2月27日よりディズニープラスで配信スタートしたドラマ「SHOGUN 将軍」が、日本のみならずアメリカのレビューサイトでも高評価を得て、好調な滑り出しを見せた。ハリウッドの制作陣が戦国時代の日本を描く同作では、真田広之が主演とプロデューサーを務めている。また2024年に公開された作品では、賀来賢人が「忍びの家 House of Ninjas」で、大沢たかおが「沈黙の艦隊」でそれぞれプロデューサーに。そして、佐藤健がプロデューサーを務めるドラマ「グラスハート」が2025年に公開されるとの発表もあった。日本人俳優たちのなかで新潮流となりつつある、俳優がプロデュースもすることの魅力を探ってみたい。(以下、作品のネタバレを含みます)

【写真】圧倒的な存在感…!甲冑姿で馬に跨がった真田広之“虎永”

ハリウッドでは定番化している俳優兼プロデューサー

映画やドラマにおいてプロデューサーの役割は多岐にわたる。作品にもよるが、責任者として企画の立ち上げから資金調達、キャスティングやスタッフの選定まで携わることが多い。そしてクリエイティブ面でも監督・ディレクターとともに舵取りを行う。

ハリウッド映画では、「ミッション:インポッシブル」シリーズのトム・クルーズや今年度のアカデミー賞にノミネートされている「哀れなるものたち」のエマ・ストーンをはじめ、ブラッド・ピットレオナルド・ディカプリオシャーリーズ・セロンら、賞レースもにぎわせる実力派俳優たちがプロデューサーとして名を連ねている。

日本はというと勝新太郎さんなどの例はあるが、ハリウッドに比べ映画でもドラマでもそれほど多くない印象だった。そんな中、ここ最近世界配信のドラマで立て続けに第一線で活躍する俳優が出演とプロデューサーを兼ねるというニュースを耳にするように。そして2024年2月は、そのうちの3作品が相次いで配信スタートした。

大沢たかお自ら原作者へ企画プレゼンした「沈黙の艦隊

2月9日よりPrime Videoにて240以上の国や地域で独占配信中のAmazon Originalドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~」(全8話)では、大沢が主演兼プロデューサーを務めている。

同ドラマは、2023年9月に劇場公開されて大ヒットした映画「沈黙の艦隊」の物語に未公開シーンを加えて構成。大沢演じる主人公・海江田四郎が、原子力潜水艦乗っ取り、独立国家の設立を全世界に宣言し、日本政府を相手に緊迫の潜水艦バトルと交渉劇を繰り広げていく。

原作は、かわぐちかいじ氏の同名コミック。映画「キングダム」の撮影中に松橋真三プロデューサーから出演とプロデュースも担ってほしい、と提案され、原作のファンでもあった大沢は快諾。かわぐち氏の元へ企画プレゼンに出向いた他、防衛省自衛隊への協力依頼も自ら連絡を取り、「熱意的なプレゼンに皆さん心打たれていました」と戸石紀子プロデューサーが語っている。企画段階から周囲を魅了する熱意あふれた交渉術は、俳優として“見せる”ことに長けた経験も生きているのではないだろうか。

大沢の存在感は、制作陣にも心強かったはずだが、見る側としてもそれほどに注力した作品であればと期待が高まる指針ともなる。もちろん演技もこれまでの実力通り、とてつもない計画をする人物を、凛とした雰囲気で演じ、物語に引き込むことに成功している。

なお、配信開始後4日間時点の国内視聴者数で実写作品の歴代1位を記録する反響となった本作は、2月20日に続編制作決定の発表がされた。

■「忍びの家 House of Ninjas」で日本の空気を変えようとした賀来賢人

続いてNetflix2月15日に配信スタートした「忍びの家 House of Ninjas」(全8話)は、主演の賀来が共同エグゼクティブプロデューサーを兼ねている。

当メディアのインタビューで賀来が明かしたプロデュースのきっかけは、俳優仲間であり、今回の作品にも重要人物で出演している山田孝之がプロデュース業をしていたことだという。海外では行われていることが、「日本ではやっちゃいけないみたいな空気」をどこかで感じていた賀来。それを打破することで、「もっと作品の幅も広がるのでは」という思いも。

