『余命10年』の藤井道人監督によるNetflix映画『パレード』が、2月29日よりNetflixにて配信中。この世に未練を残して亡くなった死者たちの世界に足を踏み入れた報道番組制作者・美奈子(長澤まさみ)が、離ればなれになった幼い息子との再会を願いながら死者たちと交流し、自身の死を受け止めていく――という感動ファンタジーだ。長澤のほか、元映画プロデューサーのマイケルに扮(ふん)したリリー・フランキーをはじめ、坂口健太郎横浜流星森七菜、寺島しのぶ、田中哲司といった豪華キャストが集結した本作。長澤とリリーが、映画づくりの原点に回帰したという撮影を振り返る。

【写真】美しい透明感! 長澤まさみのソロカット

長澤まさみは「大女優になったいまも悔し泣きする」

――長澤さんとリリーさんの初共演は、2011年上演の舞台『クレイジーハニー』だったと伺いました。

リリー:映画『モテキ』の撮影とどっちが先だったっけ?

長澤:『モテキ』が先で、その2ヵ月後くらいから舞台が始まりました。それ以前にも面識はあり、無料券をいただいてリリーさんの知り合いのお店にワインを飲みに行ったことがあります。

――10年以上親交が続いていらっしゃいますが、お二人はどういった部分のフィーリングが合うのでしょう。

長澤:“どこ”というより、リリーさんとは一緒にいて何のストレスもないんです。出会った当初の私はすごく人見知りで、何とかしようとして空回っていた時期でしたが、リリーさんの前ではすごく自然にいられました。

リリーまーちゃんは全然面倒くさくないし、とにかくいい子で。大女優になったいまだに「昨日撮ったあのシーンがうまくいかなくて…」と悔し泣きするくらい真面目なのに、根っこの部分が面白い。普段は(『コンフィデンスマンJP』の)ダー子の要素が強い気がします。「かわいい」って言われるより「面白い」と言われる方が喜ぶタイプ(笑)。

長澤:そうですね(笑)。

リリー:でも照れ屋だから、人前ではあまりそういう部分は見せないよね。

長澤:そういった部分を最初から出せたのが、リリーさんでした。

リリー:『パレード』の劇中で、寺島しのぶさんが子どもたちの生活を見守るんだけれど、実際の人間の生活って見られたくないものも結構あると思っていて。もし俺が死んだら、そこら辺の整理を全部まーちゃんにやってもらおうと思ってる。「リリーさん、これは見られたくないだろうな」というのは言わなくともわかるだろうから、安心して任せられるなと。まずは携帯とパソコンをハンマーで叩き割ってもらって…。

逆に俺がその役目をやることになって「まーちゃん、この引き出しに何か入れていそうだな」と思ったら開けた瞬間燃やすから(笑)。

長澤:それはいいかも。お互いにやるということで(笑)。

■撮影は「合宿っぽさがありました」

――お二人が『パレード』で演じた美奈子とマイケルは、物語が進むにつれてお互いの良き理解者になっていきます。撮影前に長澤さんとリリーさんで何か言葉は交わしましたか?

リリー:美奈子の感情について話しました。彼女の目線は1番不安定で、荒唐無稽なものに現実味を持たせないといけないから「大変な役だよね」と。俺らの役はもう完全に出来上がっている状態だからいいけれど、美奈子はこの世界を“知る”という役割が求められる。

長澤:本作は群像劇のためエピソードが多く、劇中劇の要素もあるぶん、時間的な制約で美奈子の立ち位置を説明するパートが少ないといいますか。

リリー:ドラマだったら8話くらいでやる情報量だもんね。

長澤:そうなんです。物語の転機となるような部分で美奈子の感情に寄り添ってくるため「慎重にやらないといけないけれど、どう作っていけばいいんだろう」とリリーさんに相談しました。

リリーまーちゃんは母親の役を演じることも増えてきただろうけれど、本作の“息子が見つかって会いにいく”は現実で会うのとはまた違う。会えたとて、生者と死者だからどうすることもできないわけですから。美奈子って、今までの方法論が通用しない役だと思うんです。だからこそ、完成品を見たときは「すごいな、まーちゃん」と思いました。プロットの時点で非現実的な物語が最終的に現実的に見えてきますから。『死霊の盆踊り』くらい最初から最後まで完全に向こうの話だったら楽かもしれませんが、本作はそうではない中で美奈子が現実味を作ってくれていました。

