JRP会長に就任して2年目のシーズンを前に「お客さんが増え、チームやドライバーの意識が変わり、いい方向に確実に転がり始めました」と手応えを語る近藤真彦氏。「今年はすごく楽しみな一年になりそうです」
JRP会長に就任して2年目のシーズンを前に「お客さんが増え、チームやドライバーの意識が変わり、いい方向に確実に転がり始めました」と手応えを語る近藤真彦氏。「今年はすごく楽しみな一年になりそうです」

今週末、国内最高峰のフォーミュラカーシリーズ、全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権が鈴鹿サーキット三重県鈴鹿市)で始まる。

今シーズンは前年のFIA‐F2チャンピオンや18歳の女性ドライバーJuju(野田樹潤)選手らの参戦が決まり、大きな注目が集まっている。昨年、人気が低迷していたSFの運営団体、日本レースプロモーション(JRP)の取締役会長に就任して、日本のトップフォーミュラを上昇気流に乗せた近藤真彦氏。

会長就任2年目となる今シーズンはどんなふうにレース界を盛り上げてくれるのか? 前後編の2回にわたってインタビューをお届けする。

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【写真】TEAM MUGENから参戦する岩佐歩夢選手

■確実に前進できた1年

――JRPの会長に就任して2年目がスタートします。人気低迷が囁かれていたSFですが、昨年の入場者数は前年比165%(10万人から17万人に増加)となりました。近藤さん自身が全国の自治体や地方のTV局などをプロモーションで精力的に回っていましたが、手応えはいかがでしたか?

近藤 感触はすごくよかったです。各自治体の首長や省庁のトップは忙しい方ばかりですが、同年代の方が多くて、JRPの会長というより、マッチだから少し時間を割いて会ってみたいという感じがあったように思います。マッチという名前でトップの方々と会って、ミーティングが終わると、「妻に写真を見せたいので2ショットお願いします」というのが何回かありましたね(笑)。

僕はある意味、「客寄せパンダ」で結構ですよとJRPに伝えていたので、それでいいんです。各自治体の首長の方たちに会う機会をもらえて一番聞かれたのは、「SFはどこまで環境に配慮しているのですか」ということでしたね。そこで僕らも「カーボンニュートラルとエンターテインメント性の両立を目指していろいろやっています」と説明すると、みんな興味を持ってくれて、サーキットに少しずつ来ていただくようになっています。

あと、大事なのはやっぱり現場。集客はもちろん、ドライバー、チームのモチベーションを上げることであったり、メディアとの距離感を近づけることであったり、会長としてやるべきことはたくさんあります。

――昨年は「アジアのF1」をキーワードに掲げていました。アジアやヨーロッパのドライバーやチーム、スポンサーをどんどん日本に取り入れて、海外のサーキットに出かけていってレースを開催するというのが当面の夢で、そのためにはまず1、2年間は日本で地固めをしたいと話されていました。

近藤 そうですね。その意味では確実に前進できたという手応えがあります。メディアや各チームの方にもそう感じてもらえていると思います。でも慌てずにやっていきたい。やっぱりシリーズを支えるトヨタさん、ホンダさん、ヨコハマさんなどとしっかりとタッグを組んでやっていかなければなりませんし、JRPだけが先走ってもしょうがありません。まずは海外のドライバー、チームとの交流から始めたいと考えています。

昨シーズンはレッドブル育成のリアム・ローソンがSFに参戦し、その後F1でも活躍しましたが、今年はF1チーム、キック・ザウバーのリザーブドライバー、テオ・プルシェール選手やレッドブルホンダの育成ドライバーの岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)選手の参戦が決まりました。

海外でも注目されるSFには今季F1チームのザウバーの育成ドライバー、プルシェール選手が参戦。昨シーズン、F1直下のF2でチャンピオンに輝いた、将来のF1ドライバー候補生だ。
海外でも注目されるSFには今季F1チームのザウバーの育成ドライバー、プルシェール選手が参戦。昨シーズン、F1直下のF2でチャンピオンに輝いた、将来のF1ドライバー候補生だ。

ただ、F1やF2のチームとも本格的に交流するためには、もう少し日本側の改革が必要だと思っています。その準備を進めて行こうと皆さんと話しています。

■F1のサポートレース開催も計画していた

――具体的にはどのようなことに手をつけようと思っているのですか?

近藤 イベント数が少ないので、来シーズンは増やせるように今、各チームと調整している段階です。ヨーロッパを始め、海外でもSFの注目度は徐々に上がっていますが、現状では7戦9レースしかありません。レースが増えればドライバーが走行する距離も増えますし、海外のドライバーがSFにもっと魅力を感じてくれるようになるはずです。

あとF1に乗るために必要なスーパーライセンスのポイント配分がF2などと比較して少ないという問題もあります(※F2はランキング1位~3位まで40点、SFはランキング1位が25点)。そこが海外のドライバーがSFに参戦を躊躇する理由のひとつにもなっているので改善していかなければならないと思っています。SFをより魅力的なものにするためにはまだまだやることがいっぱいあります。

――たしかに24年シーズンはF1が24戦、F2が全14戦28レースもありますので、それらに比べるとSFのイベント数は少ないですね。

近藤 そこを改善したいと考えています。チームの方はほぼ賛同してくれていますし、イベント数が増えればスポンサーも取りやすくなるはずです。

――鈴鹿サーキットで開催される今年のF1日本GPでSFをサポートレースとして実施することも計画していたんですよね?

