人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社が、今回はシニアがさらに就職難に追い込まれる背景を解説する。

◆働きたくても「本人以外の理由」で働けないシニアも多い

シニア求職者本人の健康やスキルだけでなく、本人を取り巻く家庭や家族の環境が原因で働けないシニアもいる。親や配偶者などの“老老介護”が負担となっているシニアも。どんな制限が出てしまい、どうすれば両立できる環境に近づけるのかを紹介する。

働くシニアの人口も増え、定年や再雇用の年齢上限も上がってきた。しかし、シニアと呼ばれる年代に近づくにつれ、転職・再就職の難易度は徐々に上がる現実は依然としてある。

通常よりも就業のハードルが高いシニアで多いのは、スキルや職務経験が少ない方、相場感に合わない給与や待遇を求めている方、あとは病気など健康上の理由を抱えた方だ。シニアともなると健康や体力の課題はどうしても増すため、立ち仕事や体力を要する仕事が難しくなるケースは多い。

ただ、こうした本人の都合や状況だけでなく、別の要因で就ける仕事が制限されてしまうことがある。家庭・家族に起因するものがそうだ。今回は、家庭の事情で仕事に就きにくいシニアの実情に迫る。

◆働きながら“老老介護”する現実も

シニアの場合、仕事が制限される家庭・家族の事情の筆頭となるのは、やはり介護だ。介護の問題以外では、子供や孫の世話が挙げられることが比較的多い。稀に配偶者などが生活スタイルの面で仕事に制限を設ける場合もある。

ヤングケアラー」という言葉もあるように、家族の介護で仕事に影響が出るのは、なにもシニアに限ったことではないが、若い世代では育児による影響の比率も大きいことを考えると、介護はよりシニアに対する影響が大きい問題といえる。

介護の対象は、親、配偶者、兄弟などが多いが、障害を持った子供のケースもある。「老老介護」の問題が以前から叫ばれているが、実際に90代などの親を介護する60・70代のシニアワーカーも珍しくない。

では、介護などなんらかの家庭の事情を抱えたシニアワーカーは、仕事のどのような部分がネックとなりやすいのだろうか。

やはり、一番ネックとなりやすく、制限がかかるのは労働時間だ。長時間の労働が難しい、あるいは特定の時間しか働けないといった制限が出てきやすい。介護を抱えていると、要介護認定区分など被介護者の状況やほかの家族の存在、利用している介護サービスの状況にも左右されるからだ。

多いケースとしては「残業ができない」「午前のみ・午後のみを含めて数時間しか働けない」といったものがある。また、看護や介護、工場や飲食店など、夜勤がある職種を受けたとしても「夜勤NG」という希望を出さざるを得ない方もいるし、土日・祝日のシフトが求められる職種では、それにも合わせづらい。

時間と関連するが、通勤時間や家族になにかあった時の対応の問題から、通勤エリアにも制限が発生する。特別な事情がない人でも片道30分を超える通勤は避けたいだろうが、介護などの事情があるならばなおさら30分圏内は必須条件で、片道15分という希望も多い。

◆飲食店や小売店での就職も難しい?

さて、こうした家庭・家族の事情による希望によって、就きにくくなる仕事にはどんなものがあるだろうか。

例えば、飲食店や小売店などは夕方から夜の営業や土日の営業がある職場が多いため、条件に合わなくなりやすい。夜勤や土日のシフトがある工場や警備の仕事なども同じだ。ただし、人数が多く特定のシフトだけを選べるような職場は反対に希望に沿った働き方がしやすい。

早朝から仕事が発生する可能性のある介護や保育、一部の調理や工場、清掃や警備といった仕事も難しくなる場合がある。

一般企業の事務など、デスクワークは事情があるシニアに限らず人気だが、小規模の会社の場合は少人数のためにフルタイムが好まれ、短時間勤務の募集がないこともある。反対に大企業でのシニア向けの事務職中途採用は、フルタイムであっても求人自体がほとんどない。

◆思い切って“掛け持ち”で働くほうが楽になる場合も

では、もし自身が親の介護など家庭・家族の事情で働く時間に制限がかかった場合、どうすればよいのだろうか。

まず、勤めている状態でそうした事態になったのならば、安易に転職を決断する前に、介護休業など現在の勤め先のまま、可能な対策を行うことだ。介護休業は国が法律で定めた制度なので十分に活用すべきだし、介護休業給付金もある。

どうしても転職が必要となり労働時間の希望を叶えたい場合は、すべての条件を満たそうとするのではなく、優先順位をつけて妥協できる点を探すことが重要だ。

例えば、レストランの調理の仕事を希望しているのに、朝晩・土日が難しく、平日の昼間のみ勤務希望というのは無理がある。この場合は、大手チェーンのパート・アルバイトや、セントラルキッチンなどの食品工場を検討することで、勤務時間などの希望が叶えられやすくなる。

不慣れなうちは大変かもしれないが、思いきって、複数の仕事を掛け持ち(副業)することも、希望の時間に働きやすくする。日中の短時間の仕事をしながら、もう一つ在宅で時間を選びやすい仕事に就くといった形だ。

介護離職は社会問題にもなっており、公的な支援も重要となる問題だが、現実にはそれぞれが職探しをしなければならない。思い描いた希望条件を固めてしまって譲らないのではなく、条件の優先順をつけて、もっとも優先したい条件以外は柔軟に考え、視野を広げて求人を探せるように心がけたい。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中

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