明治の黎明期を舞台にしたオリジナル時代劇「明治撃剣-1874-」(以下「明治撃剣」)。BS松竹東急で放送中だが、見た人の多くが史実を織り交ぜてのその骨太な群像ドラマに魅了されている。シリーズも残り4話となり、ここから物語はさらにグルーブ感を増して盛りあがっていくこと請け合いだ。
 そこで、これまでの振り返りの意味も含めて、本作の監督・玉村仁さんとシリーズ構成・戸塚直樹さんに、企画の経緯からキャラクターや物語の構築などを徹底的に伺った。

主人公ではなくラスボス・武兵衛ありきのスタート

──「明治撃剣」の企画の経緯から伺えますか?

玉村:実を言えば自分が参加した頃には、もう脚本が8話分くらいまでできあがっていたんですよ。ですからストーリーや登場人物についてはつむぎ秋田アニメLabの社長の櫻井司さんと戸塚さんとでつくりこんだ感じなんです。自分はキャラクターデザインを含めてのビジュアル面でのコンセプトづくりを中心に、監督として携わらせてもらいました。

戸塚:そうでしたね。企画を立ちあげはじめた2017年頃は、まだ前身のつむぎ作画技術研究所でした(笑)。元々アメリカの製作会社さんが企画した、「明治撃剣」とは別の明治時代を舞台にした作品の設定周り等の手伝いを依頼されてたんです。ところがその作品が白紙になってしまい……。そこで明治時代の日本を舞台にする部分は引き継ぎつつ、全く新しい企画をこちらから提案したところ、OKになったと(笑)。とはいえ、僕らも明治時代のことには詳しくなかったので調べてみたら、明治初期に警視庁が設立されるので、そこを起点にしましょうと。具体的な物語を櫻井と僕とで詰めはじめたときに、櫻井が「海外のお客さんへの掴みとして、金髪碧眼のサムライをラスボスにしよう」とアイデアを出して。そこからの逆算で、ポリスが金髪碧眼のラストサムライの陰謀を暴く話で考えはじめたんです。さらに調べていったらジョン・ヘンリー・スネルという、イメージにピッタリのプロイセンドイツ)出身とされる商人がいたんです。しかも本当に裃を着たり、平松武兵衛という日本名を会津藩主・松平容保からもらっていて、これは良い!と。

──平松武兵衛からのスタートだったとは!(笑)

戸塚:そうです。絵としても「金髪碧眼のラストサムライ」ってカッコ良いですし。彼が日本にいた時期は幕末から明治初期だったので、そこで具体的な年代も固まりました。つまり武兵衛がラスボスだから会津を絡めることになって、静馬が出てきたわけです。警察のはじまりもちょうどその頃なので、それらを踏まえた上で海外ウケするヤクザニンジャ、ゲイシャの3要素を全部成立させるものとして考えたんです(笑)

──玉村さんは、どういう経緯で参加することになったんですか?

玉村:櫻井さんには僕が業界に入ったときからお世話になっていて、一度ちゃんと恩返ししたいと思っていたんです。それで監督を探しているということでお引き受けしました。自分の役割としては純粋な意味での映像演出面を形づくるようなところに専念させてもらいました。

戸塚:時代劇の空気感とかを、色々とがんばってもらいました。

玉村:そうですねぇ。時代劇もでしたけど、自分は昔の邦画の任侠ものをよく見ていたので、ヤクザダークサイドな連中の描写はちょっとこだわってやってましたね。賭場とか指詰めするところとか(笑)。指詰めのカットは自分でラフ原画に演出指定紙を乗せて修正しました。指を詰めるのに、そのドスの持ち方じゃ力が入らないだろ! って(笑)

──シリーズ構成で考えられたことは?

