、自用で使いたい購入者には売れない、解体において立退きが必要など)があるため、当該利用阻害分が自用地に比べて控除されていると考えればよい。

建物

貸家については以下の式となる。

《計算式》

固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合

土地と同様に、賃貸としていることによる利用阻害分が控除されると考えればよい。

具体的な数字で検証

前述の土地建物の計算式をもとに賃貸用不動産を追加購入した場合の検証を行う。なお、借地権割合は都市部の市街地で多い70%(記号「C」)を採用する。

このケースでは時価250の賃貸用不動産を購入したことで、課税資産を約60%減額することができている。都市部になるほど、時価と相続税の評価額との乖離が大きくなり、さらに賃貸に出すことにより相続税がさらに圧縮されることから「相続対策=不動産」という式が成り立つ。

また、銀行にとっても「相続対策が必要な個人=富裕層」であることから、融資においても良質な顧客であり、かつ銀行各支店の目標である融資残高を増やしたいとの思惑からも、不動産による相続対策が勧められる。

まとめ:なぜ相続対策で不動産が提案されるのか?

・時価と相続評価に乖離があり課税資産の圧縮に適していること

・賃貸用不動産の場合はキャッシュフローがあることから素人でも比較的安定的に所有可能であること

・銀行にとっても顧客の不動産購入は融資残高を増やす機会であること

・都市部の不動産は流動性が高いことから将来的に売却することも容易であること

・不動産は他の資産などと比べても高額であり、不動産業者(デベロッパー、仲介業者、ハウスメーカーなど)にとっても売上に大きく寄与するため積極的に提案すること

・関係者全員がWIN-WINになること

ただし、昨今不動産による相続対策に対しては、税改正や最高裁による判決などにより想定していた効果が得られない事象が多くでているため留意が必要である。その点については、別の機会に触れてみたい。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

(※画像はイメージです/PIXTA)