不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。 

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 第4回目は、人口の増減に関わる都市型社会と農村型社会の違いを明らかにしつつ、人口増の経済的影響について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
■第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?(本稿)
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?


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世界の人口はまだ増える

■なぜ人口はまだ増えるのか

 世界の人口は、2022年の80億人から、2058年には100億人へと増加するというのが、現時点での予測です。第1章の図1-3でもすでに紹介しましたが、サブサハラ(アフリカ大陸の中南部)などの地域で今後さらに人口が増加すると見込まれています。

 日本にいると、人口減少社会という言葉を聞くことの方が多いのですが、なぜこのような違いが起きているのでしょうか。その違いは端的に言うと、農村型社会と都市型社会という点にあると言えます。

 農村型社会においては、人々は豊かになろうと思うと、収穫量を増やそうとします。そのためには農地を増やせばよいのですが、それだけではなく、働き手を増やす必要があります。農村型社会では家族ごとに農耕を行うか、もしくは大規模農園に働きに出ることになるわけですが、どちらにせよ、家族の人数を増やすことで収入が増えることになります。

 つまり、子沢山になることが豊かになる道だと皆が考える社会なのです。子供が増えると食費はかかりますが、農村部では食料の価格は安い(自分の作物と近所の農家の作物を交換することでも食料は入手できます)ことが多いので、さほどの支出増にはなりません。

 農業を行う上で高校や大学レベルの知識は必要とされませんから、教育費もあまりかかりません。ある程度の体力がついたら子供でも労働力になるので、子供の数が多いと、支出はそれほど増えずに労働力が増えて、収入も増えるわけです(児童労働が広まっていることは、人権運動の立場から見ると大問題ですが、それは先進国の価値観であって、新興国ではそれほど気にされていないのかもしれません)。

 都市型社会においては、逆の力が働きます。人々は豊かになろうと思うと、子供の教育を重視します。教育を受けていないと、収入の低い職業にしか就くことができないと考えるからです。子供が多いと都市部では住居費も高くつきます(子供に勉強部屋が必要となれば、部屋数も必要です)。

 都市部では食材価格も高いので、食費もかかります。何より教育費が高くかかります。費用面だけではなく、教育には親の努力も相当必要ですから、親も自分の労働と子供の教育努力とのバランスをとろうとすると、子供の数はあまり増やせません。

 子供の数の増え方を測る場合には、合計特殊出生率という数字を用いることが多いのですが、これはその年次の15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に生む子供の数に相当する指標です。

 2021年の世界銀行の調査によると、合計特殊出生率1位の国はニジェールの6.82人で、14位(4.6人のモザンビーク)まで全てアフリカの国です。インドは2.03人、アメリカは1.66人、日本は1.30人、そして中国は1.16人です。

 現在人口が多い国のトップ3は、1位インド(14億2860万人)、2位中国(14億2570万人)、3位アメリカ(3億4000万人)です(国連人口基金の「世界人口白書2023」による)。

 合計特殊出生率は2.1を下回ると人口が減るとされています。親2人から子供2人が生まれれば人口は維持されるはずですが、子供の死亡率が一定程度はあるので、2.1で人口維持とされているのです。

 インドが最近になって2.1を下回り、中国もアメリカも日本も(他のいわゆる先進国は全て)2.1を下回っています。先進国の場合は、都市型社会という事情によるものですが、中国の場合は、人口が増えすぎることを懸念した「一人っ子政策」が1979年から2017年までとられていた影響です。

 世界の国の多くが経済成長して都市型社会の比重が高まっていけば、世界の人口は減少に転じるのですが、現在の予測では人口減少は2080年代頃にならないと始まりません。今、経済成長の初期段階にあるサブサハラなどでは、まだ出生率が高い状態が続くと予測されているので、世界の人口はさらに増えるのです。

■人口が増えるとどうなるのか

 人口が増えることには、いい面もあります。消費者の数が増え、消費量も増えるわけですから、生産量を増やしてもまだ売れる余地が残っています。つまり経済の規模がまだ成長できるということです。経済規模が成長すると、企業がより設備投資を行う資金を得ることができるので、より生産性(人口当たりの生産量)が高まり、人口一人当たりの収入も増えます。

 また、新興国の方が人口の伸びが高いため、市場としての新興国の比重がより高まることになります。ヨーロッパや北米などの先進国では、人口増加のスピードはすでに低下していますが、アジアやアフリカは、今後もしばらく人口増加のスピードが速い状態です。

 人口が多く比較的経済規模の大きな新興国のことを、頭文字をとってBRICs(ブラジル、ロシアインド、中国)と呼ぶことが多かったのですが、中国やインドは特に人口が多く、国際政治での影響力を強めてきました。

 中国は2000年代以降、独自の経済圏を作って、経済的に影響力を高めてきましたが、今後はインド(人口で中国を抜きました)も、影響力を高めてくると考えられます。さらには、インドネシア(2.8億人)、パキスタン(2.4億人)など、イスラム圏の人口が増加して、その比重も高まってきます。

 企業がビジネスの規模をさらに拡大しようとするなら、新興国の事業を拡大することが不可欠になります。新興国では、人口増による需要増が期待できるだけでなく、「一足飛び」の進展として、例えば固定電話の時代なしに携帯電話が普及したり、店舗網が普及する前にネット通販が普及したり、というスピードの速い成長も起こります。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
■第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?(本稿)
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?


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