戸塚:リアルにしたいというクライアントさんの要望もあり、史実にはのっとりつつ、シリーズを3つのパートに分けて構成していて。第3話までが実写さながらに明治時代の空気感を見せて、同時に現在の澄江がどうしているのか? をミスリードで引っ張ると。第4話~第6話が大日本撃剣会を舞台にして、アニメならではのアクション中心の話をもってくる。そして第7話から先が、表面上は史実通りではあるけれど解釈をわざと変えて、荒唐無稽な面白さを描く話になります。

──史実に沿いつつ、独自解釈の「if」を忍ばせるのがミソですね。

戸塚:21世紀の現代から見ると、もはや明治時代そのものが「ファンタジーの世界」に近いじゃないですか。その当時に存在したものを画面上で再現するだけでも、ファンタジー的な面白さは出ると考えたんです。だからストーリー面ではifにしない。ただ解釈を変えたら、史実を忠実に再現する作品には出せない驚きが出せるんじゃないか? じゃあ、そこにチャレンジしてみようと。

──実在の新政府側の人物も意外とダーティな面を垣間見せますよね。

戸塚:作劇的に汚れ役を引き受けてもらう場合、どこまでやってもらうかの線引きは気をつけました。ただ広い意味では間違ってないけれど、みんなが抱いてるイメージとは多分違うかな?と(笑)。新政府の要人達は進歩的で理想に燃えていて、法律を整えた人みたいな側面を描くドラマはそれこそ昔からたくさんあるし、これからもつくられていくだろうから、わざわざやる必要もないだろうという気持ちもあって。

玉村:言ってみれば、お行儀の良い「司馬遼太郎史観」の向こうを張ろうってことです(笑)

戸塚:負けて歴史のなかに消えていった人達から見たら、こういう見え方もしたんじゃないのかな? と。そこに踏み込んでみたわけです。

現在、過去、未来を象徴させたキャラクター配置

──どう発展させて、静馬が主人公の話になったのですか?

戸塚:まず明治の黎明期は歴史的に色々起こるタイミングなので、それを盛りこんでいくことにしたんです。でも海外の人にも分かりやすく、警察が悪の陰謀と対峙する王道のスタイルにするために、静馬をその陰謀を追う警官と設定しました。実際、西郷隆盛が下野した明治6年頃は、元薩摩藩士の多くは西郷とともに鹿児島へ戻ってしまい人手不足になっていて、ポリスは元会津藩士も採用してたんです。ちょうど赤坂喰違の変(岩倉具視暗殺未遂事件)が警視庁創立の前日なので、そこをきっかけに静馬がポリスに入るかたちにもってこようと。

玉村:BS松竹東急さんでの初回放送日がちょうど赤坂喰違の変から150年で。

戸塚:そうでしたね。タイミング良く偶然にも(笑)

──彼が生き別れの許嫁を捜し求める恋愛要素は、主人公の縦軸のドラマとしてですか?

戸塚:そうです。会津藩士だった静馬の当時の本懐は、城での討ち死にだったわけです。本人的には潔く死にたいけれど、友人との約束があるから死ねない「枷(かせ)」がある。本編では「呪い」といってますけど。この作品は、過去に囚われている人、現在を懸命に生きている人、未来のために今を創っている人と3つに分けてキャラクターを設定しているんですが、静馬はスタートは許嫁を捜さなくてはいけないという過去に囚われていて、無理やり生きてる……だから切腹して死にたいけれど友は介錯してくれないという夢を見たりするんです。それが警察に入って生きていくなかで、今を生きて市井の人達を守っていこうとなっていくんですね。だから雛鶴(澄江)は、静馬が捜し求めている過去の象徴でもあります。同時に雛鶴自身も過去に囚われていて復讐に生きている。そんな2人を、古き良きすれ違いの恋愛ドラマで中盤までは見せていこうと。

──じゃあ武兵衛や狂死郎も、過去に囚われてると?

戸塚:その通りです。川路や大久保未来のために今の日本をなんとかしようと考えていて、そのためには手を汚す必要もある。そういう現在、過去、未来を象徴するかたちにしてるんです。

──静馬のデザイン発注で、玉村さんからお願いされたことは?

