フランク・ハーバートのSF大河小説を映画化し、2021年に公開された『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)。『メッセージ』(16)、『ブレードランナー 2049』(17)などで才気をほとばしらせたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が妥協なき姿勢で作り上げ、米アカデミー賞で作品賞をはじめ10部門にノミネートされ、6部門制覇の快挙を達成した。そして2024年、続編『デューン 砂の惑星PART2』(3月15日公開)がアメリカを含む72の国と地域で3月1日より公開スタート。全米における初日3日間のオープニング興行収入が、前作の4100万ドルを約2倍上回る8150万ドルを記録し、全世界累計でも1億7850万ドルという特大ヒットを記録している。

【写真を見る】『デューン』に魅了されたクリエイター。「クジラの子らは砂上に歌う」の梅田阿比先生が語る、砂の世界の魅力

壮大なスケールと圧倒的な映像美を持つ『デューン』の世界に魅了されたクリエイターは大勢いるが、TVアニメ化もされた人気コミック「クジラの子らは砂上に歌う」を手掛けた梅田阿比もその一人。砂の海に浮かぶ巨船“泥クジラ”の民の運命を描いた作品で、『デューン』とも親和性のある、砂に覆われた神秘的な世界観が特徴だ。今回はそんな「クジ砂」を生みだした梅田先生とのスペシャルなコラボレーションとして、『デューン』の描き下ろしイラストが到着!合わせて「最初から最後まで世界観に没頭した」という『デューン』の魅力と、続編にかける期待も合わせて語ってもらった。

■前作をおさらい!宇宙規模の壮大な罠にハマり、一族を失ったポール

まずは前作のおさらいを簡単にしておこう。舞台はは1万191年、砂に覆われた惑星アラキス(通称、デューン)。貴重な香料(スパイス)が採れるこの星の管理権を銀河皇帝から与えられたアトレイデス公爵(オスカーアイザック)は、家族や従者たちと共に惑星への移住を開始する。砂漠の地下にはサンドワーム(砂虫)と呼ばれる巨大生物がうごめいており、採掘作業は危険を伴うものだが、同時に莫大な利益を見込める。公爵一家は過酷なこの土地の生活になじんでいくが、それは皇帝の罠でもあった。皇帝と結託した宿敵ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)の軍がアトレイデス家を襲撃し、公爵をはじめ一族のほとんどが命を落とすなか、母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)を連れて砂漠に脱出して生き延びた息子のポール(ティモシー・シャラメ)は、砂漠の民フレメンと行動をともにしながら、ハルコンネン家への復讐を誓う。

■続く「PART2」。フレメンと出会ったポールが戦士、指導者として成長していく

今回の「PART2」では前作と大きく異なり、ポールの戦いが本格化していく。アトレイデス家を根絶やしにしたい皇帝(クリストファー・ウォーケン)の指示により、いまやポールは全銀河から命をねらわれる身。そんな過酷な運命にさらさられながらも、彼はフレメンに協力を要請する。最初は警戒していたフレメンの民だが、高い戦闘能力と勇気を持つポールと行動を共にするうち、彼を預言に記された救世主であると認め、信頼を置くようになる。一方で、ポール自身も己の持つ特殊な能力を覚醒させていく。

主人公ポールの成長も本作での大きな見どころだ。前作ではナイフの戦闘術をはじめ、彼の身体能力の高さは示されていたが、実戦の経験がないので戦士としての資質は未知数だった。それが今回は、ハルコンネン兵との戦いや数々の試練を経験することで、戦士として、指導者としても覚醒していく。目覚ましい成長を遂げる彼の姿に触れると、観ているこちらも気持ちが高揚してくる。

■ハルコンネン家との最終決戦に向けて戦闘シーンも壮大に!

そんなポールとハルコンネン軍との最終決戦。数で勝るハルコンネンの軍隊に、ポールとフレメンはゲリラ戦を挑み、巧みな戦術で撃破していく。また前作では脅威として描かれていたサンドワームだが、今作でフレメンたちはサンドワームを地中から呼び寄せ、上に乗って移動できることも明らかに!巨大なサンドワームの群れが敵軍を奇襲するという、とんでもない見せ場も叩きつけられる。連打される砂漠のスペクタクルは、前作以上の迫力だ。

■運命の女性、チャニと惹かれ合うポールだが…

ドラマ面で注目したいのは、ポールとフレメンの戦士チャニ(ゼンデイヤ)との間に芽生えるロマンス。前作でポールは、しばし正体のわからない女性の姿を予知夢で見ていたが、チャニと出会い、それが彼女であることを知った。そんな運命の出会いが、本作ではさらに発展していく。彼らは結ばれる運命にあるのか?それとも…。

■最旬フローレンス・ピューから、ベテランのクリストファー・ウォーケンまで!幅広い世代の実力派キャストが新たに参戦

そしてもちろん、前作以上の豪華キャストにも注目。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(23)も記憶に新しいポール役のティモシー・シャラメMCU版「スパイダーマン」シリーズのゼンデイヤ、アカデミー賞俳優ハビエル・バルデムら前作のキャストに加えて、『ミッドサマー』(19)でブレイクしたフローレンス・ピュー、『エルヴィス』(22)でアカデミー賞候補となったオースティン・バトラー、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(20)のレア・セドゥや名優クリストファー・ウォーケンに加え、役柄は明らかにされていないが、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」で高評価を得たアニャ・テイラー=ジョイの出演も見逃せない。

リアルな映像やディテールにこだわるヴィルヌーヴ監督の才腕は、今回も存分に発揮されており、歴史に残る傑作と評されている。見応えのあるドラマはもちろん、興奮必至のクライマックスを、ぜひ劇場で体感してほしい!

