マイホーム購入時、生命保険の見直しをする人は多いでしょう。しかし、ライフプランに合わせた必要な保障の取捨選択を誤ると、想定外のアクシデントの際に困り果ててしまうケースもあるようで……。本記事では、Fさん夫婦の事例とともに、住宅購入時の生命保険の見直しポイントについて、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。

住宅購入に合わせて保険を見直し

Fさん(38歳)は、首都圏在住の会社員でした。東京の大学を卒業後、食品メーカーに勤め、当時の年収は約800万円。妻Mさん(36歳)とは共通の友人の紹介で知り合い、結婚して10年が経とうとしていました。妻Mさんは結婚してからは、ずっと専業主婦です。

Fさん夫婦には、長女(7歳)、長男(5歳)がいます。妻Mさんは、内気でおとなしい性格の長女と外遊びが好きでやんちゃな長男の子育てに追われつつ、子ども達のママ友との集まりにも参加するなど、忙しい毎日を送っていました。

Fさん夫婦は、結婚したときから同じ賃貸マンションに住んでいました。最寄駅からは徒歩10分ほどで、学校や病院が比較的近く、買い物なども便利なのですが、子ども達が生まれて、手狭に感じることが多くなりました。将来的には、それぞれに子供部屋が必要になりますし、「マンションを購入しようか」というFさんの提案にMさんも賛成しました。

Fさん夫婦の貯蓄は1,000万円ほどでしたが、お互いの実家から300万円ずつ資金の援助をしてもらえることになり、それを頭金として5,000万円のマンションを購入しました。

マンションを購入すると、住宅ローンのほかに駐車場代、管理費、修繕積立金、火災保険、固定資産税など、賃貸のときとは違うさまざまな費用がかかります。少し心配気味な妻Mさんに銀行の担当者は、「生命保険の見直しをされる方は多いですよ」とアドバイスをしてくれました。

Fさんは、マンションを購入したときに団体信用生命保険へ加入しました。Fさんに万一のことがあれば、残りの住宅ローンは団信から支払われますので、返済の負担はなくなります。Fさん夫婦は銀行の担当者の言葉どおり、生命保険の見直しをすることにしたそうです。

幸せな毎日を送っていたFさん家族ですが、マンションを購入して1年後に悲劇が……。Fさんにがんが見つかったのです。治療をすることが難しいがんで、半年間の闘病の末にFさんは亡くなりました。

亡き夫に代わり、働こうとするが…

Fさん夫婦はマンション購入の際、保険料を抑えられるならその分を住宅の費用に充てたいと思い、死亡保険1,000万円、がん・急性心筋梗塞・脳卒中などへの保障である特定疾病保障保険500万円、医療保険を残し、死亡保険を大きく減額したのでした。

妻Mさんは、「夫がケガや病気をしたり亡くなったりしたら、自分が働けばいい」と単純にそう考えていたそうです。

ところが、Fさんが亡くなって1年ほどたったころ、妻Mさんは思いつめたような様子で筆者のもとへ相談にやってきました。

正社員で働ける会社を探して、十数社応募して面接を受けました。でもまったく受かりません。これからどうすればいいのかと考えると不安でたまらなくなります。どうしたらいいのでしょうか……。投資をして貯蓄を増やすとか、なにか方法があれば教えてください」

Fさんと結婚してからは専業主婦だったため、仕事も家事も育児も一人でこなさなければならない妻Mさんを正社員として雇ってくれる会社はなかなか見つからないようでした。

手元にあるのは、貯蓄のうちの800万円と生命保険の1,000万円、Fさんの会社からの死亡退職金1,000万円、合わせて2,800万円です。

Fさんががんと診断されたときに、特定疾病保障保険の500万円と入院給付金を受け取ることができましたが、Fさんの治療中や亡くなってからの生活費、葬式費用などですべて使い切ったそうです。

「夫ががんの治療で仕事をすることができなくても、住宅ローンや家族の生活費は必要だったので……。でも、できる限りのことはしてあげられたと思っています」

住宅購入時の生命保険見直しのポイント

Fさんが団体信用生命保険に加入したので、以前に生命保険に加入した際に算出した必要保障額の、Fさんの死亡時の保障が重複することになります。住宅購入時は、生命保険の見直しをするタイミングであるといえるでしょう。

しかし、住宅ローンの残額分を除いた場合の死亡保障額と、現在加入している生命保険の死亡保障額を比較するだけでなく、その時点での必要保障額を再度算出してみましょう。

「必要保障額積み上げ方式」によって、死亡保障の不足額を計算することができます。マンション購入時のFさん家族の各必要額や年数などが以下のようになると仮定します。

■支出見込額 現在の年間生活費:500万円 末子(長男)独立までの年数:16年 末子(長男)独立後の妻Mさんの平均余命:34年※1 教育資金:2,000万円 結婚資金:400万円 住居費用:100万円/年(管理費、修繕積立金、駐車場代、固定資産税の年間の合計額) 葬儀の費用:200万円 予備費など:500万円 ■収入見込額 社会保障費:遺族厚生年金(妻平均余命まで)80万円/年※2 遺族基礎年金(長女18歳まで):125万円/年 遺族基礎年金(長男18歳まで):102万円/年 妻Mさんの老齢年金:120万円/年 死亡退職金:1,000万円 預貯金:1,000万円 配偶者の勤労収入:400万円/年

以上の数値で算出すると、マンション購入時の死亡保障額は約3,100万円となります。この金額は、それぞれの費用をどのくらいの金額にするかによって異なってきます。

たとえば、子ども達の教育費はいくら必要か、予備費にはなにが想定されるか、妻Mさんの勤労収入はいくらくらい見込めるかなどです。Fさん夫婦は、生命保険の見直しをするときにもう少し話し合いが必要だったのではないでしょうか。

団体信用生命保険は、住宅ローン返済中に加入者が亡くなったり高度障害状態になった場合には、住宅ローンが精算されますが、ケガや病気によって働けないときの家族の生活費などの保障はありません。

Fさんは、特定疾病保障保険に加入していたので保険金を受け取ることができましたが、生命保険の加入状況によっては、疾病保障が付いている団体信用生命保険を選択したり、就業不能保険や所得補償保険の加入を検討するということも必要でしょう。

生命保険は、万が一、つまり、めったにないことが起こったときに役立つものです。見直しの際は、ぜひ家族間でしっかりと話し合いご検討ください。

参考 ※1:厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況 令和4年簡易生命表(女) ※2:日本年金機構 遺族厚生年金の年額

藤原 洋子

FP dream

代表FP

(※写真はイメージです/PIXTA)