玉村:会津の鬼殺しという二つ名の屈強な大男という設定がすでにあって。自分としては、こういう主人公像って昔の作品では良くあったと思っていて……昔の洋画でいえば、グレゴリー・ペックやゲーリー・クーパー。もう少しくだるとシルベスター・スタローンアーノルド・シュワルツェネッガーとか。静馬は、そんなマッチョな主人公観がすごく魅力的に感じたんですよ。そこがちゃんと際立つデザインになるように、作中登場するキャラのなかでも特に筋肉質な肉体が目立つようにしてもらってます。そんな体格の男だから巡査服もなかなか合うサイズがなかったと思うので、極力ピチピチにデザインしてもらってて(笑)

戸塚:第2話ではサイズの合うブーツの支給が間に合ってなくて、わらじを履いてるんですよね。

玉村:でもほとんど足元が画面に映らないので、分かりにくいんですが(笑)。そのうえで、服という鎧をまとっているという捉え方もしていて。静馬は意外と熱血漢で、その直情的な部分をピチピチの巡査服で押さえつけているように見えればと。それに、死に損なってるけど死ねない、ある意味自分を押さえつけて生きている面があるじゃないですか。過去と未来の狭間で葛藤している部分もありますし。そういうところが絵柄から感じられるようになればと。それとイケメンぽくない鼻の形とゲジゲジ眉毛が良い味付けになりました(笑)

復讐に燃える女と最先端の自由な女性

──雛鶴は、武兵衛の手先の女暗殺者という設定ですが。

戸塚:アメリカの製作会社さんの要望としては集団劇的なかたちでの時代劇ということで、主人公格を男女2人ずつ出してもらえないかと。それで女性の主人公格で考えたのが雛鶴とせんりでした。ですが現代的な感覚としては、ただ愛する男性を想い運命に流されるだけの悲劇のヒロインは避けたいと。そこで雛鶴は、戦で許嫁が奪われたと思っていて、それに対する落とし前を自分自身でつけたいと考える強い意志を持っている。しかも銃の腕前も確かな、復讐に燃える女性になったんです。史実的にも会津戦争では女性の狙撃手みたいな人がいましたし。

──なおかつ、表の顔は芸者と。澄江と雛鶴のデザインはどちらが先だったんですか?

玉村:雛鶴が先でした。静馬の許嫁だとが分かることも、ちゃんと狙いとしてもちつつのかたちでお願いもしていました。人気芸者としてしっかり美女としてみえることはもちろんですけど、暗殺者としての顔ももっているので、いわゆる魔性の女……妖艶さであるとか。それとちょっとしたアンニュイさ。そうしたところが感じられるよう作ってもらいました。特に瞳のデザインは他のキャラと被らないように、ややシャキッとした感じにしてもらってます。上目づかいで見られた時に、相手の心を射貫くような「目力」が感じられるように。芸者仲間に囲まれているときや、街中でもまだ髷を結った女性が多い時代ですから、そんななかでも際立つようにと思ってました。

──人気芸者ですから、ひときわ目をひく意味でもそこは大事ですよね。

玉村:ええ。それと白粉をした白い顔で、幸薄い感じや生気のない部分も印象付けられたと思います。澄江は雛鶴から魔性さみたいな部分を抜いてもらいつつ、でも目力はその頃からあるように。それで、苛酷な会津戦争のなかでも生き抜いたバイタリティみたいなものが出せたかなと思います。それからこれはメインキャラどれにも言えますけど、役者さんの力も大きいです。特に雛鶴と澄江は、同じ人を意識して演じてくださったので、そのキャラクターの固有性はデザインだけでなく声でもかなり出してもらえたので、助かりました。

──静馬と雛鶴を結ぶ手がかりの折り紙というアイデアは?

戸塚:海外向けなので、日本的なもので海外の人にも分かるものということで。それと静馬と澄江(雛鶴)しか折れないことにして、2人にだけ通じる視覚的な符牒という意味合いで選びました。

──なるほど。日本人からすると折り紙は割とありきたりだから、逆に気が利いたチョイスに感じました。

玉村:でも外国の人からすると「オー!エキゾチック!」って(笑)。ウサギというのは、もう脚本の段階で決まってましたよね。

戸塚:はい。ウサギは弾よりも速く逃げるとか物語上の比喩的・伏線的な意図と、本当に2人しか折れないようにするために……まぁ小梅も折れますけど(笑)、実はあのウサギはこちらで考えたオリジナルの折り方なんです。

玉村:かなり複雑な折り方ですよね。折り紙を折るカットのためだけに、3Dモデルをつくりましたからね!

