VTuber~バーチャルタレントらがネットカルチャー内で人気を集めるようになり、今年でもう5~6年が経過している。

【動画】3分で分かる、ホロライブにドハマりするプロ格闘ゲーマー・小路KOG

 この流れに乗じて、『Live2Dアバターを活用したいわゆる「バーチャル化」という動きが注目を集めている。Live2Dの技術自体は2011年ごろからさまざまなサービス/プロダクトで使用されているが、Live2Dをいかしたアニメキャラクタールックなアバターがより多くの人に広まるきっかけとなったのはVTuber~バーチャルタレントだといえる。

 自身の表情や姿をネットに映すことなく本人性を生み出しつつ、「実質上の分身」「仮想世界における自分」を表現することが多くの配信者にとって一般的になったのだ。

 「Live2Dアバターを画面にあらわす」ことが一種の手法としてネット上で活動する多くの配信者へと広まった結果、それまで活動していた動画投稿者がいつのまにかLive2Dを使ったアバターを使用して動画/配信に登場するようになった、というケースも見られるようになった。

 こういった潮流が年を追うごとに広まりつつあるなか、ここ1年で注目された「配信者のバーチャル化」の例として、格闘ゲーマーの小路KOGこうじケーオージー)の存在を思い出すひとは多いかも知れない。

 小路KOGは、奈良県発のプロゲーミングチーム・AMATERASUに在籍している格闘ゲームのプロプレイヤーであり、sakoハイタニどぐらといった関西の強豪プレイヤーらとともに公式大会などで活躍をしてきた。

 活動初期はニコニコ生放送で、現在はTwitchでメインに活動し続けており、愛嬌ある小ボケとツッコミを含ませたトークを主にして、格ゲーマーやリスナーとともに盛り上がることが多い。

 特に『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE』ではJeSUライセンス(一般社団法人日本eスポーツ連合が発行するプロライセンス)を所持しており、ほかにも『グランブルーファンタジー ヴァーサス』や「ストリートファイター」シリーズなどさまざまな格闘ゲームをプレイしている。

 格闘ゲームをいくつもプレイすること自体は、一般の格闘ゲーマーでもよくあることだが、小路KOGの場合は1年のうちに複数のゲームで国内外の大会優勝をした経験をもっている。マルチにゲームをプレイし、大会で優勝を収められるほどのレベルにまで達することができるのは彼の特徴だろう。10年以上に渡る経験はもちろん、それぞれ異なるゲーム性を理解してプレイに活かせるという点で、小路KOGの器用さをうかがい知れる。

 そんな彼がVTuber~バーチャルタレントと深く関わるようになったのは、おなじく関西に拠点をおいて活動していたどぐらが『第1回 Crazy Raccoon Cup Street Fighter 6』に出場したタイミングで、コーチ役となって関わったことにある。

  2023年6月25日に開催される同大会に向けて、小路KOGは関西馴染みということでホロライブ所属のバーチャルタレント・獅白ぼたんコーチ役を任されることになった。

 ホロライブ二次創作格闘ゲームIdol Showdown』を通じて少しだけホロライブを知ってはいたものの、詳しい話題やトピックは一切知らなかった小路KOG。あくまで“選手”と“コーチ”として格闘ゲームの基礎を教えることになった。

 彼の行く末が大きく変わるのは、じつは大会後からだ。

コーチングをきっかけにホロライブに触れ、ドハマりした小路KOG

「っていうかさぁ、今更だけど絡みあんなんでよかったん?」

 獅白ぼたんへのコーチングを終え、リスナーに思わずこうボヤいた小路KOG。いったい彼女はシーンにおいてどのような立ち位置にいるのか? 実際のところを知るために、彼は獅白ぼたんが出演する音楽ライブ『hololive 5th Generation Live “Twinkle 4 You”』のチケットを購入し、ライブに向けてホロライブにまつわる切り抜き動画をリスナーとともに鑑賞していくことにした。

 おそらく彼が想像した以上の凄まじい切り抜き動画が出てくるなか、ひとつずつ見ていくうちに、気付けばホロライブにハマっていくことになる。自身の配信をつけたかと思えば、ホロライブメンバーの配信を同時視聴しはじめ、自身の格闘ゲームのプレイはせず、リスナーとともに切り抜き動画を10時間近く見続けることもあるなど、凄まじいハマりっぷりをみせることになったのだ。

 しかも事前にチケットを買った『hololive 5th Generation Live “Twinkle 4 You”』の開催日は、獅白ぼたんとともにCRカップに出場していた戌神ころねの新衣装発表にくわえて「ストリートファイターリーグSFL)」の開幕戦と、3つのイベントがまるっきり被っていた。

