「ヤン坊マー坊」のイメチェンがSNSで大バズリ! 仕掛け人はレクサスやヤマハで手腕をふるったデザイナーでした

全面刷新にSNSでも大騒ぎに

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「企業のブランド戦略」です。先日、ヤンマーホールディングスのイメージキャラクターである「ヤン坊マー坊」が、ガラリと刷新されました。その姿に驚いた方も多いことでしょう。しかし、それは巧みなブランド戦略に基づくものだったのです。

これまでもリデザインされ続けていて現在で9代目

ヤンマーホールディングスが、ヤン坊マー坊のキャラクターを刷新する」

この報道が物議を醸していますね。ヤン坊とマー坊がテレビに登場したのは昭和34年1959年)です。ヤンマーがテレビ番組の天気予報の冠スポンサーのなったことをきっかけに、「ヤン坊マー坊天気予報」としてお茶の間の顔となりました。それ以来、長きにわたって天気予報を伝えています。

♪僕の名前はヤン坊、僕の名前はマー坊。二人合わせてヤンマーだぁ。君と僕とでヤンマーだ♫

この歌詞と曲を口ずさめる方も少なくないでしょう。

キャラクター刷新との報道で騒然としたのは、ヤン坊とマー坊がきわめて現代的に変身したからです。これまではどこか牧歌的な昭和の香りのする容姿だったのですが、それが先進的になりました。ここに違和感を覚えた人が多いというわけです。

ですが、そもそもヤン坊とマー坊は、たびたびリデザインをしています。現在のキャラクターで8代目だというのです。それぞれの世代の人が、自分が育った時代の姿が初代だと思い込んでおり、それが永劫変更されずにきたのかと錯覚していたわけです。

それを考えれば、9代目になっても不思議なことではありません。おそらく近い将来はその姿が自然に浸透し、お茶の間の顔として受け入れられることでしょう。

今回の騒動(あえてそういうならば)は、一般の人気投票により決定したことにも理由がありそうです。ヤンマーが複数のデザイン案を提示し、一般の応募によって決定したとのこと。それによって、さらに話題になり、バズりました。キャラクター変更がこれほどSNS上に飛び交うことも少ない。マーケティングの戦略の成功なのです。

ヤン坊マー坊が大幅刷新され話題に

じつはこの戦略の陣頭指揮をとったのは、かつてレクサスに在籍していた長屋明浩氏だと聞いて、なるほどなぁと合点がいきました。

長屋明浩氏は、大学卒業後にトヨタ自動車へ入社し、初代レクサス「LS」のデザインに関わり、トヨタデザイン部長やテクノアートリサーチ社長を歴任。その後はヤマハに転職しデザイン本部長に就任しています。そしてヤンマーに籍を移し、今回のバズりを企画したのです。

氏の現在の肩書きは、ヤンマーホールディングス株式会社・取締役CBO(Chief Branding Officer)。ブランド部長です。ヤンマーのブランド戦略を担っているのです。

かつて僕がレクサスブランディングアドバイザーを担っていたとき、モータースポーツを題材にデザインをお願いしたことがありました。依頼した内容は、「これまでのモータースポーツの常識をまったく無視してもいいです」というもの。それに応えてくださったのが長屋明浩氏だったというわけです。いまでもレクサスの顔となっている「筆描きのLマーク」をデザインしたことでも名を残しました。先進的なイメージを大切にするモータースポーツを、日本古来の伝統的技法である筆で表現したことに驚かされた記憶があります。

じつは今回のヤン坊マー坊バズりの裏では、長屋明浩氏のキャラクターの濃さも影響していたように思います。

およそ大企業の取締役とは思えない個性を発揮しています。自ら楽器を愛し、演奏に没頭し、マリンスポーツに興じバイクを乗りこなします。

「悲しいことや辛い未来懸念と対策ばかりで、前に進むことを忘れている人々に明るいヴィジョンを示し、世の中に灯すのがブランディングの使命だと感じています」

信念をそう語ってくれました。それが今回のヤン坊マー坊刷新の動機のようです。

プレミアムブランドとして成長したレクサスを誘導したデザイナーとヤン坊マー坊の思わぬ接点に、嬉しくなりますね。

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9代目となったヤン坊マー坊