■「『デューン』を“架空の世界”として終わらせない、強いこだわりを感じました」

――今回のイラスト制作にあたり前作を観直されたそうですが、改めて『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た感想をお聞かせください。

「圧倒的なクオリティでびっくりしました。設定等のわかりやすい説明はなかったのですが、その作りのおかげか、どのシーンを切り取ってもチープな部分がなく、最初から最後まで世界観に没頭することができました。映像作品の作り方には詳しくはないのですが、表面的にだけビジュアルを凝ったものにしてもあのリアリティは出せないのでは…と。いろんな計算の上で成り立っている没入感なのだと感じました」

――梅田阿比先生の代表作「クジラの子らは砂上に歌う」とは、砂に覆われた世界が舞台という点で共通します。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を中心に作り上げられた“砂の世界”はどのように映りましたか?

「砂の世界が実際の砂漠で撮影されたと知って驚きました。水が豊かな惑星カラダンの場面からアラキスの場面に切り替わると、砂の世界の過酷さが際立っていたのですが、物語が進むにつれて先住民たちが住む命のある世界に見えてきます。“架空の世界”として終わらせない強いこだわりを感じました」

■「レディジェシカは登場人物の中で、一番複雑な内面を抱えている」

――印象に強く残ったキャラクター…描いてみたいと思われるキャラクター(クリーチャー、メカニック含む)などもいましたら教えてください。

「漫画で描くとしたら楽しそうなのは、ダンカン(ジェイソン・モモア)と、ポールのお母さんのレディジェシカです。ダンカンはフレメンたちに馴染んでしまっているところがチャーミングでよかったです。アクションシーンもかっこよかったのですが、退場してしまって悲しかったですね…。レディジェシカは登場人物の中で一番複雑な内面を抱えていると感じました。リアルで強い女性像は好きですし、『PART2』での描かれ方も楽しみです。なかなか全貌が見えないサンドワームの描写はまさに自然そのもので、圧倒的存在感でした。登場する宇宙船も美術品のようで見入ってしまいました。一番気に入ったのはアラキスの邸宅にあったサンドワームの壁画?です。大きすぎて絶対無理ですが、そのまま部屋に飾りたいくらいかっこいいです!」

――特に心に残っているシーンはありましたか?

「地味なチョイスかもしれませんが、ポールたちが飛行艇でアラキスの都市に向かう時に、なめるように街を映すシーンがあって…。アラキスの都市はこんなデザインなのか、と興奮しました。造形的にもおもしろかったのですが、アラキスの気候の厳しさを考えるとリアリティのあるデザインなんだとわかって感嘆しました」

■「ティモシー・シャラメ演じるポールの、決意の瞳や表情の強さにグッときました」

――主演のティモシー・シャラメのほか、ゼンデイヤ、オスカーアイザック、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、ジェイソン・モモアなどなどそうそうたる顔ぶれがそろっています。気になった俳優はいましたか?

「やはりティモシー・シャラメがすてきでした。線が細くてクラシックな美しさがあるので、どちらかというと惑星カラダンの中世風の雰囲気にマッチしていたと思います。アラキスに着いた時はポールの美しさと自然環境の過酷さとのギャップで心配になってしまったのですが、それを含めてのキャスティング…?PART 1のラスト付近でフレメンたちとアラキスに残ることを決意した時の瞳や表情の強さには、グッときました」

■「ポールが発揮していくであろうカリスマ性と、復讐劇にも期待しています」

――最新作『デューン 砂の惑星PART2』のどんなところに期待していますか?

「PART1がすごくいいところで終わったので、とにかく続きが気になっています。ポールの体験が過酷すぎて辛かったのですが、ラストシーンでは自分の運命を受け入れる決断をしたことがはっきりわかる場面がありました。これからカリスマ性を発揮してフレメンたちを魅了していくとしたら熱いですし、復讐劇にも期待しています。予告ではサンドワームの群れと供に戦っているようなシーンがありましたね。最終決戦でサンドワームと共闘するのでしょうか…?PART1では脅威にしか見えなかったのですが…。どんな展開になったとしても砂の世界で猛るサンドワームたちは観たいです!新キャストでは、皇女イルーラン役のフローレンス・ピューが気になっています。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の情熱的なエイミーがとてもよかったので…。一筋縄ではいかないお姫様なのかな、と想像しています」

■「魅惑的な不毛の大地や、自然の象徴のような巨大生物は、どの文化圏の人たちにとっても憧れ」

――小説「デューン 砂の惑星」は後世の様々な作品にも影響を与えています。この作品がクリエイターたちの創作意欲に刺さる理由はどこにあると思いますか?

「原作小説が後の多くのSF作品のバイブル的作品になっていることは有名なので聞いたことはありました。私自身は未読でしたが、『デューン』に影響を受けたと言われている『風の谷のナウシカ』などに感銘を受けて育った世代です。魅惑的な不毛の大地や、自然の象徴のような巨大生物などは、どの文化圏の人たちにとっても根源的な憧れのイメージだったのかもしれません。原作小説も購入しているので、『PART2』鑑賞後に一気読みするのを楽しみにしています」

――映画館にはよく行かれますか?また、最近ご覧になった映画でお好きな映画、印象に残った映画がありましたら教えてください。

「仕事柄、出版社の編集者さんからお薦めされた映画作品から選んで観にいくことが多いです。去年観た作品だと『ゴジラ-1.0』がおもしろかったです。サンドワームもそうですが、ゴジラがただのモンスターではなく神々しい存在として描かれていてゾクゾクしました。映像や物語のスケールが大きな作品は、できるだけ劇場で観たいと思っています」

文/有馬楽

「クジ砂」梅田阿比先生が『デューン』の世界を描き下ろし!強い意志を感じさせるポールの表情、美しい砂漠の描写に引き込まれる/イラスト/梅田阿比