 そのためライブ&開幕戦当日は、「ねぽらぼ」(※獅白ぼたんを含むホロライブ五期生のユニット名)の音楽ライブ・戌神ころねの新衣装お披露目・「SFL」開幕戦を同時に見るという、同時視聴配信を敢行。配信している小路KOGも見ているリスナーも、感情と視線が追いつかず、なんとも慌ただしかったことが想像できるはずだ。

 3つの大きな出来事を終えた翌日の7月8日には、最大手とも呼べる格闘ゲーム大会『EVO 2023』にあわせた渡航サポートを優勝賞品に掲げていた『FAVCUP online Road to EVO』が待っていたわけだが、「昨日のライブ良かったね~」「最近自分の反応が切り抜かれてる動画が出てるらしいね」などとまったりしたムードで話しながら、そのまま大会へと突入した。

 ときに騒々しく、ときに愛らしいホロライブメンバーのハイライトシーンを詰め込んだ切り抜き動画は、生配信のムードとは違い、彼女らの面白ポイントを濃縮している。小路KOGも大会中の待ち時間には、当然のように切り抜き動画や公式動画を見ながらリラックスするようになっていた。このときまだホロライブにハマり始めて数週間の頃だ。ちなみに大会優勝は果たせなかったが、5位にまで勝ち上がっており、存在感を示していた。

 また彼がホロライブメンバー配信を同時視聴していることが少しずつ知られつつあったころで、ホロライブメンバーの配信で名前が上がれば、自身の配信を通じて喜ぶ姿が見れるという状況だった。

 その異様な熱量に気づいた早耳なホロライブリスナーが彼の配信にあつまったことで、「ホロライブメンバーと小路KOGを同時視聴する」という状況が生まれるようになり、以前には見られなかった同時視聴者数を叩き出すことになったのだ。

 また小路KOGは自身の配信のなかで、切り抜き師によって制作された「自身の切り抜き動画」をチェックしており、ホロライブの切り抜きを見る自分→それを切り抜いた動画を見る→それを切り抜いた動画を見る→それを切り抜いた……という無限ループのような状況を生み出し、ファンやリスナーにウケたのだ。なお、この異様な光景はマトリョーシカ配信などとも称された。

 SNS上で自身に関わる投稿が獅白ぼたんを含めたホロライブメンバーに反応されると、それだけで大喜び。その様子は、もはや立派なホロライブファンのソレだ。

 この頃には獅白ぼたん戌神ころねが『ストリートファイター6』をプレイしたことをキッカケにして、ホロライブ内で同タイトルをプレイするメンバーが増えていた時期でもある。兎田ぺこら大空スバルといった面々が『ストリートファイター6』をプレイする配信を小路KOGが見逃すわけもなく、彼女らのプレイを自身の配信で生実況&解説することもあった。

 しかもかなり的確かつわかりやすい実況をするだけでなく、「この場面ではどのような技や駆け引きが必要だったか?」という解決策までをもその場で提示するほどの解説力も披露。彼が格闘ゲームのプロであり、長年の配信経験を通じて培った言葉選びや自身の愛嬌があってこその配信となっていたのは、忘れてはいけないだろう。

 獅白ぼたんをキッカケに、同期である「ねぽらぼ」の桃鈴ねね尾丸ポルカ雪花ラミィの3人を知り、切り抜きや配信を通じてホロライブのトップをひた走る宝鐘マリン兎田ぺこらさくらみこ星街すいせいなど、多彩なホロライブメンバーを知っていった小路KOG

 そんな彼が一際強くのめり込んだのは、4期生にあたる角巻わためである。アメリカで開催された『EVO 2023』に出場した際には彼女のグッズを持参しており、自分とホロライブを引き合わせたどぐらと配信台で対戦した際には、角巻わためのグッズを観客にアピールしていた。

 くわえて2024年1月31日に開催されたライブ『わためぇ Night Fever!! in TOKYO GARDEN THEATER』にも参加。開演前に観客の様子をカメラが映すタイミングがあるのだが、そのなかで小路KOGが映し出されると、会場の観客・配信コメントも大盛り上がりとなった。

 ライブ終了後、生ライブを堪能した小路KOGは感想配信をおこなっていたが、ホロライブのメンバーだけではなく大勢のホロライブファンとも生で出会うことが初めてだったことも含め、非常に思い出深い出来事になったと語っていた。

