反響の大きかった2023年の記事を厳選、ジャンル別にトップ10を発表してきた。今回は該当ジャンルがなかったが実は大人気だった記事を紹介する!(集計期間は2023年1月~10月まで。初公開2023年6月4日 記事は取材時の状況です)
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 店や企業に対して、“顧客”という立場を利用しながら理不尽なクレームをつけたり、無理難題を押し付けたりするカスタマーハラスメント(以降、カスハラ)。その多くは客や消費者によるものだが、企業間で取引先の担当者が“契約打ち切り”などをチラつかせ、カスハラまがいの態度で無茶を要求してくるケースも……。特に若手の社員に対しては、あからさまに威圧的な言動をとる人もいる。

◆キレ気味の電話に困惑

 大手企業のコールセンターでクレーム対応をしていた菅原大地さん(仮名・20代)。コールセンターは、一般客からの受電と、企業からの受電の部門があり、菅原さんは後者に属していたという。

 ある日、会社で扱っている商品を発注する立場にある、取引先の男性社員Aから電話を受けた。すると、すでにキレ気味だったようで……。

「Aは、『商品が届いたが不備があった。今回の発注は取り消す』と言ってきました。私は、不備の内容を細かく確認し、対応策を考えて提案しようとしたのですが」

◆口調を荒げ、聞く耳をもたない取引先の担当者

「急に口調を荒げ、『もう遅い!』と言い放ったんです。さらには、『このままであれば、おたくとの今後の取引を停止せざるを得なくなるぞ』とまで言ってきました」

 当然のことだが、コールセンターでは常に丁寧な対応を心がけている。菅原さんは、聞く耳をもたないAに対して、どう接していいのかわからなくなってしまったそうだ。

「荒野に取り残されたような気持ちで冷や汗が止まりませんでした」

 そんな中、菅原さんの上司が「電話に代わる」と言い、対応を始めた。

◆脅しに対して上司が反撃「他社の製品に変更しても構いませんよ

 電話越しからAの「この商品を取り扱っている企業は他にもある! そちらにしてもいいかもしれない」という言葉が聞こえてくる。それに対する、上司の一言に衝撃が走ったと振り返る。

「上司の『それなら、他社の製品に変更していただいて構いませんよ。そうすれば、お互いにいいですよね』というまさかの返答に、Aも驚いて沈黙している様子でした」

 上司は冷静に、淡々とこう続ける。

A様の自由ですよ。私たちもお客様のニーズに合わせて商品を提供するために努力をしていますし、他社に比べても圧倒的なサポート体制が整っていると自負しています。それでも他社と取引をなさりたいのであれば、大変残念ですが、お手続きを進めましょうか」(菅原さんの上司)

 Aは返す言葉が見つからず、最終的には謝罪をしたうえで電話を切ったという。それからは、Aからのクレーム電話が掛かってくることはなかった。

 菅原さんは「上司の対応にスカッとしました」と笑顔で話してくれた。

◆コロナ禍で体温計の需要増!欠品に激怒した薬局バイヤー

 医療機器メーカーの営業職である鈴木美優さん(仮名・20代)は、上司とともに、担当する大手ドラッグストア本部で行われる体温計の商談へと向かった。

「コロナ禍真っ只中でした。日本中で体温計の需要が急増し、各メーカーの生産が追い付けない状況だったんです」

 ドラッグストアなどから体温計が消え、定価1000円しないはずの商品がフリマアプリでは1万円以上で取引されていた。

カスハラ発言「他のメーカーに変えてもいいの?」

 各メーカーから商品を買い付けて、ドラッグストアなどの各店舗の商品管理をしている人を“バイヤー”と呼ぶ。取引先のバイヤーBは、体温計の納期が間に合っていないことにイラついており、鈴木さんが若いということもあってか、横柄な態度をとってきたという。

「『で、いつになったら1万台納品できそう? 他のメーカーから提案受けてるから、そっちに変えてもいいと思ってるんだよねー。生産できないってどういうこと? おたくの今年度の売上大丈夫かな……』と言われました」

 鈴木さんは、生産体制を最大限に整えていること、そして生産が追い付かない状況を説明した。

「Bは納得がいかない様子で『だからもうそれいいって。他のメーカーに変えてもいいの? 納品するの? どうする?』とツメられました。私は何も答えることができませんでした」

 すると、そのやり取りを見かねた上司が救いの手を差し伸べたのだ。

◆焦って態度を急変させるバイヤー

 上司がBに対してこう言う。

では、もう御社との取り引きは結構です。御社にも精一杯、社内営業を重ねて納品できるようにしてきました。これで商品が納品できないのなら仕方ありません。他取引先様を通じて全国のお客様に弊社の商品をお届けしようと思います」(鈴木さんの上司)

 これにはBも「さすがに取引停止は困る」と思い返したようで、顔色が一変。

「『せ、生産状況や御社の対応について理解できました。また生産見込みが立ったら納品できる時期を教えてください!』と焦っていたのを覚えています」

 バイヤーにとっても“強い(売れる)商品”が大事。そのため、バイヤーはメーカー側と長期的に良い関係を築きたいものなのだ。鈴木さんの会社の体温計も例外ではない。

「この一件以降、私が1人で商談に行っても横柄な態度をとることはなくなりました」
 
<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

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