フランス製の戦闘機ミラージュ2000」は、過去の「ミラージュ」シリーズから設計・仕様が大きく変わった機体ですが、どのような経緯で作られたのでしょうか。

エンジン・アビオニクス含め「フランス製」

1978年3月10日フランスの航空機メーカー、ダッソーフランス空軍の主力戦闘機として開発した「ミラージュ2000」が初飛行しました。「ミラージュ」シリーズのなかでも大きな転換点ともいえる設計が施されたこの機は、どのような経緯で作られたのでしょうか、

フランスの防衛・外交政策は英米とは一定の距離を保つ独自路線で、1966年からおよそ40年間、NATO(北太平洋条約機構)を脱退した時期がありました。その後、2009年に復帰しますが、核戦力に関しては一貫して独自の戦略核を保持して現在に至ります。フランス空軍が使用する戦闘機爆撃機も独自開発・生産した国産機で固めています。

このミラージュ2000もエンジンからアビオニクスに至るまでフランス製です。外国に干渉されることなく兵器輸出を行うためにも国産戦闘機の開発はフランスにとって重要な国家戦略なのです。そんなフランス戦闘機の誕生を振り返ってみたいと思います。

1960年代、フランスは無尾翼デルタ(三角翼)機の超音速戦闘機ダッソーミラージュIIIミラージュ5で大成功を収めていました。ミラージュIII1422機が11か国に採用され、その派生型ミラージュ5も582機が14か国に採用されています。

こうしてジェット戦闘機の輸出で自信を深めたダッソーミラージュIIIの後継機として開発したのが1966年に初飛行したミラージュF1でした。ミラージュF1はダッソーが得意としていた無尾翼デルタではなく、尾翼付き高翼配置の極めて平凡なデザインの戦闘機でした。

ライバルの出現でイッキに「仕様変更」へ

それに対して、1974年にアメリカで初飛行したF-16は最新技術を積極的に盛り込んだ新型機でした。

この年にはNATO加盟国のオランダベルギーなど4か国がF-104G戦闘機の後継機を共同で選定することを表明します。その候補として挙げられていた機種は、ミラージュF1、F-16サーブビゲンを含めた5機種でした。この時フランスが提案していたのは新型エンジンを搭載してパワーアップしたミラージュF1でした。

飛行性能、機体価格やライセンス生産の条件など総合的な評価が行われましたが、最終的にNATO4か国が選択したのはF-16。この決定がフランス空軍の次期主力戦闘機の要求仕様に大きな影響を与えることになります。

ミラージュF1はデザインもですが、無難な技術を用いて手堅くまとめられた戦闘機でした。それが功を奏して最終的には14か国に合計740機が採用された成功作でしたが、当時のフランス空軍ではミラージュF1の後継機の仕様が二転三転していました。

フランス空軍は当初ミラージュF1後継機に想定していたのは攻撃を主任務とした戦闘攻撃機でしたが、最終的に空軍は空戦性能を重視し副次的な攻撃能力を備えた戦術戦闘機として要求仕様を決定しました。

これはF-16を強く意識した内容といえ、F-16成功の要因だったパイロットの操作を電気信号で動翼に伝えるシステム「フライ・バイ・ワイヤ」を機体制御に採用することで無尾翼デルタの欠点を克服し、さらにF-16にも採用された胴体と翼が一体となった「ブレンディッド・ウイングボディー」の概念を機体形状に取り入れたものとなりました。この新型機がのちのミラージュ2000です。

なお、命名の由来は2000年代までフランス空軍の主力戦闘機の座に留まることを目指していたためとされています。

初飛行後も続いた「F-16とのスペックレース」

ミラージュ2000は初飛行でアフターバーナーを使用せずに音速を突破するなど、スーパークルーズの先駆けともいえる良好な飛行性能を証明しました。

最初の量産型ミラージュ2000Cが1983年から生産が始まったのに続いて、複座の戦略爆撃機ミラージュ2000Nの開発もスタート。ここでは新たに地形追従レーダーが開発され、超低空を1100km/h以上の高速で飛行する能力を獲得しています。ミラージュ2000Nは1993年から生産が始まり、老朽化していたミラージュIV戦略爆撃機と交代しました。

しかし、順調に生産と部隊配備が進んでいた同機も1980年代後半になると、新型多機能レーダー火器管制装置を搭載したF-16C/Dの出現に伴い、機能面で見劣りするようになりました。

そこで、携行兵器の増加と多目標同時攻撃能力を付加するため新型レーダーが開発され、換装が行われることになりました。こうして多機能化した新型はミラージュ2000-5と呼ばれ1991年から量産されています。

ミラージュ2000フランス空軍が1991年湾岸戦争に投入して以来、多くの紛争で実戦を経験してきました。

1996年には領空侵犯したトルコ空軍のF-16Dをギリシャ空軍のミラージュ2000がエーゲ海上空で空中戦の後、空対空ミサイルで撃墜した実績もあります。

最終的に、ミラージュ2000は9か国に採用され2007年にギリシャ空軍向けの601号機をもって生産を終了しました。本家のフランス空軍においては後継機ラファールの配備が進み、最後のミラージュ2000Cが2022年6月23日に運用を終えましたが、輸出先の国々ではこれからもしばらくの間、本機の活躍が続く見込みです。

※一部修正しました(3月10日15時15分)

フランス空軍のミラージュ2000(画像:アメリカ空軍)。