コロナ明けを襲った令和インフレで深刻化する貧困問題。仕事を失って衣食住もままならないなか、最後の砦ともいえる“住まい”を失った中年男たちの実態とは?他人事ではない家なき中年の壮絶な生活に迫った。令和インフレで家を失った人たちの壮絶生活とは——。

◆物価高で自己破産

 元飲食店従業員の大谷忠さん(仮名・40歳)も、家を失った中年のひとり。失職時に生活保護の申請に行くも、生活困窮者自立支援の窓口に回され保護を受けられず繁華街難民になったという。

「職場はイベント会場を兼ねたバーだったのですが、酒代などの原価率が上がったことで昨年5月にバー営業は中止。僕は正社員でしたがバーテンダーとして雇われていたので、店に居づらくなり昨年10月に自主退職しました」

 大谷さんは2年前からカードの支払いに追われており、家計は火の車だった。

◆深夜営業の店が寝床に

 今やパックご飯と温泉卵、飲み物を購入するだけで500円近くかかる世の中。

「物価高が地味に効いてきたのでしょうね。年収300万円で生活スタイルは変わらないのに、カードの支払額が収入を上回るようになり、複数のカード会社から借り入れをするようになりました。収入が途絶えた時点で、貯蓄ゼロどころかマイナスです。結局自己破産して、家賃6万円の部屋も引き払いました」

 現在は繁華街のカラオケ店や居酒屋で夜を越す。

「コロナが明けて、深夜営業の店が増えたのは不幸中の幸い。ウーバーイーツで小銭を稼ぐとき以外はこの繁華街から出ることはありません」

 1年前から適応障害を患っていた大谷さん。自力で生活を立て直すのは難しい状態だ。

◆上野公園で暮らして数十年の高齢ホームレス

 空っ風が肌を刺す1月の上野恩賜公園。ここに数十年にわたって住み続けているという横川和夫さん(仮名・70代)は、「誰かと話すのは久しぶりで嬉しいよ」と、昨今のホームレス生活事情について気さくに語ってくれた。

「上野公園に住んでいる人は全盛期には20人くらいいたけど、みんな死ぬか散り散りになって今は4人だけ。たしかに最近新しい人をちらほら見かけるけど、ここでは皇族が訪れるたびに『山狩り』が行われて行政の人に出ていけと言われるからホームレスには厳しいところだよ。最近は宗教の勧誘なんかも多いかな」

 なぜか最近は宗教の勧誘が多いと首をかしげる。「勝手に死後は地獄落ちなんて言われると気分が悪くなるよ」と話す。

◆昨今の物価高はさまざまな人に影響が

 昨今のインフレは、横川さんの生活にも少なからず影響を与えている。

「自販機飲料の値段まで上がっちゃってサ。ゴミも減ったから空き缶集めの実入りが悪くなって大変だよ。それに、最近は円安で態度の大きいチンピラ外国人が上野公園を闊歩してる。たまったもんじゃない。俺が子どもの頃の1ドル360円の時代に戻ったみたいだよ」

 横川さんはかつて大企業に勤めていたが、脳の病気で職を失ってしまったのだという。

「あのとき死んでいればって何度も思ったよ。いろいろあって母とも絶縁した。でも、もし生きていたら心配をかけるから、顔や名前は出さないでくれよ。もう会うことはないと思うけど」

 人は住む家を失ったからホームレスになるのではない。人との関わりこそが大切だ。

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[家なき中年]の肖像]―


大谷忠さん(仮名・40歳)