──せんりも主人公格のひとりと言われてましたが。

戸塚:せんりは、過去、現在、未来の枠組から唯一外れた自由人という立ち位置のキャラです。外側から全体を俯瞰的に見ていて、すべての謎を解明する役割で。ある種の探偵役の目線でおいてます。同時に当時の最先端の女性の権利や自立といった意識をもっていて。だから男女差別も許せなくて、撃剣会で女は負けて当然みたいな空気には黙っていられないところもあると。

玉村:せんりはそういうちょっと時代を先取りしたキャラですから、デザインはある意味超越してるくらいにしても面白いんじゃないかな? と思ったんですね。それと語り部としての役割も強いので、極力視聴者視点に近いというか。身近に見える、いわゆるモダンで現代的なデザインに落としこんでもらいました。

──だからせんりはああいう服装なんですね。

玉村:それプラス、トリックスターとしての目立ちやすさも劇中では出ているので。イギリス人とのハーフとは言え、あの時代のなかであそこまで自立した女性像って珍しく見えると思うんです。そこをあえてやっていると見えるように作ってもらった感じです。自分としてはけっこう好きなキャラで、女スパイですけど色仕掛けは全然しないじゃないですか。そこが珍しいスパイ像にも見えるし。それでいて、やっぱり男から見ての女性らしさも感じさせて欲しいなと思って、髪はショートボブ風で体つきも細めで、華奢さや上品さも出してもらったり。ボディラインがしなやかに見えるような服装にもしてもらいました。ただ、変装しているかコートを羽織ってることが多いから……体のラインが見える基本の服をあんまり出せなかったことに、多少悔いがありますね。

──サブキャラの亀治郎と小梅の間に接点もできました。

戸塚:亀治郎と小梅は未来をつくるために生きる市井の人々の代表なんですよ。同時に維新がなかったらこうなっただろう、静馬と澄江も託してるんです。そこは最終回まで見てもらえれば、ハッキリ分かります。それと小梅は、第3話までのミスリード役としても必要だったので(笑)

玉村:あの2人は市井の人々代表だから、あまり突飛にならないように。レギュラーキャラとして最低限の特徴は出してもらいつつ……。でも小梅と亀治郎は、シリーズのひとつ癒やしとして機能してくれましたね。

アニメ的な派手さを狙った狂死郎と仲間のデザイン

──狂死郎を元庄内藩士の設定にした狙いは?

戸塚:当時の西欧諸国は、日本に対してスネルみたいな商人を使って迂遠に政治介入を図っていて。プロイセンは会津と庄内に接近していて、両藩の武器・資金の調達先だったので、庄内側の人間として狂死郎を設定して、静馬と狂死郎をライバル関係へと発展させていったんです。デザイン的にはリアル系の静馬に対して、ライバルキャラとしてアニメ的なケレン味が欲しかったので長髪で眼帯でと。

玉村:せっかくアニメでやるならという立て付けを意識して、いわゆる虚構性の高いキャラをイメージしました。静馬とライバル……対になるキャラなので、対比的にミステリアスで怪しくて冷徹な感じとか。静馬はゴツイ体格なので、それに比してやや色気を感じる体型で。だから狂死郎は細マッチョなんですよ。さらに背中には入れ墨があって。銀髪に眼帯もそうなんですけど見た目は派手な感じで。劇中でのリアリティはしっかり保ちつつも主人公然とした捻りも出るようにと、要素盛り盛りでつくってもらいました。ちなみに第2話で仁義を切るシーンは、任侠映画での池部良のイメージなんですよ(笑)

──狂死郎は洒落た服装ですね。

玉村:着流しだけだと少しすっきりしすぎだったので、マフラーをつけてインパネスコートも羽織らせたんですよ。

──狂死郎は、前半は守屋組でのし上がるのが目的のような描かれ方でした。

戸塚:物語の開始時点では、あえてヤクザの組織の中で成りあがっていく男と、それを追うポリスという雰囲気の立て付けにしてあるんです。だけど真の目的の武兵衛に近づくため、組長の信頼を得る画策をしていると第6話で明かされる。そんなミスリードもあるんですけど、ヤクザが成りあがっていくストーリーにして、ヤクザ映画の魅力をだしたいのがいちばんの理由です(笑)

