コルベット」とはどんな種類の艦艇を指すのでしょうか。「駆逐艦」や「空母」のように日本語訳がないのも気になるところです。

一度消滅した艦種だが20世紀に復活

ロシアによるウクライナ侵攻の後、よく「〇〇級コルベット」が損傷を負った、などというニュースを耳にします。そもそもこの「コルベット」とはどんな種類の艦艇を指すのでしょうか。なぜ「駆逐艦」や「空母」のように、日本語に訳した呼び名がないのでしょうか。

日本では、Aircraft Carrier(空母)、Cruiser(巡洋艦)、Destroyer駆逐艦)、Submarine(潜水艦)といった形で、艦艇の種類を直接カタカナで発音せず、日本語訳した言葉を使うことが一般的です。ただ例外がふたつあり、ひとつが前述した「コルベット」、もうひとつが「フリゲート」です。

コルベット」と「フリゲート」は主に帆船や蒸気船時代に運用されていた艦艇の種類で、旧日本海軍1898年3月21日に定めた「海軍軍艦及水雷艇類別標準」で初めて軍艦の種類を区分けするようになったとき、手本としたイギリス海軍では「巡洋艦」に統合されていた艦種でした。そのため日本語訳が存在しないのではないかといわれています。

その後1930年代に「コルベット」は、沿岸部での潜水艦対策を主な任務とした小型の対潜艦艇としてイギリス海軍で復活します。同海軍はさらに戦中、駆逐艦より小型で対潜能力を持ち、量産性に優れたリバー級という艦を開発、これを後に「フリゲート」と呼称するようになります。

戦後はイギリス以外の国でも、沿岸で対潜などの防衛任務につく小型艦艇を「コルベット」、外洋に出るやや大きな艦を「フリゲート」、それよりも大きいものを「駆逐艦」と、なんとなく表記するようになりました。

東側は種類が多すぎてややこしいことに!?

しかし、戦後しばらくすると、艦種の呼び名はかなりややこしくなります。

1970年代から2015年までポルトガル海軍が運用したバッティスタ・デ・アンドラーデ級コルベットは、かつて同国が有していた植民地の防衛に対応するために、全長89.6m、満載排水量1380トンを有し、対潜能力のほかに、大型フリゲートのように船体後部にヘリコプター甲板を備えました。そのため、沿岸だけではなく、外洋でフリゲート駆逐艦などと共同で任務を行える能力を備えており、見た目だけなら「フリゲート」と変わりませんでした。

また、ソビエト連邦を中心とした東側陣営で、「コルベット」はさらに別の進化を遂げています。

東側陣営では、沿岸部に接近した揚陸艦輸送艦を撃退するため大型の魚雷艇などに対艦ミサイルを取り付けた艦艇が開発されていました。しかし、その大きさでは不安があるということで、全長59.3m、基準排水量671トンの新造ミサイル艦が1967年に就役します。ソ連で「1234型小型ミサイル艦」と呼ばれた同艦は、北大西洋条約機構(NATO)などの西側陣営ではナヌチュカ型コルベットと呼称され、コルベット扱いされることとなります。

このミサイル艦(コルベット)はソ連崩壊後のロシアでも発展していきました。最新鋭の22800型小型ミサイル艦(NATOの呼称ではカラクルトコルベット)は、2022年2月に始まったウクライナ侵攻で「カリブル」巡航ミサイルを発射し地上施設攻撃を行ったほか、将来的には極超音速ミサイル「ツィルコン」の運用も考えられており、西側陣営の駆逐艦フリゲートのように運用されています。

そんなカラクルトコルベットは全長77m、満載排水量は870トンと、どちらかといえば小型です。その一方、インド海軍で配備されているカモルタ級コルベットは全長109mで満載排水量3150トンもあり、排水量ではフランス海軍が運用しているフロレアルフリゲートの満載排水量2900トンを上回る数字となっています。

戦後直後こそ「コルベット」の大きさはなんとなく決まっていましたが、現在はその国の運用方法によって、大型でも「コルベット」と呼ぶケースが増えています。また「フリゲート」に関しても大型化しており、「駆逐艦」の大きさの境界もなくなっています。

コルベット」「フリゲート」「駆逐艦」--その違いは今や、運用している国の海軍がなんと呼ぶか程度の差しかなくなっており、艦種だけで大きさを想像することは困難になっています。

なお日本では、1945年の敗戦で旧海軍が解体されたことで、「海軍軍艦及水雷艇類別標準」のような分類法は消滅します。その後に創設された海上自衛隊では、「DD」「FF」など厳密には用途を分ける艦種記号を用いていますが、基本的に水上艦艇は全て「護衛艦」と呼んでいます。大雑把な分類法ですが、海外の艦艇の境界がごちゃごちゃになっている21世紀の今に意外とあっているのかもしれません。

※一部修正しました(3月7日10時00分)。

ミサイルを発射するロシアのカラクルト型コルベット(画像:ブラジル空軍)。