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 ネットはいつでも簡単に情報にアクセスできるが、誤った情報も含まれている。さらに困ったことに、そういった誤情報は人を過激化させる。

 それが社会問題として注目されると、ファクトチェックの強化、広告の規制、好ましくないユーチューバーの追放といったそれらしい対策が発表されるが、根本的な解決にはいたらず、同じことがまた繰り返されているのが現状だ。

 新たな研究は、誤情報に対処するための第一歩として、人間の感情に焦点を当てたアプローチの可能性を示唆している。この記事では、誤情報の落とし穴に陥るプロセスと、罠にはまらないようにする方法について探っていこう。

【画像】 不安をあおる情報から、危険な思想にはまっていく

 ご存じの通り、自分たちこそが絶対的に正しいと、誤った情報や理解に基づき、社会的に問題のある過激な行動をとるようになる人や集団が存在する。

 『Journal of Sociology』(2024年2月20日付)で発表された研究で、シドニー大学の研究チームは、新聞やネットに掲載された、誤情報から過激な行動に出た人たちの体験談を分析している。

 そこから見えてきたのは、彼らがある共通のステージを経て、だんだんとヤバい人化していくことだ。

 最初のステージは、陰謀論などの危険な思想にハマるきっかけとなる、不安を煽る情報に出会う段階だ。

 そうした情報は、大抵の場合、ネット検索によって表示された記事やSNS、友人などから入ってくる。あるいは、”嫌な予感”がする何かについて自ら調べた結果、出会うこともある。

・合わせて読みたい→何を言っても通じない。陰謀論を信じる人の論法とそれに対処する方法

 こういった場合、自分が望んでい答えが出るようにバイアスをかけた検索キーワードを入れるので、そういった操作された誤情報が集まりやすくなる。

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危険な思想を持つ人がつながりあい、過激な行動にでる

 その結果、彼らはしばしば同じものを手に入れる。「新たな確信」「相談できる新たなコミュニティとの出会い」「自分の人生をある程度コントロールできるようになったという感覚」といったものだ。

 そして中間ステージでは、そうした新しいヤバい人たちのコミュニティや、それが目指している目標や価値観といったものにのめり込むようになる。

 このステージでは、だんだんと生活に悪影響が出始める。たとえば、友人や家族を失ったり、長時間のスマホや寝不足などで体調を崩したり、ストレスや妄想に悩まされることもある。

 すると、こうした問題に対処するために、さらにヤバいコミュニティに助けを求めるようになる。

 とはいっても、少なくとも今回の研究が調べた限り、ほとんどの人はその上のステージに達することはない。

 それでも最終ステージに達してしまった人たちは、いよいよ自ら進んで有害な行動を取り始める。

・合わせて読みたい→怒りで頭に血が上っていると、嘘の情報に騙されやすくなる(米研究)

 大切な人との関係を断ってしまったり、公共の秩序を乱すような活動に参加したり、場合によっては大義名分をかざして暴力を振るうこともある。

 ここまで達してしまうと、たとえ周囲からの支援があったとしても、そう簡単には抜け出せなくなる。

 だから、ヤバいコミュニティに本格的に関わる前の、最初のステージのうちに適切な支援を与えることが、とても大切となる。

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身内が誤情報の罠にはまっていたらどう対処するべきか?

 もしも家族や親しい友人など、身近な人に危険な思想を持つヤバい人の兆候が見られたらどうすればいいだろうか?

 研究チームによると、まだ初期ステージのうちなら、友達や信頼できる専門家(例えば、医師や看護師)などが、共感を持って対応するだけで、問題が深刻になるのを食い止められるという。

 たとえば家族が、やや偏りのあることを口にし始めたとする。そんな時大切なのは、落ち着いてその人の奥底にある不安や問題を理解しようとすることだ。

 最悪なのは、相手に恥をかかせたり、動揺させたりすること。そんなことをすれば、その人はかえってあなたと距離を取り、ヤバいコミュニティに近寄っていく恐れがある。

 中間ステージに達してしまった時でも、一般ユーザーのような第三者からのネット情報が、我に返らせてくれることがある。

 ただし注意が必要なのは、この段階では、理屈や事実でいくら正論を言おうと、なかなか効果が出なくなる点だ。

 仲のいい友人や有名なニュースキャスター、あるいはプラットフォームと提携したファクトチェックツールだろうと意味がないのだ。

 そして最終ステージに達してしまえば、強制的に入院させたり、政府が支援する脱ヤバい人化プログラムを受けさせるなど、正気に返らせるにはかなりの強行手段が必要になる。

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自分が誤情報の罠にはまらないためには?

 ヤバい人化はステージが進むほどに厄介なものになる。だからそもそもヤバい人化しないよう身を守ることがとても大切だ。

 現在のようなデジタル社会では、不安を煽るような情報が誰の目にもすぐ入ってくる。

 それが幅広く柔軟な物の見方につながるかというと、そうでもなく、ネット上の同じ意見ばかり求めるためにかえって狭くなりがちだ。

 エコーチェンバー現象は、自分と似た意見や思想を持った人々の集まる空間でコミュニケーションを繰り返しているうちに、自分の意見や思想が肯定されることで、それらが世の中一般においても正しく、間違いないものであると信じ込んでしまう現象のことである。

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 ならば、どうすればいいのか?

 研究チームが提案する1つのやり方は、紙の本を手に取り、そこに書かれた長い文章を読むことで、自分で考える力を養うことだ。

 それから、SNSの利用時間を決めるなどして、不安を煽り感情を操作しようと試みるネットのアルゴリズムから身を守る。

 そして最後の3つ目は、よりアナログな生活を送ることだ。つまりログオフして本を読み、生身の人間との絆を大切にするのだ。

追記:(2024/03/08)本文を一部訂正して再送します。

References:Conspiracy, misinformation, radicalisation: understanding the online pathway to indoctrination and opportunities for intervention - Emily Booth, Jooyoung Lee, Marian-Andrei Rizoiu, Hany Farid, 2024 / How people get sucked into misinformation rabbit holes – and how to get them out / written by hiroching / edited by / parumo

 
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人はどのようにして誤った情報の罠にはまるのか?罠にはまらない方法