信頼している相手から裏切られることほどつらいものはありません。ショックのあまり人間不信に陥ることも。ただ、なかには逆上してしまうケースも。今回話を聞いたのは、同期に裏切られたある新入社員のエピソードです

◆入社してきた前例のない学部出身者

 食品関連商社でバイヤーを務める近藤さん(仮名・38歳)。彼の会社に今年度も十数名の新入社員が入社し、その内の2名が近藤さんの部署に配属されました。

 その2名とは、大学で仏教を学んでいたNくん(23歳)と、別の大学で油絵を学んでいたMくん(23歳)で、会社創立以来例のない学部出身者です。

実は今年度から募集要項が大幅に変更され、多種多様な学部から生徒を募るようになったんです。紋切り型だった営業手法が少し頭打ちになってきたことも原因のようです。それが功を奏したのか、今までは経営や経済といった学部が大半を占めていたのですが、いい意味で全く畑違いな学部出身者が入社してくれました」

◆腕試しに社内コンペに挑戦

 そんな中、新製品のキャッチコピーコンペが行われることになりました。社員全員が対象で、少額ですが報奨金も出るとのことです。

「結構うちの会社はコンペやコンテストなどの企画が多くて、今年は秋に発売が予定されているイタリアから直輸入する食材なんです。しかもエクスクルーシブ契約なので、上層部もかなり期待しているようでした。全社員が対象とはいうものの、新入社員の参加は今までになかったのですが、良い機会だと思い彼らに参加するように指示したんです

 指示を受けたNくんとMくん。実は、大学こそ違うものの同じ高校に通っていた親友同士だったそうです。ただ、さすがにいきなり新商品のキャッチコピーを任された2人はかなり戸惑ったようで、休みの日に図書館に通うなどして産みの苦しみを味わったようです。

◆コンペの結果が招いた2人の不和

 そして迎えた結果発表当日。意外なことにNくんが考案したキャッチコピーが採用されました。ただ、社内掲示板に一報が流れた時、Mくんの内心はとても穏やかではなかったといいます。

「まさか新入社員のうちの1人が入賞するとは思いませんでした。とりあえずNくんと一緒に社長室へ出向き、賞状と金一封を受け取りその後部署のフロアに戻り、Mくんも交えてねぎらったのですが、どうも様子が変なんです。彼はNくんに目も合わそうともせず、話が終わるや否や、一目散にオフィスから出ていったのです

 一方、Nくんが考案したキャッチコピーはサイトに反映される予定で、その斬新なコピーを高く評価していた広報部からは、追加で姉妹品のキャッチコピーの考案依頼もあったそうです。

◆一斉送信メールにざわつく社内

 翌日の午前中、いつもより静かな社内にメール受信の音が鳴り響きました。差出人不明のメールが社員全員のメールアドレス宛に送信されたのです。

「思わずゾッとしました。そこに書いてあったのは『Nの裏アカ』という文字とX(旧ツイッター)のリンクでした。そして、リンク先の投稿を目の当たりにして血の気が引きました。というのもそのアカウントタイトルには『ここでしか言えない上司K氏の悪口』とありました。大量の投稿に目を通していくと、K氏とは私のことだということがすぐに分かったんです」

 しばらくして、浮かない顔をしながらNくんが近藤さんの席までやってきたといいます。

Nくんは裏アカの主は自分であることを明かした上で、出来心裏アカを作ってしまったことと、一斉配信メールの原因は自分にあると言うのです。詳しく聞いていくと、最初は何を書けばよいか全く思い浮かばず、Mくんと2人で一緒に知恵を出し合っていたようです。そんな中、ある日MくんがLINEで送ってきた作例のひとつを自分の案として提出し、それが幸か不幸か入選してしまい、そのことを許せなかったのだと思います」

◆重荷を背負わせすぎた自分を猛省

 近藤さんはかなり自分を責めたといいます。なぜなら、右も左も分からぬ新入社員に重荷を背負わせ、しかもそれが原因で2人の仲を裂いてしまったからです。

Nくんが投稿していた私への悪口にも学ぶべき部分が多々ありました。なんでも頭ごなしに指示したり、自分の自慢話をしたり……嫌われる上司の主要な行動がほとんど書かれていたんですよ。こんなのでは部下もついてきませんし、仕事も成就しませんよね」

 近藤さんは、2人に自分の考えを全て話し、今回の原因を作ったのは自分であることも認めた上で、改めて一緒に仕事を手伝ってほしいと伝えたそうです。

<TEXT/ベルクちゃん>

ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

―[とんでも新入社員録]―


※画像はイメージです