2020年秋にNetflixに企画を持ち込み、実現することになると、原案も手掛け、共同エグゼクティブプロデューサーとしてクリエイティブ面を担った。脚本の内容、編集をどうするかといったことは、俳優ならではの着眼点があったに違いない。ただ、演技に集中するため、すべての現場に参加するのはやめることにしたともいい、俳優としての力も最大限に出すよう、バランスをとっていたようだ。それにより作品の質が保たれている。

本作は、現代に生きる最後の忍び家族をテーマにし、海外でも注目。配信開始後の4日間のNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ、2月15~18日)で初登場2位、翌週(2月19日~25日)には1位に躍り出た。「命懸けの作品」と語っていた賀来の思いが見事に昇華されている。

真田広之の正しく日本を見せる力が込められた「SHOGUN 将軍」

そして、ディズニープラスのスターで配信中の「SHOGUN 将軍」は、真田が「あらゆるものをこの作品に注ぎ込んだ」ドラマだ。そこにあったのは「日本の文化を正しく世界に紹介したい」という強い思い。

これまでもハリウッド制作の作品に出演してきた真田だが、日本人キャラクターが登場し、描かれることに対して「どのプロジェクトでもできるだけ直そうとしたり、コンサルティング的なことはずっとしていたのですが、やはりイチ俳優としてできることの限界をずっと感じていました」とのこと。

それを、本作では初めてプロデューサーという立場で、しっかりと伝えた。

「SHOGUN 将軍」は、1975年に発表されたジェームズ・クラベルの小説「将軍」が原作。日本の戦国時代を舞台に、徳川家康ら歴史上の人物からインスパイアされた登場人物たちの物語が展開する。

真田の思いに共鳴した日本映画界で時代劇経験豊富なスタッフが集結し、脚本はもちろん、衣装デザイン、美術の構想段階から徹底した時代考証を実施。撮影でも動きや所作、せりふの一言一句まで、本物の日本にこだわった。

第1話の始まりは、のちに按針と名乗るようになる英国人航海士ジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)ら船の乗組員たちが日本の熱海沖に漂着し、捕らえられるところから。そして、場面代わって、主人公・吉井虎永(真田)の登場。鷹狩りをしている様子は家康を想起させ、時代劇好きもニヤリとする描写でありつつ、真田の醸し出す虎永の威厳がさすがだ。

その虎永と按針が出会う様子が描かれていくのだが、「お主」「~ではござらぬか」「~ゆえ」といった武士ならではの言い回しも、まったく違和感がない。また、虎永が招かれる大坂城の内部はスタジオ内に建設されたというが、絢爛豪華な襖絵など城の造りも見事。

衣装も真田がコスチュームデザイナーに「正しい生地を使ってくれ。日本の生地でなければならない」と依頼したという。そして舞台が戦国時代ということで鎧も必須だが、こちらは時代考証した上で革を選択し、それにより実現できた軽量さでアクションシーンをきれいに見せられることになった効果も。

細やかなところまで心配りされたことが、本編を見ればよく分かる。“本物の日本”にハリウッドの壮大さが融合した本作は、アメリカのレビューサイト、IMDbでは10点満点で9.2、Rotten Tomatoesでは99%の評価スコアを獲得(※いずれも3月6日現在)するほど、世界も魅了している。

この3作品を通して分かるのは、俳優たちの思いが作品をより良いものへと導いている。もちろん、演者としてだけでも力を発揮しているからこそ、第一線で活躍しているのだが、その経験も生かして制作側に加わる力強さがある。いつも以上に彼らが内から湧き出るものをプラスした作品は大いに興味も引くことだろう。

2月末には、新たにNetflixで佐藤が主演と共同エグゼクティブプロデューサーを務めるドラマ「グラスハート」が2025年に全世界配信されると発表があった。佐藤は「韓国ドラマが世界中でヒットするようになり、日本の実写作品も同じように世界中に愛されるものになってほしいと思うようになりました。それはぼくにとって初めてできた目標であり夢のようなものでした」と思いを語っている。

エンタメファンにとってうれしいこの俳優×プロデューサーの潮流が、まだまだ続いていくことが楽しみだ。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

「SHOGUN 将軍」大ヒット祈願イベントに登場した真田広之 /※2024年ザテレビジョン撮影