夫婦が同じ名字であることを義務付ける民法や戸籍法の規定は憲法に反するとして、事実婚の夫婦ら12人が3月8日、国を相手取り、東京地裁と札幌地裁で同時に提訴した。

12人は事実婚や法律婚をしている夫婦で、選択的夫婦別姓制度の導入を求めており、1人あたり50万円の損害賠償を請求している。

選択的夫婦別姓制度は、1996年の法制審議会で導入の指針が示されたが、自民党の反対にあって国会に法案は提出されず、現在まで実現していない。そのため、2011年、2018年にそれぞれ夫婦同姓の規定は違憲であると主張する集団訴訟が起こされたが、最高裁はいずれも夫婦同姓の規定を「合憲」と判断して、原告らの訴えを退けている。

今回の裁判はこれまでの裁判の流れを汲む「第三次選択的夫婦別姓訴訟」にあたり、弁護団は第二次訴訟以降、「夫婦別姓を求める声が高まり、事情が変化している」としている。

⚫︎現在の規定は「過酷な二者択一」

訴状などによると、現在の規定について「婚姻しようとする者に対して、婚姻するために夫婦のいずれか一方が氏を変更するか、双方が氏を維持するために婚姻を諦めるかの過酷な二者択一を迫るものである」として、原告らは夫婦ともに婚姻前の名字を維持したまま法律婚できる地位にあることを確認する。

また、次の通り、憲法に違反すると主張する。

・憲法13条及び憲法24条1項違反

夫婦同姓制度は、憲法13条によって保障される「氏名に関する人格的利益」および、憲法24条1項が保障する「婚姻をするについての自律的な意思決定」を制約するものであり、かかる制約は必要かつ合理性のあるものとはいえない。よって、夫婦同姓を義務付ける規定が、別姓という例外を認めないことは憲法13条および憲法24条1項に違反する。

・憲法24条2項違反

夫婦同姓を義務付ける規定が別姓という例外を認めていないことは、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量を逸脱するものとして、憲法24条2項に違反する。

・国際人権条約および憲法98条2項違反

夫婦同姓を義務付ける規定は「婚姻に際して姓を選択する権利についての夫婦の同一の権利などを保障している女性差別撤廃条約、および自由権規約に違反し、同時に、国家に条約遵守義務を課している憲法98条2項にも違反する。

⚫︎広がる「選択的夫婦別姓制度」求める声

第一次訴訟では、2015年に最高裁大法廷が現在の規定を「合憲」と判断した。ただし、裁判官15人のうち5人は「違憲」と判断している。また、第二次訴訟も2021年に最高裁大法廷が「合憲」の判断を下した。この時も15人の裁判官のうち4人が「違憲」判断をしている。

一方で、原告側が指摘するように、全国で選択的夫婦別姓制度を求める声が高まっている。国会や地方議会に働きかけをおこなっている市民活動「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」によると、選択的夫婦別姓制度に賛成する意見書を可決した地方議会は、少なくとも383件にのぼるという(2024年1月12日時点)。

今年1月、経団連の十倉雅和会長が「選択的夫婦別姓は女性の働き方をサポートするために導入してほしい」と賛成したと報じられている。

⚫︎弁護団「司法でこの人権侵害を終わりに」

弁護団長の寺原真希子弁護士は、提訴にあたり次のように語った。

「この夫婦同姓制度については、2015年と2021年に最高裁大法廷が合憲という判断をしていますけれども、最高裁は今の制度に問題がないと 言ったわけではなく、いろいろな問題はあって、国会で解決をしてくださいというふうに指摘しています。

しかし、その後、国会には動きがなく、これは人権問題だということで、今回の提訴に至ったという経緯になります。今度こそ、司法でこの人権侵害を終わりにしたいと考えています」

また、東京地裁で提訴した原告の1人で、長野県在住の小池幸夫さんは、提訴への思いを語った。

「裁判では、原告勝訴の判決を強く望んでいますが、私が一番訴えたい、本当に希望することは、判決の前に国会が動き、法改正がされること、 選択的夫婦別姓が認められるようになることです。

今この瞬間も、自分の姓を名乗れずに苦しい思い、悲しい思いをしている方、あるいはそれが原因で結婚できずにいる方がいっぱいいらっしゃいます。 選択的夫婦別姓は誰も不幸にしません」

「選択的夫婦別姓を認めないのは違憲」東京と札幌で12人が国提訴、3度目の集団訴訟