2023年3月末、東証はPBRが低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請した。本記事では『これから3年 株で攻める!』(すばる舎)から、PBR1倍未満の銘柄に注目すべき理由を著者の杉村氏が解説します。

外国人投資家の大幅買い越し転換が示す「日本企業の変化」

東証は2023年の3月末、PBR(株価純資産倍率)1倍未満の企業に対して株価を上昇させるための具体策を示し、それを実行するよう要請した。これは、政府(経済産業省)が東証と連携、PBR1倍割れの企業に対し、「何とかしなさい」と是正を求めたものであり、「ため込んだ現・預金(未稼働資産)を有効に使え」と警告しているのに等しい。積極経営の推進である。

つまり、東証(政府)はROE(株主資本利益率)の改善(上昇)を上場企業に求めているのだ。この要請は資本効率の向上とともに、「株価を意識した経営」につながるが、そうなれば市場にお金が回り、経済は活性化するだろう。

2013年、日本再興戦略(企業統治改革)が推進され、10年が経過した。企業はどう変わり、どう変わろうとしているのだろうか。ちなみに、この間、社外取締役3人以上の選任比率は9.9%が86.6%に、総還元額(配当+自社株買い)は12.3兆円が22.6兆円に、親子上場の企業数は417社が219社に、株主総会集中率は52.9%が26.0%になどと、大幅に改善されている。

外国人投資家は、こうした日本の企業サイドの努力を評価している。株式市場において、2023年に入っての大幅買い越し転換がその証拠だろう。

経営改善が必要な企業は「PBR1倍奪回作戦」を展開

反面、肝心のROEは10年前と比べ8.9%とほとんど変わらず、TOPIX(東証株価指数)ベースのPBRは1.22倍とまったく向上が見られない。逆に、東証プライム上場企業の現金・預金残高は145兆円→300兆円と倍以上に増えている。これではROEが上昇せず、PBR1倍割れが解消するはずがないだろう。

東証が進める経営改善要請以降、PBR1倍割れを克服した主力企業も少しずつ増えてきた。しかし、日本を代表する主力企業でありながら、PBR1倍割れに陥っている企業はまだ数多く存在する。これらの企業は早晩、「PBR1倍奪回作戦」を展開すると思う。いや、そうしなければならない状況となりつつある。

それは政府、東証の〝官製圧力〟によるものだけではなく、マーケット、投資家の視線が厳しさを増している点にある。

このためには、自社株買い、増配に加え、M&A、設備投資、賃上げなどが有効となる。すでに2022年の日本企業の自社株買いは9.2兆円と史上最高だったが、アメリカ企業の約100兆円と比較すると少なすぎる。

「PBR1倍未満銘柄」を狙うのは、理にかなった投資手法

だが、心配は無用だ。株式投資を取り巻く環境は着実に改善、個人の金融資産が動き始めている。

アメリカは1980年代前半に「株式の死」論争があった。「ウォール街は死んだ。この街が再び活気を取り戻すことはないだろう」と。しかし、当時のレーガン大統領が唱えたレーガノミクス(アメリカ再構築政策)によってよみがえった。NYダウは実に、50倍になっている。日本はアメリカのあとを追うだろう。

改めて述べるまでもない。資本主義社会において経済活動の根幹を成すのは企業である。日本が直面した「失われた30年」の主因は政治の迷走、日銀の政策ミス(デフレ、円高を放置し、産業の空洞化を容認)だけではない。企業の怠慢があった。実際、日本企業の成長性、生産性は著しく伸び悩んだ。しかし、ここにきてそれがようやく変わりつつある。したがって、長期的に株高になるのは当然だろう。

筆者は、2022年以降、トヨタ自動車7203)など主力優良株の買いを強力に提唱してきた。「PBR1倍水準が〝最低水準〟だ」と。当時、マーケット、市場関係者などはこの見方に冷淡だったが、トヨタ自動車の直近のPBRを見ると、1.14倍となっている。まずはやれやれである。

トヨタ自動車がそうであったように、経営努力を続けるPBR1倍割れの銘柄を仕込み、1倍を超えたところで手仕舞いすれば確実に利益を確保できる。単純なロジックだが、これほど分かりやすく、理にかなったやり方はないのではないか。

繰り返しになるが、「PBR1倍を目指せ」という強い要請は、もともと経済産業省が言い出したことだ。これに東証が追随した。狙いは511兆円の内部留保の有効活用である。当局はPBR1倍超の企業に、「さらなる改善」を求めている。

こうしたことから「日本を代表するPBR1倍割れ企業」、「市場降格リスクを内包する低PBR企業」、「PBR1倍奪回作戦に積極的な企業」にとくに注目したいところだ(具体的な30銘柄は、著書の『これから3年 株で攻める!』(すばる舎)で紹介している)。

杉村 富生

経済評論家、個人投資家応援団

※本記事は『これから3年 株で攻める!』(すばる舎)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。また、投資による結果に編集部は一切責任を負いません。投資に関する決定は、自らの判断と責任により行っていただきますようお願いいたします。

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