定年を待たずして退職し、不労所得で生活する、所謂“FIRE”に憧れている人は多いのではないでしょうか。独立系FPである内田優帆氏の元にも、FIRE志望の20代共働き夫婦が相談に訪れたといいます。2人はiDeCo・NISAをフルに活用して資産形成に励んでいるようですが、仮に毎年4%の利益を得られたとしても20年間で築ける資産は2,000万円ほど。早期リタイアをめざすには少な過ぎる額ですが、家計を見直すだけで、FIRE実現の可能性は高まるといいます。詳しくみていきましょう。

早期リタイア&地方移住を夢見る20代の夫婦

今回、筆者の元に相談に訪れたのは、20代の共働き夫婦。子どもはおらず、システムエンジニアである夫と金融機関に勤める妻の合算年収は1,500万円ほど。同年代の平均的な世帯と比べれば、かなりの高収入です。

そんな2人の将来の夢は、早期リタイア、所謂“FIRE”を実現して、田舎で古民家暮らしをすることだといいます。

≪夫婦の特徴≫

  • 夫…年収800万円(手取り約630万円)、システムエンジニア
  • 妻…年収700万円(手取り約560万円)、金融機関勤務
  • 預貯金200万円、投資信託200万円
  • 夫婦ともにiDeCo、つみたてNISAは満額投資している(現在3年目に突入)
  • ボーナス時は散財しがち
  • 夫婦で別々に財布を管理している

そもそもFIREとは、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉。日本語では「経済的自立と早期リタイア」と訳されています。2010年代ごろからアメリカで提唱され始めたライフスタイルで、日本でもこれをめざす人は多いようです。

そんなFIREを実現させるために必要なのが「4%ルール」。投資によって毎年約4%のペースで資産を増やし、得た利益の範囲内で生活することをいいます。運用益のなかで暮らせば、資産が減ることはありません。

たとえば1億円の資産がある場合、4%=400万円の収益を得て、その範囲内で生活できればFIRE実現となります。

高収入な共働き夫婦なのに…資産形成が進まないワケ

今回の相談者である夫婦もFIREに憧れ、日々インターネットで移住したい地域の情報や古民家の物件情報についてリサーチしているようですが、果たしてFIREは実現できるのでしょうか。

詳しく話を聞いてみると、いくつかの問題点が浮かび上がってきました。

まず、夫婦で財布を別々に管理している点に注目です。

この2人のように、とくに共働き夫婦の場合、財布を別々に管理しているケースは少なくありません。そのため、お互いの貯蓄額や支出を把握しておらず、「共通口座に毎月いくらか貯金をしているものの、それ以外はまったく貯めていない」というケースもしばしば。「夫が/妻ががきっと貯めてくれているはず」と相手に甘えてしまうのかもしれません。収入が安定しているがゆえに、多くの共働き世帯が陥りがちな「落とし穴」だといえます。

また、共働き夫婦は世帯収入が多い分、支出も増えがち。外食やデリバリーが多く、多額のボーナスを受け取れば、自分へのご褒美も派手になってしまうのでしょう。

この夫婦も、ともにiDeCoやつみたてNISAをフルに活用して資産形成を行っているようですが、職場への距離を優先して選んだマンションの家賃は、物件のグレードにも比例して相当に高く、また半年に1回ほどの頻度で国内外の旅行に出かけるとのことで支出は多めです。

いくら収入が多くても、その分支出が増えるようでは、お金が貯まるはずがないのは明白。

現状2人が行っている、iDeCo27.6万円/年、つみたてNISA40万円/年の投資のみでは、仮に利回り4%で20年間運用できたとしても、資産額の合計は1人2,000万円ほどにしかなりません。老後資金としては足りるかもしれませんが、FIREをめざすには到底十分ではないでしょう。

お金に縛られない生活を手に入れるためのポイント

冒頭に触れた「4%ルール」で生活を成り立たせるためには、それ相応の投資元本が必要です。この夫婦が仮に、20年後に4,000万円の資産を築いていたとしても、そこから得られる利益は年間160万円ほど。到底、2人で暮らしていくには足りないはずです。

勤め人である限り、自身の意思や努力によって急激に収入を増やすことは困難ですから、まずは支出を削り、浮いたお金を投資・貯蓄に回すことから着手すべきでしょう。

以下、いますぐ実践すべき家計の見直しポイントをみていきましょう。

1. 夫婦の収支を可視化する まず、夫婦の収入を合算して収支を可視化し、ライフプランを立てましょう。今後、出産や転職、マイホーム購入などライフスタイルが変化することも考えられますが、その時々でプランの見直しができるように準備しておくことが重要です。長期的なライフプランについて相談できる相手をみつけておくことも1つの手です。 2 .先取り貯蓄を習慣づける 無理のない範囲で先取り貯蓄をし、給料が手元に入る前に貯蓄や投資に回すようにしましょう。24年から始まる新NISAのつみたて部分は最大120万円まで投資ができるようになります。つみたてNISAを現在の40万円から120万円に増額すれば20年間の運用で約4,500万円(利回り4%で計算)。夫婦合わせると約9,000万円にもなります。 投資をすれば必ず資産が増える訳ではありませんが、運用期間が長期に及ぶほど、複利の力で資産は増えやすくなります。また利回りが4%以上になったり、余剰資金をさらなる投資・貯蓄に回したりできれば、FIREの実現が近づくでしょう。 3. 幸福度を高める方法について話し合う 収入が多い家庭は支出も増えがちですから、いま一度支出の見直しをしてみる必要もあるでしょう。節約ばかりする必要はありませんが、FIREを達成するためには生活水準を上げ過ぎないことが重要です。限りある資金のなかで生活の幸福度をいかに向上させるか、夫婦でしっかりと話し合っておくべきだといえます。 4. 自己投資を惜しまな 実はもっともリターンが大きい投資が「自己投資」です。ついつい貯金や投資ばかりに目を向けがちですが、若いうちは自己投資も積極的に行いたいところ。具体的には、本を読んだり資格を取ったり……。自己投資の支出が増えたとしても、後で収入が増え、副業などにつながるのであれば有意義な投資となり得ます。

今回の相談者のように世帯年収が高く、また年齢も若ければ、早いうちにライフプランを立てて準備することでFIREも十分に可能です。また、完全なFIREではなくとも、労働収入と資産収入を合わせて生活する「サイドFIRE」であれば、より早期に実現できるかもしれません。

上に紹介した4つのポイントは、お金に縛られない生活を実現したいすべての世帯に必須の考え方。FIREをめざしている訳ではなくとも役に立つ点はきっとありますから、ぜひ心がけてみましょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)