BOOK SHORTS 10周年×ブリリア ショートショートシアター オンライン6周年記念 アニバーサリーパーティー

 短い表現の中にメッセージを凝縮した「短編」の面白さを、「小説」と「映画」の両面から語り合う——そんな一夜のイベントが実現した。2月22日LIFORK Harajukuで開催された「BOOK SHORTS 10周年×ブリリア ショートショートシアター オンライン6周年記念 アニバーサリーパーティー」である。

 このイベントでは2つのカルチャーがコラボレーション。そのうちの1つ「BOOK SHORTS」とは、国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)が展開する短編小説公募プロジェクト。10年間で1万7000点以上の短編小説が応募され、優秀作品はSSFF & ASIAの監督たちと共にショートフィルム化されてきた。

 一方、「ブリリア ショートショートシアターオンライン(BSSTO)」とは、SSFF & ASIAと連動しながら、世界のショートフィルムを配信するオンライン映画館。6周年を迎えた今年までに300点以上の作品を配信し、ショートフィルム好きの拡大を図ってきた。現在では登録ユーザー数が11万人を超えている。

 小説と映画。異なるアウトプットでありながら、“短編”という同様のテーマを持つ2つのカルチャー。それらを見つめながら、作り手の想い、受け手の想い、そして小説や映画の可能性について、3人がトークを繰り広げた。

BOOK SHORTS 10周年×ブリリア ショートショートシアター オンライン6周年記念 アニバーサリーパーティー

●短編の話を聞くなら…という3人がトーク

 モデレーターを務めたのは、SSFF & ASIAの発起人であり、BSSTO運営の代表を務める別所哲也。迎えるゲストは、第二回ブックショートアワードの大賞受賞者で、現代に蔓延する違和感を切り取った作風で知られる小説家大前粟生。もう1人は、本好き芸人であり、短編小説やエッセイの書き手でもある加納愛子(Aマッソ)。今、短編の話を聞くならこの人たち…と思わせるようなコンビネーション。この日は、途中で2本のショートフィルムの上映をはさみながらのトークとなった。

●小説を書き始めたきっかけ

 小説を書く、という共通点を持つ大前と加納に向けられた質問は、「なぜ小説を書き始めたのか」というもの。大前は意外にも、就職活動でストレスを抱えているときに書き始めたのだと語る。「小説を読み始めたのも大学生くらい。会社員は無理だから、とりあえず何か作ろうと。小説なら紙とペンさえあれば、お金をかけずにできるから」。小説家となった現在は「何かを作っていないとどうしたらいいのかわからないから書く」というのが執筆のモチベーションだとか。

 加納は、「エッセイの次に『小説にチャレンジしませんか?』と言われた」のがきっかけ。言われてすぐに書けるものではないはずだが、「いやいや、先輩芸人さんが道を開いてくれたので、見よう見まねで」と恐縮する。小説とコントの違いについては「根本的に構造は違うけど、ボケやオチの筋立てを考えるコントと小説は似たところがある。『この言葉いいな』って思いついたものが、ネタにはならないけど小説にできることがあって嬉しい。ただ小説は人物が多いから、『こいつ、ほったらかしだった』ってなることがある」とのこと。

 ちなみに、作家であり脚本家でもある先輩芸人・バカリズムのコントや映像を見たときには、「アウトプットの方法は違うけど、人間のこういうところを面白がっている、みたいな根幹は似ていると思った」と感じたとか。

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●自分のアイデンティティとなるテーマとは

 物語の作り手として、追いかけているテーマについて話が及ぶと、加納は「女性同士の会話や、人同士のコミュニケーションを書くのが好き。すごくミニマムなところでの交流や会話に関心があり、それが現状では、他の人にはない自分のオリジナリティだと思っている」のだという。

 大前は、「今の世の中はめちゃくちゃだなと昔から思っていて。たとえば、人がいくらでも働いちゃうような感じとか、同調圧力とか。そこに自分がパッとひらめいたバカバカしいものをできるだけ入れながら、若い人がラクになれるものを書きたいと思っています」とコメントした。

 2人の発言を受けて、別所は、「カンヌ国際映画祭などでは、世の中で置き去りにされた人たちに光を当てた作品に賞を与えられることが多い。『PERFECT DAYS』の役所広司さんが演じた役もそう。そういう人に眼差しを向けると、いつもとは違う世界観が見えてくることがある」と映画人ならではの発言。

BOOK SHORTS 10周年×ブリリア ショートショートシアター オンライン6周年記念 アニバーサリーパーティー

 この言葉に、本好きで知られる加納は、「大前さんの作品は『こういう感情になる人を救う』という小説が多い気がする。『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』も、ぬいぐるみ相手なら本音を言える人たちが集まるサークルのお話で。そういう人たちの魂を救おうとするのは大前さんにしかできない技だと思いますね」と、大前の作り出す世界観について自身の考えを述べた。

●小説と映画が合わさったときの可能性

 本を買うときの選び方について、大前と加納は「ジャケ買い(表紙を見て買う)もするし、偶発的な出会いを楽しんでいる」という考え方が一致。大前は「作品のエッセンスが詰まっていることが多い冒頭を読んでから決める」ことも多いとか。