近藤 そうですね。デモ走行やエキシビションではなく、実際にレース開催をするための準備を進めていたのですが、いろいろな事情があって、残念ですが今年は見送ることになりました。近い将来、実現できれば日本のモータースポーツ界のためになるので、積極的にチャレンジしていきたいですね。

レッドブルとホンダの育成ドライバーとして将来のF1参戦が期待される岩佐歩夢選手もトップチームのTEAM MUGENからSFに参戦する。「SFでチャンピオンを取って、F1を目指したい」と語る
レッドブルとホンダの育成ドライバーとして将来のF1参戦が期待される岩佐歩夢選手もトップチームのTEAM MUGENからSFに参戦する。「SFでチャンピオンを取って、F1を目指したい」と語る

――実際にF1のサポートレースとして開催できたら、F1の関係者はSFマシンの速さにビックリするんじゃないですか?

近藤 鈴鹿でF1開催時にSFのマシンを走らせると、「やっぱりF1はすごいね」と思われるのが僕らの側からするとちょっと怖いのですが、「1コーナーから3コーナーまでは変わらないじゃないか」となったらF1側も怖いと思いますよ。SFを世界にアピールするためにはチャンスだと思いますので、実現できるようにこれからもトライはしていきます。

■海外でのSFイベントの可能性は?

――3月末には電気自動車フォーミュラE東京都江東区にある東京ビッグサイト東京国際展示場)周辺の市街地を舞台に開催されます。大阪も公道での開催を視野に入れてF1に興味を示しています。SFを市街地コースで実施することは考えていますか?

近藤 公道はまだ考えていませんが、日産が参戦するフォーミュラEの東京大会を見にいく予定なので、そこで様子を見てきたいと思います。

――海外でもイベントがあれば、SFはさらに魅力的になって、海外のチームやドライバーの参戦が増えそうです。

近藤 海外はぜひやってみたい。大きなスポンサーがひとつ決まれば、可能性はないわけじゃないと思います。タイなどのアジアのサーキットに遠征してやりたいですね。夢は広がりますが、その前にまずは交流からですね。

イベント数が増えてSFがもっと魅力的になれば、アジアのドライバーやF1チームの育成ドライバーも直接F2やF1を目指すのではなく、まずはSFに参戦してからでも遅くないんじゃないのという流れになっていくと思います。

――実際に昨年までF2に乗っていた岩佐選手は「SFのマシンはF1とF2の中間の速さ」と語っています。SFはそれだけレベルの高いマシンで争われています。

近藤 だから今年、SFのチャンピオンとしてF2に参戦している宮田莉朋(みやた・りとも)選手にはブッちぎってほしいですね。昨年、ローソン選手がF1で活躍しましたが、莉朋選手もF2で結果を出せば、SFの価値はさらに上がる。「SFのチャンピオンはこんなにすごいんだぞ」という実力を見せつけてほしい。

――SFをビジネスとして拡大させるためには、スポンサーやメディアの存在が必要だと話されていました。昨年は決勝レースの全9戦をインターネットTVのABEMA(アベマ)で無料生中継しました。その影響は大きかったのではないですか?

近藤 そうですね。今年も全戦無料生中継しますが、若い人はアベマでレースを見てくれているようです。昨年、チャンピオン決定戦となった最終戦の鈴鹿にアベマを運営するサイバーエージェント藤田晋社長に来ていただいたんです。僕は忙しくてご挨拶しかできなかったのですが、いろいろと見ていただいたら、「すごいことをやっているんですね」と喜んでいただきました。

「まだまだメジャーになり切れていない部分があるので一緒に盛り上げてほしい」とお願いしたら、賛同してくれたと思います。もちろんアベマだけではなく、いろんなメディアを巻き込んでいく必要があります。SFに興味を持ってくれるスポンサーも徐々に増えています。JRPの活動だけでなく、自分のチームのスポンサー活動もしなければならないので、そこは結構大変ですが、引き続き頑張っていきたいです。

後編はこちら

近藤真彦(こんどう・まさひこ) 
1964年7月19日生まれ。79年にTVドラマ3年B組金八先生』で芸能界デビューし、以降は俳優・歌手として大活躍する。レーサーとしては84年に富士のフレッシュマンレースでデビュー。その後は全日本F3選手権を皮切りに、トップカテゴリー全日本GT選手権スーパーフォーミュラ(SF)の前身、全日本F3000フォーミュラ・ニッポンにも参戦。94年には全日本GT選手権でポール・トゥ・ウインを達成する。また世界3大レースのひとつ、フランスル・マン24時間耐久レースにも出場。2000年にレーシングチーム「KONDO RACING」を設立。現在はチームオーナー兼監督として国内最高峰のSFとスーパーGTに参戦中。昨年の4月にSFを運営する日本レースプロモーションの会長に就任。モータースポーツ活動と並行して現在は全国ツアー「KANREKI DASH M5K9 LIVE TOUR 2023-2024」を開催中。

取材・文/川原田 剛 撮影/樋口 涼(近藤氏) 写真/JRP

JRP会長に就任して2年目のシーズンを前に「お客さんが増え、チームやドライバーの意識が変わり、いい方向に確実に転がり始めました」と手応えを語る近藤真彦氏。「今年はすごく楽しみな一年になりそうです」