ちっぴぃちゃんズ

自衛隊芸人」といえばやす子の活躍が目覚ましいが、元自衛官で吉本興業所属の女性芸人のちっぴぃちゃんズを知っているだろうか。自衛隊の戦闘服に身を包み、YouTube等でネタを公開している。

そのネタは「女性自衛官あるある お団子編」「陸上自衛隊あるある 水筒点検編」といったあるあるから、「120㎜対戦車榴弾こんな使い方は絶対ダメ」という日常ではありえないものまで幅広い。

そんな、いま自衛官たちの間で話題になっている彼女について、同じく元陸上自衛官の筆者がその全容を明らかにしていく。

 

■元陸自の女性自衛官

ちっぴぃちゃんズは、かつて陸自の3等陸曹として普通科連隊に所属しており、退官した現在は有事の際に自衛官として活躍する「即応予備自衛官」でもある。

特徴的なのがネタの数々が非常にリアルなこと。前述の「陸上自衛隊あるある 水筒点検編」では、装備の水筒の水をうっかり飲んでしまった自衛官が、突然の点検に驚き、飲んだことをごまかそうとする様子が描かれている。

元自衛官の筆者から見ればあるあるで面白いのだが、一方で「リアルかつマニアック過ぎて、自衛隊関係者以外は理解できないのでは?」と心配してしまうほど。ただ、シチュエーションこそマニアックなものの、髪型の悩みや学校や会社のあるあるに置き換えると非常に見やすく、自衛官同士のやりとりや人間関係がわかりやすいので、一般の視聴者にも受け入れられているようだ。

 

関連記事:自衛隊小銃乱射事件は起きるべくして起きた 元第10師団内レンジャー教官が明かす募集難の苦しい実状

■キャリアを生かした面白さ

また、3曹まで務めたキャリアも彼女の強みだろう。彼女は京都府福知山駐屯地に所在する第7普通科連隊(以下、7連隊)に約10年間所属していた。その上、陸士といういわば「兵隊」から陸曹という「下士官」に昇任し3曹まで務めていたので、自衛隊の現場を知り尽くしたリアルさがある。3曹に昇任するためには、体力や学科試験や面接からなる昇任試験をクリアし、その後陸曹教育隊という教育機関で、約6ヶ月の大変厳しい教育訓練を受ける必要がある。

3曹承認後は陸士の指導・監督を行う営内班長職や、現場の分隊の隊長である分隊長職、物品や食事等の担当者として事務作業を行う係陸曹職を務めることもあるため、現場のことはかなり理解しているはず。

さらに、当時の職種(自衛隊内での業種)が普通科(歩兵)であったため、思い描く自衛隊像といった前線に近い場所での「戦闘のリアル」を知っている。その経験をネタに昇華しているので、自衛隊関係者が見るとリアルかつ共感できて面白く、自衛隊経験が無い一般人が見た場合は、自衛隊らしいシリアスさも相まって異世界のような文化を知ることが出来てとても面白いのではないだろうか。

関連記事:自衛隊銃乱射事件で注目の第10師団 元幹部が明かす「小銃紛失や不祥事」の実態とは

■元陸上自衛官の筆者がおすすめしたいネタ

ちっぴぃちゃんズ

筆者がまず紹介したいネタは、YouTubeチャンネルに投稿している「一般人&自衛官 アウトドアでのレトルトカレーの食べ方の違い」だ。

動画内でちっぴぃちゃんズはご飯を二つ折りにしてそこにカレーを入れているが、自衛官は本当にこの食べ方をする。野外で食べるレトルト食である戦闘糧食はレトルトご飯とおかずでセットになっていて、こうして二つ折りにしたスペースにおかずを注ぐ。こぼさずに早く食べるための伝統的な工夫であり、自衛隊関係者が見るととても共感できて、元自衛官の筆者からしても懐かしくて笑みがこぼれた。

次に紹介するのは「外出時、むっちゃ雰囲気変わる女性自衛官おる」。戦闘服に身を包んだ真面目に勤務する女性自衛官が外出するときの一コマで、プライベートの服装と普段のギャップに検問する自衛官が驚くというもの。自衛官も街に出れば今どきの若者なのだ。

教育期間中は女性も短髪にするなど服装規則が厳しいが、現場にいるときは長髪も楽しめる。これから入隊を考えている女性も安心してもらいたい。

 

関連記事:即応予備自衛官に復帰するやす子は自衛隊時代に何をしていた? 元自衛官が解説

■コラボで自衛隊から感謝状も

ただ面白いだけでなく、積極的に自衛隊と連携している点もちっぴぃちゃんズの特徴の一つだ。SNSを活用した募集業務に貢献したとして、自衛隊大阪地方協力本部長から感謝状も授与されている。かつて自衛隊から感謝状を授与された有名人でいえば、長渕剛カズレーザーやす子などでいずれも偉業である。さらに、現役時代に所属していた7連隊が広報において有名であることも相まって、7連隊等とのコラボ動画も多数公開している。

特に興味深いのは、「ドライブインコンバットに潜入!」という動画だ。7連隊が実施した、一般客を自家用車で演習場に入場させ、戦闘訓練をドライブインシアター方式で公開するというユニークなイベントに潜入取材して、元自衛官芸人ならではの視点で解説している。目の前で装甲車や歩兵の戦闘や空包射撃が繰り広げられるシリアスな訓練を面白おかしく、分かりやすく動画にしていておすすめの動画である。

このように、自衛隊を辞めてからも自衛隊を愛し、お笑い芸人というかたちで貢献を続けるちっぴぃちゃんズを、同じ元自衛官という立場でただただ敬服するばかりだ。

 

関連記事:自衛隊では常識の「防弾チョッキ」の“鉄板抜き” 元レンジャー教官が内情を告白

■執筆者プロフィール

安丸仁史(やすまるひとし)1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマーお祭りパンクロックをこよなく愛する。

元陸上自衛隊の女性芸人・ちっぴぃちゃんズ、ネタがリアルすぎる… 元自衛官から見たその面白さ