──静馬と狂死郎は、話が進むなかで少しずつ接点ができていくつくりですが。

戸塚:作劇上、両者の接点がないままの群像劇で進むと、本当にバラバラになっちゃうじゃないですか。だから決定的に対立したときは戦うしかないけれど、そうなる前なら場合によっては共闘もできる。そういう配置にしてあるんです。決定的な対決のとき、互いに実力を認めあってるところから逆算すると、一度は共闘させておくべきだし。またこの2人が一緒に戦う姿をみてみたいのもあって。そこで第2話で早々にやったわけなんです。

──狂死郎の仲間の3人組は、見た目もキャラ性もいちばんアニメっぽいです。

玉村:狂死郎同様にアニメ映えして、なおかつ埋もれないユニークなキャラクターを狙っていて、デザイン的な統一性はあまり意識しないでOKとお願いをしました。そのうえで自分からオーダーしたのは、山田風太郎さんの作品……「魔界転生」あたりのイメージとか、某格闘ゲームの意匠とか(苦笑)。その意味では僕と櫻井さんの趣味がかなり入ってますね(笑)。2人とも格ゲー大好き人間なので。

──怪僧と巨漢と美少年という組み合わせも異彩を放ってました。

戸塚:そこはアニメやマンガでの古典的なパターンの、チビ・デブ・ノッポの発想を使いつつですね。一応リアルなかたちで、だけど多少逸脱しても良いようなケレン味あるキャラクターとして設定しました。ダリオの弓は、銃とは違う飛び道具という差別化です。幻丞の幻覚線香は、リアルな形で怪物をだすにはどうしたらいいか? そこでの落としこみですよね。愚円の俊敏さは、もう忍者だから。筋肉大移動も忍術です(笑)

玉村:戸塚さんがおっしゃった発想に基づいているので、全然フォルムが違うかたちにできたと思うんです。そういった個性も出しつつの実在感。奇抜さだけじゃなくて物語上の必然性があるバックボーンを背負ったキャラクターになるように配慮しました。そこは第7話で描かれるので、楽しみにしてほしいです。

──平松武兵衛のデザインは?

戸塚:現存する資料通りの姿だとアニメ的にあまり面白味がないのと、序盤は正体を隠さなくてはいけないので頭巾を被せました。裃(かみしも)は、ちょっとモビルスーツみたいなシルエットになりました(笑)

玉村:たしかにモビルスーツ感はありましたね(笑)。頭巾から伸びてる、すごい前垂れはデザイナーさんが独自につけてきてくれたものでしたよね。そうやってデザイナーさんのアイデアも先行していただいていたりして、自分としても悩みなくできあがりました。素顔もモデルがいましたし。

──そこはスネルに寄せてるんですね?

戸塚:いえ、顔は当時のアメリカの製作会社さんのプロデューサーがモデルになってるんです(笑)。

玉村:そうそう。結構フィクサー感ある風貌で、打って付けだったんですよ。

戸塚:ご本人にもちゃんと許可もらいました。ノリノリでOKしてくださいましたよね。

──この他、史実にそった人物のデザインについては?

玉村:大久保やパークスみたいにほぼそのままの人たちもいますし、結構ビジュアルを変えてる人物もいます。武市熊吉とか。だからわりと柔軟にデザインしてもらいました。ただそのうえでキャラクター性をしっかりだすようにと。それは史実の人物に限らずです。守屋組長や蔵屋とか腹に一物抱えた人物が多いので、いわゆる性格俳優的な見た目になるように心がけました。ハーベイ・カイテルとか、邦画なら岸田森成田三樹夫、田中邦衛とか(笑)。つまり癖のある外見で、その場面にいると目が吸い寄せられるようにしてくれと。だからモブも含めて全体的に主張強めなデザインなんです。キャストさんにもくどめに演じてくださいとお願いしてました(笑)