――本作は、ビジュアル面も独特ですよね。メインの舞台となる星砂遊園地のシーンの撮影は、宮城県化女沼レジャーランドで行われました。

リリー:朝から吹きさらしの廃遊園地に、ポスターに写っているメンバーがいて、一緒にいる時間も長かったから合宿っぽさがありました。映画の中にあるようにどうでもいい話を空き時間もしていて、撮影後に1時間かけてホテルに戻ってから、またみんなで集まって近所のおでん屋でくだらない話をして。おでんを食べている時間も、このメンバーとの雰囲気を作ってくれていた気がします。

いざ撮影が始まると、共演者とコミュニケーションを取る時間は意外とないものですが、今回はこのメンバーでいる時間がほとんどだったから同じ時間にみんなが終わって「寒いからおでん食べに行く?」って。そこで映画のことも話し合えたし、いい時間でした。

長澤:わかります。久しぶりに「映画の撮影だな」と感じて、子どものころの地方ロケを思い出しました。懐かしさとともに、やっぱりこういう時間は大切だなと改めて思いました。俳優同士で「今日どうだった?」や「この先のシーンどうする?」と話せるのは良いですよね。

リリー:この映画のグループチャットがあるのですが、森七菜ちゃんから「おでん屋さんの従業員の人が辞めるらしいです」と連絡が来て、そこまで詳しくなったの!?と思いました(笑)。どうもそのおでん屋さんのインスタグラムを見たらしくて、そういうところも面白かったです。

リリー・フランキーが「泣けた」と語る何気ないセリフとは?

――自分も撮影現場にお邪魔しましたが、化女沼は底冷えする寒さでしたね。

リリー:俺らも寒かったけれど、トイレも行けないようなタワーの上で照明さんが頑張っていましたよね。あの場所は俺らがいる地面よりも5度くらい寒かったんじゃないかな。つり橋効果じゃないけれど、スタッフとキャスト全員が一体感を持っていた現場でした。

――ちなみにリリーさんのクランクインは、沖縄パートからでしたね。

リリー:そうそう。俺と森七菜ちゃん、黒島結菜さんは結構早めに現場に入っていて。撮影は秋口でしたが、スタッフの方々がいい感じの浜辺を見つけてきてくれて、そこで撮影しました。でも、いい感じの浜にはそれだけ需要があって、別の場所で結婚式に使う映像を撮影していたりするから邪魔しないようにするのが1番気を遣いました(笑)。

――劇中でも映画づくりを行うシーンが象徴的に描かれますが、先ほどの合宿感というお話にもあるように、さまざまな形の映画愛にあふれた作品かと思います。映画に対して、あるいは映画の中で生きる人々を演じる俳優として、いま現在どのような思いを持っているでしょうか。

長澤:年を重ねるごとに、自分の演じる役の内面的な部分と深く向き合っていかないといけないと感じるようになりました。役割として、物語の中でどのような作用をもたらすかは一つの軸として大切にしないといけないけれど、骨組みに対して付いてくる肉=役の内面が軽くなってしまうと、本質的な部分を人に伝えることは難しいと思っています。物語の伝えたいものがなるべく自分の芝居を通して伝わるように、そしてちゃんと一人の人物の内面が届くように意識して、最近は特に「内面をどのように理解するか」を大切にして芝居と向き合っています。

リリー:(本作は)劇中映画を撮りながら映画本編を撮る仕組みの映画で、撮影中は本当に寒くてつらかったけれど、スタッフも共演者もみんながまとまっていて、人間関係のストレスもなく本当に楽しかったです…っていうと他の現場ではあるのかという感じになっちゃうかもしれませんが(笑)、今回は特に気が合ったんですよね。だからこそ、映画を作っている喜びを感じられました。

マイケルの「映画って、いいよ」というセリフがあるのですが、すごく気持ちが入りました。自分自身が実感を持ってそこにいたからだと思います。何でもないことを言っているのに、ちょっと泣けましたから。この話の中もそうだし、撮っている現場も含めて「映画っていいなぁ」と本当に思えた時間でした。

(取材・文:SYO 写真:上野留加)

 Netflix映画『パレード』は、Netflixにて独占配信中。

長澤まさみ&リリー・フランキー  クランクイン! 写真:上野留加