コロナ禍以降に急速に普及したライブ配信。ユーザー数は増え続け、配信だけで生計を立てるライバーも今では珍しくなくなった。しかし、巨大化する市場では今、投げ銭を煽る過激な仕組みができあがっているという。実態を探った!

◆過激な露出で“投げ銭”を引き出すライバーたち

 ハート、フラワーシャワー、花火……サンタコスプレの女性が歌声を披露する配信ルームでは、視聴者が課金して手に入れた有料アイテムが次々に飛び交う。いわゆる投げ銭だ。

 ライバーたちは、配信中に視聴者と交流しながら巧みにそれを引き出す。配信内容はさまざまで、雑談や演奏などのパフォーマンスもあれば、過激な露出を売りとする違法スレスレのものまである。

 ライブ配信が市民権を得るようになったのは、コロナ禍の’20年頃。その後もユーザー数が増え、現在「17Live」や「SHOWROOM」など、10以上のプラットフォームがひしめいている。

 さて、ライバーの収益の柱となっているのが冒頭の架空の有料プレゼント。ライブ配信の黎明期からライバーを応援している20代後半の女性は、最近ではあまりに課金に偏重していると不満を漏らす。

「ポコチャの場合、誰が月にいくら課金したかが画面上で視覚的にわかるようになっています。リスナー(視聴者)をグループ分けすることもできるので、課金する人とそうでない人を区別することもできてしまうのです」

 つまり、上客がリストアップされているのだ。ライブ配信で1億円を稼いだという福岡みなみ氏が’22年に書籍を刊行し、ライバーが稼げる仕事として話題になったが、実際そう簡単に稼げるのか。

 ポコチャで活動するライバーのさこあやさんはこう明かす。

「コロナ禍の’20年7月から始めましたが、わりとすぐに月8万円ほど稼げました。週に4〜5回、最低5時間を目安に配信すると、開始して3か月後には生活費を賄えるほどになりました。おそらく同世代の平均年収の倍以上は稼いでいるでしょう」

◆課金中毒者を生み出す、驚きのカラクリ

 収益向上に貢献するのは、プラットフォームが企画するイベントだ。これが過激化の一因にもなっているのだ。

「テレビ番組の出演やプロ野球始球式、都心の屋外広告に出演する権利など、さまざまな権利を勝ち取るためのイベントがあります。どうしても出たいイベントに参加して、月収が100万円近くになったこともあります」(さこあやさん

 ライバーにとってメリットの大きいイベントだが、ポイントランキングが公表されるため、少しでも順位を上げようと、課金をエスカレートさせている側面もある。妻に内緒で配信を楽しんでいる40代の会社員男性が言う。

「小遣いをやりくりして月2万円ほど課金してライバーを応援していましたが、イベントで課金する機会が増え、今ではその倍以上の額を使っています。月に30万円突っ込んでいる知人もいますよ」

◆「このままじゃ負けるから、“爆投げ”(大量課金)をして」

 熱心な視聴者は、推しのためなら多額の課金も厭わない。ファン心理を利用したやり方に、男性は疑問を呈する。

「出演時間がたった1分のライブや聴ける人が限定されるコミュニティFM番組の出演権獲得を名目に課金を煽りますが、そんなもの後押ししたところで、本当に推しの夢が叶っているのかと疑問です。にもかかわらず、推しのために大金を注ぎ込む人も多い」

 課金を煽る仕組みができあがっているわけだが、ライバーをマネジメントする事務所も加担している。元事務所スタッフのAさんが明かす。

「獲得ポイント数でイベントの勝敗が決まるため、ラスト5分くらいになると『このままじゃ負けるから、“爆投げ”(大量課金)をして』ってライバーがリスナーを煽って大量課金合戦になることもしばしばですよ」

◆大量課金を煽るライバーの裏には…

 こうした行為の裏には、プラットフォーム側のインセンティブが関係している。

「ライバー事務所は、ライバー個人からピンハネせず、プラットフォームからのインセンティブが収益源なんです。ユーザーが課金した額が多ければ多いほど、インセンティブも多くなる。

 ’20年頃、某プラットフォームは多くのライバーを囲い込むため、事務所に最大1780万円の特別報酬を支払う企画を行ったこともありました」(Aさん)

◆「数千ポイントを投げればヤレる」

 多額の投げ銭を獲得すればライバーの収入が増えるが、一方で“色恋営業”に手を出すライバーたちもいるとか。

「裏特典として、10万円以上課金したリスナーにLINEアカウントを教えるライバーがいました。さらに、数千ポイントを投げればヤレるみたいな話もこの世界ではよく聞きます」(前出の40代男性)

 ライバー同士の競争が激しくなるなか、イベントと並んで課金スキームとして過激化しているのが対決配信だ。

 例えば「TikTok LIVE」では、画面を2分割して対決形式でライブ配信を行うことができるが、勝ったライバーがアイテム(投げ銭)を総取りできるため、相手を侮辱するような発言や行為も多い。

◆ユーザーと会って、殺人事件に発展したケースも

 過激化するライブ配信だが、ITジャーナリストの高橋暁子氏はこう警鐘を鳴らす。

「ユーザーにとって、推しの配信ルームは居場所なので、それを失いたくなく、無理をしてでも投げ銭をしてしまいます。特別扱いもしてもらえるので、それが快感になって感覚が麻痺していくのです。

 ライバー側も稼ぎたいので、ファンの要望に応えようと、不用意な行動を取るようになる。ユーザーと実際に会って、殺人事件に発展したケースもあります。

 また年齢認証の仕組みが甘く、中高生が親のお金で投げ銭するなどのトラブルも後を絶たない。過度に煽る仕組みについては、ある程度規制するべきです」

 健全なライバーが恩恵を受けられるような仕組みに変えていく必要がありそうだ。

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA

―[過激化する[生配信ビジネス]の闇]―


歌手として活動を行うライバーのさこあやさん。プロモーションの一環でライブ配信を始めたことがきっかけだという