■そしてバーチャル化へ 『スト6』がもたらした波のなかで大きな分岐を迎えた小路KOG

 そうしてホロライブへと一気にハマっていった小路KOGだが、その出会いは彼の配信活動・格闘ゲーマーとしての分岐点にもなった。

 先程書いたようなホロライブへの熱量が広まったことや、『ストリートファイター6』のプレイ人口が拡大したことにより、小路KOGコーチ役として配信のなかで呼ばれるという場面が少しずつ増えることになった。

 とくにホロライブを運営するCOVER社による男性タレント事務所・ホロスターズとの絡みは印象的で、『ストリートファイター6』を熱心にプレイしていた律可(りっか)の呼びかけに応じ、律可をはじめとしたホロスターズの男性タレント陣にコーチすることに。また、11月16日には律可が主導して開催された『ストリートファイター6ホロスタ大会にもMC・実況として参加している。

 もちろんこの期間にあっても、彼はホロライブの勉強(切り抜き動画視聴)はやめておらず、この機会にあわせてホロスターズの面々の配信やライブを見ていたようだ。ホロライブホロスターズファンから見れば、小路KOGの存在は一層印象に残っただろう。

 また年内に入ってからは個人VTuberとして活動している赫闇(かくやみ)まおが主催する『KAKUYAMI CUP』にも解説役として呼ばれるなど、個人VTuberらを中心に『ストリートファイター6』のコーチング、もしくは他ゲームのコラボ配信にも加わるようになっているのだ。

 大きな要因としては、ズバリ「バーチャル化」にある。2023年12月31日小路KOGLive2Dアバターを公開した。SNSのアイコンに使用されていた「サングラスをかけた犬」をモチーフにしたビジュアルで、現在もTwitchでの配信でたびたび使用されている。

 自らがVTuberとなってさまざまな形でのコーチングに携わり、コラボ配信もこなし始めている小路KOG。2023年から一気に縮まったVTuberと格闘ゲーム界隈との関わりのなかで、多くの格闘ゲーマーが知られるようになっていったが、その在り方・変化は格ゲー界隈のなかでも異色な輝きを放っているのだ。

 すこし視野を広くとってみよう。

 VTuberといえば、「中の人の存在を明かさない」という、シーン特有の慣習がある。「姿を見せること無くYouTuber的/ストリーマー的な活動ができる」といった特性を活かしたり、「アニメルックがもたらすファンタジー/空想性を活かす」といったVTuberならではの見せ方も強く影響していよう。

 そういったなかで小路KOGの動きからは、「中の人の存在を存在を明かさない」「アニメルックがもたらすファンタジー/空想性を活かす」といった様式に沿うというよりは、インターネット上でタレント活動をするうえでスムーズかつフレンドリーに振る舞いたいという、ある種の願いのようなものが感じられる。

 また小路KOGのように、とあるスポーツやゲームのプロとして素顔を出して活動していた者たちが、Live2Dアバターを持ってバーチャル化するという事例は現状かなり少ない。とはいえ、VTuber~バーチャルタレントシーンの盛り上がりに合わせて、Live2Dアバターや3Dビジュアルを活かして活動するパターンは、少しずつ増えてもいる。

 たとえばBobbSappAim、きなこ、kamito、うるかといったFPSを得意としたストリーマーらはLive2Dアバターを使用して配信活動を続けている。彼らと仲のいい渋谷ハルがVTuberとしてシーンを牽引している部分は大いにあるだろう。

 逆にVTuber・渋谷ハルはつい最近3Dビジュアルを初めて公開したのだが、その際BobbSappAimはアバターではなく「本人そのまま」出演していた。3D映像と実写映像のリアルタイム合成という難しいハードルをこなしている内容でありつつ、“実際の自分”と“アバターの自分”というビジュアル的表現の幅と面白さに気付かされた人も多そうだ。

 麻雀界からは、因幡はねると仲が良いプロ雀士松本吉弘と渋川難波の両名が、彼女の誕生日記念ライブに3Dアバターとして出演していた。こちらは愛らしい動物アバターを使用したケースだが、こういった共演の形もアリだと教えてくれるものだ。

 プロゲーマーという目線を外してみればこの他に、シーンと親和性の高い声優やイラストレーターらがバーチャル化(アバター化)して活躍の場を広げるというケースが広まっている。この例については以前の記事でも取り上げているが、その影響力・インパクトは計り知れない。

 こういった動きとパラレルするように、KADOKAWA Game Linkageが運営してきた格闘ゲームチャンネル「りーさるぷらん」からは、VTuberが新たにデビューをしはじめている。格闘ゲーム界隈にも徐々に新たなタレントが登場する契機が生まれつつあり、小路KOG並びに多くのプロ格闘ゲーマーにも、ドラスティックな変化が訪れようとしているのかもしれない。

(文=草野虹)

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