歴史の光と影を感じさせる美術デザイン

──シリーズ前半で印象深いのが、大日本撃剣会です。

戸塚:撃剣会は明治時代に実際にあった催し物です。食い詰め士族が食べていく手段として、武芸試合を見世物にする撃剣会という興行を、色々な興行師が各地で開いてたんです。それを使って格闘アニメっぽいトーナメントバトルを派手にいれていこうって(笑)。もう少し女性キャラを出して欲しいというクライアント的な要望もあったので、ここで中澤琴を登場させました。彼女も実在の人物です。自分より強い者と結婚すると決めてたのも史実通りで、結局生涯独身だったはずですが、写真は残っていなくて。

玉村:だから史実として残されている記述にある情報……元新徴組で剣の腕に長けている、長身と美貌から男女両方から言いよられていたというのを元に、剣士としてだけじゃなくて、ひとりの人間として風格がある優れた人物として説得力が出るようなデザインをお願いしました。キャラクターとしては袴姿で貫禄ある雰囲気も出せました。身長の高さに加えて、見た目にも目立つ要素が欲しくてポニーテールにしたので、そこが他のキャラにはない良いアクセントになったかなと思います。それからこれは自分なりの解釈も入っているんですが、揺れるポニーテールで少し自由人の雰囲気と言いますか、掴みどころがない感じっていうんでしょうか。そうしたところがだせればと思って、あの髪型にしてもらいました。

──明治時代の風俗などを描くうえで苦労された点は?

玉村:自分は初期から絡んでいたわけではなかったのもあるんですけど、とにかく資料集めは大変だったと思います。

戸塚:そうですね。明治村にも取材に行きましたし、江戸東京博物館や深川江戸資料館、国会図書館NTT技術史料館など、ありとあらゆるところに通いました。とにかく設定をつくるうえで資料をたくさん集めて……ヤクザのしきたりとかが書かれた古本を見つけて購入したりもしました。それと実写だとなかなか出しにくい、現在ではもうなくなっている場所を出すことも意識してます。九段坂は現在では急勾配な坂ではなくなってますし、今後の話数では今の靖国神社の位置にあった競馬場もでてきます。

玉村:そうしたお膳立てをしていただいたうえで、美術監督のフランス人のヤン・ルーガルさんが素晴らしい美術デザインをつくってくれて、自分の中で世界観のイメージがハッキリできたんですよ。時代物として細部は歴史になぞらえてつくるのも大事なんですが、やっぱりフィクションであるという「美学」的なテーマを設定することが大切なんだと、改めて気付かされました。歴史の光と影が交錯したり、あるいは交わらなかったりする部分……キャラクターもそうだし、社会自体が葛藤しているみたいなのを、美術でも表現してもらえたと思います。実際にも光と影のコントラストがしっかりついた背景になってもいるので、そういう部分に新時代に順応している人たちと、していない人たち。もしくは明るい未来と厳しい現実との対比とか。そんな風にキャラクターやお話に呼応する要素を、美術で加えてもらった感じがします。見てなんとなく感じとれる要素……絵の情報って大事だと思うので、それをしっかり入れてもらえたなと。そこは本当にヤンさんのおかげです。

──ではシリーズ終盤へ向けての見どころをお願いします。

戸塚:それぞれのドラマが最初はバラバラで進行する群像劇をやっていくなかで、それが大きな陰謀でひとつにつながっていくという構成で進めていて……。

玉村:だから核心に迫っているようで、なかなか迫らない焦らしがあって。そこが海外ドラマっぽいですよね。

戸塚:そんなバラバラだった各キャラクターの行動が、ここからいよいよ直接つながっていって激突することになります。過去の因縁と大久保やせんりが追うエルドラドの謎がどう絡んで決着をみせるのか? そこをお楽しみに! というところですね。

玉村:これまで点と点だったものがつながっていって、そこで生まれる連鎖反応をシリーズ後半の肝にしています。情報量も多いので話を追うのも大変だと思うんですが、最後まで見ていただければ、歴史の連鎖というか様々なキャラが絡み織りなすドラマの高揚感が味わえます。なので頑張って残り4話も見てください(一同・笑)

【取材・文:ぽろり春草】

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