人口減少に歯止めが効かない日本のGDPは、今後も低迷する一方だと予測されます。しかし、実は日本には約2,000兆円の資産があり、うまく活かせば経済危機を乗り越えられるかもしれないのです。本記事では『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)から、著者の松本大氏が、日本経済の地盤沈下を防ぐ方法について解説します。

株価の上昇が国民の幸せにつながる仕組みをつくれ

資本主義経済を標榜する以上、経済規模の拡大は必須です。日本に限らず、世界中の資本主義経済国家にとってのグランドデザインは、経済規模拡大の飽くなき追求と言ってもいいでしょう。

そして、いまの日本が必要とするグランドデザインは、「株価の上昇が国全体、そして国民であるわたしたち一人一人に幸せをもたらす仕組みを構築する」ことです。

なぜ、それが日本のグランドデザインなのでしょうか。それ以外に活路を見出せないからです。

日本は戦後、焼け野原のなかから見事に立ち直りました。終戦から10年後の1955年、日本のGDPは8兆8,973億円でしたが、そこからどんどん成長して、1997年には543兆5,454億円にまで成長したのです。

42年間で60倍以上の成長です。「世界に追いつけ追い越せ」を合言葉にして国民全員一丸となって、今日よりもよい明日を目指して頑張った結果、米国に次ぐ世界第2位の経済大国にまで、のし上がりました。

では、これからはどうなのでしょうか。残念ながら、これから先、GDPをさらに大きく増やしていくのは、非常に難しいと思います。何しろ、日本は人口減少社会になってしまったからです。

長年にわたって世界第2位だったGDPは中国に追い越され、世界第3位になっています。恐らく、これからインドをはじめとして、ものすごい勢いで成長していく国が現れ、GDPの規模で日本を追い抜いていくでしょう。

いささか旧聞に属する話で恐縮ですが、プライスウォーターハウスクーパースが2017年に発表した、 2050年までの世界経済の見通しを分析したレポート「The World in 2050」によると、日本のGDPは世界第3位を守ることはできず、第8位まで転落すると書かれています。

GDPは「国内総生産」のことです。年間のGDPであれば、その1年間で、日本国内で生産された財やサービスの総合計額を指しています。言い換えると、フローから見た経済規模のことです。

フローですから、毎年新たに生み出されては消費されていきます。そしてフローの経済規模は、人口によって決まります。

したがって、1億2,000万人をピークにして、人口が減少の一途をたどっている日本のGDPが、中国やインドのように10億人をはるかに超える人口を擁する国のGDPを上回り続けるのは、基本的に不可能なのです。日本のGDPの世界ランキングは、これから間違いなく下がっていくと思います。

では、もう日本経済はだめなのかというと、わたしは決してそんなことはないと考えています。なぜなら、日本のフローは確かに今後、縮小傾向をたどっていくことになりますが、一方で膨大なストックを持っているからです。

フローに限界があるならストックを活かせ

フローが給与だとしたら、ストックは預金です。

たとえて言うならいまの日本は、年齢的には50代半ばで、役職定年を迎えて毎月の給与は減っているものの、これまで一所懸命に働いた結果、ある程度の個人資産を築き上げることができた、という感じでしょうか。

50代も半ばになると、そこから先、給与が大きく増えることはないでしょう。でも、だからといって落胆してはいません。何しろかなりの金額の蓄財があるのです。これを株式や投資信託で上手に運用すれば、いま、会社から支払われている給与よりも大きな投資運用益が得られるかも知れません。いまの日本は、これとほぼ同じ状況なのです。

GDPはほとんど伸びないけれども、莫大な金額の「対外純資産」を持っています。ちなみに、2023年5月に公表された日本の対外純資産は、2022年12月末時点で400兆円を超えて、過去最高になりました。正確な金額は418兆6,285億円です。

ちなみに対外純資産とは、日本の政府や企業、個人が海外に持っている金融資産である「対外資産」から、海外の政府、企業、個人が日本国内に持っている金融資産である「対外負債」の金額を差し引いて計算されます。日本の対外純資産は実に32年連続で世界一の座を守り続けています。

もうひとつのストックは、家計部門が保有している金融資産です。個人金融資産と言ってもいいでしょう。

個人金融資産の総額は、2023年3月末時点で2,043兆円あり、このうち海外に投資されている分が、前述した対外資産に組み入れられています。この重複分を外して対外純資産と個人金融資産を合わせたら、2,000兆円を大きく上回る資産を、日本という国は保有していることになるのです。

単純に考えても、日本のGDPの4倍近い資産ですから、年収4年分の貯蓄を持っていることになります。これを、これまで述べてきたような方法で有効活用すれば、日本経済は地盤沈下を防ぐことができるはずです。

これを実現させるために必要なのが、「株価の上昇が国全体、そして国民であるわたしたち一人一人にとっていい結果をもたらす仕組みを構築する」というグランドデザインを、日本国民に伝えることなのです。

※書籍の『松本大の資本市場立国論』は、すべての漢字にルビ(読み仮名)が振ってあります。著者の松本大氏が、専門用語の漢字が多く、経済の本を読むことを敬遠していた人にこそ、この本を手にとって欲しいと思っているためです。ルビを振ることで、意味がわからない言葉や専門用語をスマートフォンの音声検索で調べることもできます。漢字にルビを振るという小さなことで、読者が広がり、日本がよくなることへの願いが込められています。

松本 大

マネックスグループ会長

※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)