 さらに、お気に入りの作家として、2人とも、この後上映されるショートフィルムの1つ『ホーム・スイム・ホーム/Home Swim Home (LE GRAND BAIN)』の原作を執筆したミランダ・ジュライを挙げた。大前がミランダ・ジュライの作品の魅力について「奇妙奇天烈な話とか、それこそブックショートのおとぎばなしをアレンジしたような作品」と語ると、加納が「私も大好きですね。ミランダ・ジュライの本を訳されている岸本佐知子さんや、さくらももこさんからも私は影響を受けています」と同調。

 加納は短編映画『ウワキな現場』などで演技にも挑戦しており、執筆時の登場人物のセリフの組み立て方について話が及ぶと、「綿矢りささんとお話しした時に、喋りますか?って聞かれて…。執筆するとき、脳内で喋るタイプと喋らないタイプがいるんですって。私は大喋りですよ! ネタを書くときと一緒」と。一方の大前は「喋ったことがない」と意見が分かれた。続いて「僕の場合は場面が次々と出てきて、場面が人を作る感じ」と発言し、2人の執筆スタイルが違うことがわかった。

 また、自身の小説『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が映画化された大前は、自分の作品が映像化されることについて「不思議な感覚というか、ありがたい限り。監督さんや俳優さんが僕以上に登場人物のことを考えてくれるので、この人物はこうだったんだ…って初めて気がつくことがある。文章の段階では自分の頭の中にしか存在しないキャラクターだったので、親心というか」とのこと。

 これには加納も、「私も違うものとして見ている気がする。昨年NHKで脚本を書いたとき(お笑いインスパイアドラマ「ラフな生活のススメ」)に、明らかにボケみたいなセリフが、違うアプローチで演出されたときに、おもろ~って。人の解釈を楽しめるほうですね」と、大前と同じ感覚であることを述べた。また、原作とイメージが違った映像に『アラジン』を挙げ、「ジーニーがウィル・スミスになったとき、一瞬びっくりしたけど最高やった」と話して会場を沸かせた。

●ショートフィルムで表現されるもの

 トークの合間に上映されたショートフィルムのうちの1本は、大前が約8年前にブックショートアワードで大賞を受賞した『ユキの異常な体質/ または僕はどれほどお金がほしいか』。上映を観た加納の感想は、「2つの物の掛け合わせ方の距離感が、大前さんらしい作品。雪女っていうファンタジーに“お金”でリアリティを入れてくるっていう。最後にいいこと言いそうなワンショットで…人間のクズさが出てる」というもの。

 加納の感想を受けて、大前は「当時の自分に聞かせたい」と喜びながら、雪女である“ユキ”というキャラクターを通じて伝えたかったことについて、「人間のクズな感じ…それは伝えたかった。人間以外の妖怪や伝説上の生き物をよく書きますが、やっぱり、人間がいちばんわがままでどうしようもない。この作品でいえば、お金に執着する人間の業に対して、どこかピュアな雪女っていう」と語り、自身の作品について語る加納の言葉に応えた。

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●クリエイティビティの豊かさとは

 “短編”をよく知る3人の鼎談となったが、このイベントの感想について聞かれた加納は「いわゆる商業的なものとは違う、これを映像で見せたいんだ! っていう誰かの強い意志によって作られた“なんだこれは?”っていう映像もあると思うけど、そこにお金が集まるエンタメ界であってほしい。このイベントも意味わからんけど、意味わからんイベントに無理に名付けをしないでいいと思う」と発言。

 これに対し、別所が「物語が共感や違和感で人と人をつなぎ、いろんなものを生み出す。よく言うんですが、映画や小説で、自分の人生とは関係ない、でも忘れられない、自分より良き人生“ベターライフ”や、自分とは違う“アナザーライフ”に出会えると、その出会いの数こそが生きてきた証になる」と持論を述べると、加納が「ええこと言うやん!」と大絶賛。

 大前は、来場した人たちに向けて「小説書いてる人いますか?」と投げかけ、パラパラと手を挙げた人たちに対し、「どんな表現でも、トレンドが受け手との接点だったりもしますが、あまり流行にこだわるとその中で溺れちゃうかもしれないし、自分にフィットしているかどうかわからない。自分の中から出てくるクリエイティビティを一つひとつ全力で表現しようとすると、後悔の少ない執筆生活を送れるのかなと思います」とアドバイス。

 加納は「業界が細ってしまうとストロングなものしか残れない。だから、小説や映画業界が豊かであるためにも、いろんな人がいていいと思う。観る側のみなさんも、手前の批評に惑わされず、自分で選んで面白いものを決めていただければ、それが結局作り手の業界の豊かさにつながると思う。希望を持って観ていただけたら」と、小説と映画業界に対する願望と想いを来場者に届けた。

 最後に、前日に誕生日を迎えた加納に美しい花束が贈られ、「40は不惑と言いますが、まだ35だし、あと5年間惑える。あの人迷走してるな…って言われても“上等や!”と。まだ自身が固まっておりませんから、“らしさ”みたいなものに縛られずにやっていきたい」と加納が今後の抱負を語る場面も。

 原宿駅前の都会らしい空間で、ワインなどのドリンクを片手に過ごした、大人の一夜。年代や性別を問わず、カルチャーに敏感な人たちが集まり、短編という豊かな表現について、そして小説や映画のしあわせな出会いについて語り合う、他にはない貴重なイベントとなった。

BOOK SHORTS 10周年×ブリリア ショートショートシアター オンライン6周年記念 アニバーサリーパーティー

取材・文=吉田あき、写真=三浦貴哉

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