夫婦が同じ名字であることを義務付ける民法や戸籍法の規定は憲法に反するとして、事実婚の夫婦ら12人が3月8日、国を相手取り、東京地裁と札幌地裁で同時に提訴した。

12人は事実婚や法律婚をしている夫婦で、選択的夫婦別姓制度の導入を求めている。提訴後、原告と弁護団が東京・日比谷で記者会見して、裁判への思いを語った。

⚫︎海外では認めてもらえない「通称使用」

「この3月で結婚して30年になりました。選択的夫婦別姓の実現を今か今かと待っていましたが、自ら行動を起こすに至りました。

『強制同氏制度』は、仕事をしていくうえで足かせになっています。この閉塞感のある日本の象徴であり、選択的夫婦別姓制度を受け入れないこの国を、なんとか変えていただければと思っています」

記者会見でそう語ったのは、宇宙関係の機関で働く新田久美さん(仮名)だ。夫とともに原告となった。

政府が旧姓の通称使用を進める中、それでは仕事で活躍できないという新田さん。その理由をこう説明した。

「私が働く機関の中では、通称使用が非常にスムーズにおこなわれていて、国内では特に不便は感じていません。しかし、国外に出た途端、通称は通じなくなります。

たとえば、アメリカ航空宇宙局NASA)はパスポートと同じ戸籍名でなければIDを出してくれません。欧州宇宙機関でも、発表予定の論文の名前とパスポートの名前が違うと、学会には参加できない可能性が出てきます。大変な交渉をして、やっと1日遅れで参加できるみたいな状況です。

つまり、いくら通称を使用していても、海外に出てしまったら、『それって一体何?』ということになります。海外では特にセキュリティが厳しく、パスポートの名前と仕事の名前の同一性が求められます。私だけでなく、周囲でもそういうことが散見されます。活躍できないだけでなく、その経済的な損失も大きいと思っています」

⚫︎職場で上司から旧姓で呼んでもらえず…

今回、札幌でも事実婚の夫婦2人が原告となった。東京の会見場とオンラインでつなぎ、会見に参加した妻の佐藤万奈さんは自身の体験を語った。

「夫婦が別姓だと、家族の絆が壊れるという方がいるのですが、私たちは夫婦別姓が選べないせいで、絆が壊れかけました」

病院で勤めていた際に法律婚をしたという佐藤さんは当初、夫の名字に変えていた。ところが、その病院は通称使用を認めていなかったという。

「病院内でどんどん名札や電子カルテに表示される名前が、少しずつ変わり、佐藤ではなくなっていきました。でも、長く勤めていた病院だったので、周囲にはこれからも佐藤と呼んでもらえるとうれしいですと伝えていました。

でも、当時の上司から、『君はもう西(夫の名字)だろ、どうして旧姓にこだわるんだ』と言われました。私が嫌がっているのを知っているのに、わざとみんなの前で『西』と呼ぶみたいなことがあって、だんだんと職場にいると体調を崩すようになってしまいました」

佐藤さんは結局、その病院を辞め、夫とは法的には離婚して事実婚となった。事実婚となった際に、佐藤さんは夫に思わず「恨んでいる」と言ってしまったという。

「夫に『名字を変えてほしい』と言われたことを恨みに思ってしまっていました。好きで結婚した人に、そんなことを思いたくなかったです。でも、それは夫のせいではなく、国が法改正していないせいなんですよね。

ですから、夫婦で別姓を選べるよう選択肢を増やしてほしいと思っています。裁判官の方たちには『夫婦別姓が選べす、困っている私たちみたいな存在見えてますか?』ということを伝えたいです」

「通称使用は国外で活躍できない」「夫婦の絆も危機」 選択的夫婦別姓求める原告、訴訟への思い語る