経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社スノーピークの業績について紹介したいと思います。

アウトドア用品・アパレルを手がける同社は特に2010年以降、ブランドイメージを確立させ、高価格帯ながらも売上を伸ばすことに成功した同社。コロナ禍ではアウトドア人気に乗る形でさらに躍進しましたが、ブームも終結し、2023年度は悪化に転じています。最終利益に至っては前年の19.5億円から、僅か100万円へと落ち込みました。その理由をひも解いていきましょう。

◆オートキャンプブーム終結後に低迷も、ブランド力で再起

スノーピーク1958年新潟県三条市の金物問屋として創業しました。翌59年から登山用品の開発・販売を始めていますが、創業者の趣味が登山であったことがきっかけです。その後63年にブランド名として「スノーピーク」を商標登録しました。80年代後半から始まったオートキャンプブームに乗るべく、88年に関連用品の販売を開始し、これが成功したことで5億円程度だった同社の売上高は93年に25億円まで伸びました。しかし、ブーム終結ですぐに元通りとなり、99年には売上高が14.5億円にまで低下しました。ちなみに社名をスノーピークにしたのは96年のこと。

一部ファンの間では知られていたものの、価格が高い点や店舗における品揃えの悪さがネックとなり、90年代も低迷が続きました。しかしその後、流通面の改善と販売店の縮小で価格低下及び品揃えの充実化に努めます。これらの施策が効果を発揮し、2000年代から徐々に業績を伸ばしました。

そして、2010年代はさらに躍進し、2010年12月期に29億円だった売上高は20年12月期には168億円になるなど5倍以上に拡大しました。アウトドア用品ブランドとして高いブランド力を確立できたことが背景にあり、商品の品質が優れているほか、近年の消費者が好む飾り気のないデザインがブランドイメージを構築しました。

また、10万円、20万円台のテントや5,000円台のマグカップ、5万円台のメンズコートなど、スノーピークの製品は一般的なブランドと比較しても中~高価格帯にあります。強気な価格設定自体もブランド力を醸成していると考えられます。

アウトドアブームで近年さらに躍進

そして近年は業績がさらに伸びました。密を避けられるレジャーとしてアウトドアがブームとなり、ブランド力のあるスノーピークの商品も人気となったためです。19年12月期から22年12月期まで同社の売上高・営業利益は以下のように推移しました。

【株式会社スノーピーク(19年12月期~22年12月期)】
売上高:142億円→168億円→257億円→308億円
営業利益:9.2億円→14.9億円→38.2億円→36.7億円

◆販売形態は3種類

スノーピークは基本的に製品の製造を他社工場に任せており、自社では企画開発と直営・卸売を担っています。主な販売形態として直営店とインストア、ディーラー卸の3種類があります。そしてインストアとディーラー卸はいずれも、WILD-1やアルペンアウトドアーズなどのスポーツショップや家電量販店等にコーナーを設けて販売する卸売形態です。各販売形態の内訳と22年12月期の売上高は次の通りです。

直営店:自社で管理する小売店での販売(直売):44.4億円。
インストア:スポーツショップにコーナーを設けて販売する卸売形態。販売員は自社スタッフ:46.3億円。
ディーラー卸:スポーツショップにコーナーを設けて販売する卸売形態。販売員は卸売先スタッフ。ECへの卸も含む:98.9億円。


コロナ禍では上記販売形態の全てで売上が伸び、メインのディーラー卸に関しては19年度から22年度にかけて2倍に拡大しました。

◆ライト層がスノーピーク製品をメルカリに出品?

ただ、アウトドアブームも過ぎ去り、スノーピークの業績も悪化に転じました。売上高と利益、各業形態別の売上高は22年度、23年度間で次のように推移しています。

売上高:308億円→257億円
営業利益:36.7億円→9.4億円
最終利益:19.5億円→100万円


直営店:44.4億円→46.5億円
インストア:46.3億円→39.3億円
ディーラー卸:98.9億円→52.3億円


報道では最終利益が99.9%以上も減少したことが話題となりました。とはいえ形態別に見ると自社が手がける直営店やインストア業態は大きく落ち込んではいません。

主な悪化要因はディーラー卸の売上が減少したことにあります。卸売先での売れ行きが落ち込み、在庫過多の状態も発生したようです。最近ではメルカリリサイクルショップでスノーピークの商品が数多く出回る事態にもなっています。テントなどのアウトドア用品は頻繁に買い替えるものではありません。趣味として定着しなかったライト層が手放したことが原因と考えられます。

◆今後は米国&中国市場の開拓を視野に

なお、今後は米・ファンドと手を組んでMBOを実施し、非公開化で経営陣の自由度を確保した上で再起をかける方針です。米・プライベートエクイティのベインキャピタルが1株1,250円でのTOBを決定しています。非公開後はスノーピークの株をベインが55%握り、残りの45%を創業家である山井家が保有するとみられます。

ベインはこれまでも買収した企業の価値を高めてから売却し、利益を得る手法で投資を行ってきました。ベインのノウハウを活かし、米国および中国での開拓を進めるようです。ちなみに23年度における米国・中国での販売高はそれぞれ23.4億円・11.3億円とスノーピーク全体に対する規模は小さく、伸びしろがありそうです。

スノーピークは24/12期売上高を22年度と同規模の306億円と予想していますが、達成は不可能に近いでしょう。国内直営店の売上が堅調なようにコアなファンによる売上は維持する一方、ライト層向けといえる卸売の売上は容易には回復しません。再起にはやはり海外市場の開拓が必須ですが、こちらも年内の成長で国内の減少分を補うのは難しいです。

◆海外では国内と異なる施策が求められる

米中への進出は長期で考える必要があります。米国の場合、キャンプは日本のようなテントではなく、キャンピングカーで寝泊まりするのが一般的です。シャワーやWi-Fiなどの設備が充実したキャンプ場も多く、アウトドアを楽しみながら仕事をする人も多いようです。現地のオートキャンプに合わせた商品開発が求められます。

一方、中国では日本と同様、コロナ禍でアウトドアブームが起きましたが、「Columbia」や「THE NORTH FACE」といったアメリカブランドの他、現地ブランドも人気を博しています。既に競合がいる中、日本と同じような中~高価格帯設定では険しい道を歩むことになるでしょう。

依然、ステイタス性を重視する消費者が多いため、より高価格設定のハイブランドとして攻めると成功するかもしれません。いずれにせよ海外では国内と異なる施策が求められます。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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