出世街道を順調に歩んできた「勝ち組サラリーマン」の給与額は、平社員とは雲泥の差。周囲から羨望の眼差しが注がれることでしょう。しかし、そんな人が将来手にする年金額にも羨望の眼差しが注がれるかといえば、そうではないようです。本記事では年収の異なる3人のサラリーマンの年金見込み額について、FP1級の川淵ゆかり氏が比較・解説します。

年金は一体いくらもらえるのか?(年収500万円 vs. 年収1,000万円 vs. 年収1,500万円)

年収の違う幼なじみの59歳の同い年3人。実家も近所で中学も同じクラスだった3人は、子どものころによく一緒に遊んだ仲間です。

・年収500万円のAさん ・年収1,000万円のBさん ・年収1,500万円のCさん

3人とも別々の大学を卒業後に別々の企業に就職しましたが、老後の生活について不安が出てくる「お年ごろ」です。

Aさん「住宅ローンで苦しんだ人生だったなぁ。Cは僕の3倍くらい給料をもらっているから年金も3倍なんじゃないの?」  

Bさん「老後の資金はなんとか確保したつもりだけど、家も古くなったし、建て替えるかマンションを買おうか考えているところなんだ。そうなるとやっぱり年金は頼りだよな」  

Cさん「毎月年金保険料だけでいくら天引きされてると思ってるんだよ! その分しっかり年金はもらわないと損した気分だよ」

「年収が高いから、年金は多いはず。老後は安泰」と思っている人もいるかもしれません。ですが、そう簡単にはいかないようです。

年金はどのように計算する?

3人のような会社員の場合、老後の主な収入源となる公的年金として、国民年金厚生年金の2種類があります。

1.国民年金

国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての方が加入する年金です。

国民年金保険料を40年間納めることで、老齢基礎年金を満額受け取ることができます。老齢基礎年金を受給するためには、受給資格期間として、保険料納付済期間(厚生年金保険や共済組合の加入期間を含む)と保険料免除期間などを合算した期間が少なくとも10年以上あることが必要です。

ちなみに2024年度の満額は年額81万6,000円(月額6万8,000円)で、前年度に比べて、年額で2万1,000円(月額1,750円)の増額(+2.7%)となりました。この金額は年収に関係ありませんから、満額受給できる3人とも同じ金額となります。

2.厚生年金

老齢厚生年金は、民間企業などで働いている人が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せする形で支給されます。   受給資格として、老齢基礎年金を受け取るために必要な受給資格期間(10年)を満たしており、かつ、厚生年金の被保険者期間が1ヵ月以上あることが必要です。老齢厚生年金の額は、被保険者期間中の平均標準報酬月額や被保険者期間に応じた額によって、次の式により計算されます。  

(i)2003年3月以前の被保険者期間 

平均標準報酬月額× 7.125/1,000×2003年3月までの被保険者期間の月数  

(ii)2003年4月以降の被保険者期間 

平均標準報酬月額×5.481/1,000×2003年4月以降の被保険者期間の月数

老齢厚生年金額は、上記の(i)+(ii)の合計額となります。

なぜ、(i)と(ii)で計算式が違うかというと、平成12(2000)年の年金改正において、2003年4月より、保険料の対象がボーナスまで拡大する「総報酬制」が導入されたためです。

これにより、2003年3月以前の期間(i)に係る年金額の計算においては、毎月の給与に基づく標準報酬月額の平均である「平均標準報酬月額」が用いられる一方、2003年4月以降の期間(ii)については、ボーナスも含む標準報酬額を平均した「平均標準報酬額」を用いて計算されることになりました。

また、2003年4月以降の被保険者期間分の給付乗率は、賦課対象が拡大するなかで年金財政に中立となるよう、1,000分の7.125から1,000分の5.481に引き下げられている(約1/1.3倍)、ともされています。

年収別に年金を計算して比較

それでは、実際に3人の年金を計算して比較してみましょう。

年金を計算するためには、報酬月額から当てはまる標準報酬月額を求めないといけません。まずは、単純に年収から月額を計算して、厚生年金保険料額表(令和5年度版)から標準報酬月額を求めます。

Aさん 年収 500万円の場合

月平均額:約41万6,000円 24等級 標準報酬月額41万円

Bさん 年収1,000万円の場合

月平均額:約83万3,000円 32等級 標準報酬月額65万円

Cさん 年収1,500万円の場合

月平均額:約125万円 32等級 標準報酬月額65万円

標準報酬月額には上限があるため、報酬月額が63万円以上の場合は、いずれも32等級の標準報酬月額65万円となります。なお、毎月の保険料もこの標準報酬月額から計算しますので、BさんもCさんも同じ厚生年金保険料を払っていることになります。Cさんは「なんで俺とBが一緒なんだ」と驚いていました。

年金もこの標準報酬月額を使って計算してみましょう。2003年3月以前の平均標準報酬月額まではわかりませんので、単純に加入の全期間を前述の『(ii)2003年4月以降の被保険者期間』の計算式を使って計算してみます。

Aさん 年収 500万円の場合

標準報酬月額41万円× 5.481/1,000×38年(22歳~60歳)×12ヵ月 =約102万4,000円

Bさん 年収1,000万円の場合

標準報酬月額65万円× 5.481/1,000×38年(22歳~60歳)×12ヵ月 =約162万4,000円

Cさん 年収1,500万円の場合

標準報酬月額65万円× 5.481/1,000×38年(22歳~60歳)×12ヵ月 =約162万4,000円

上限がありますので、年収が1,000万円でも1,500万円でも同じ年金額になってしまいますね。さらに年収500万円の人と比べると差額はわずか60万円。月額では5万円しか変わりません。

Cさんは「あんなに控除で引かれてきたのに。俺の3分の1しか年収がない人と月にたったの5万円しか変わらないなんて……。これじゃあ、なんにも報われない……」とショックのあまり、膝から崩れ落ちてしまいました。

ちなみに比較しやすいように、年収750万円のケースでも計算してみましょう。年収750万円の場合の標準報酬月額は、31等級で標準報酬月額は62万円となります。

年収 750万円の場合

標準報酬月額62万円×5.481/1,000×38年(22歳~60歳)×12ヵ月 =約154万9,000円

以上を基礎年金と合わせて、一覧にまとめてみました。

あくまでも概算での計算です。給与やボーナスを過去までさかのぼって計算するのは実際には困難です。くわしく知りたい方は、日本年金機構から毎年届く「ねんきん定期便」を参考にするか、日本年金機構の「ねんきんネット」を利用するようにしてください。

現役時代の年収が高くても老後に向けて油断しない

どんなに年収が高くても、受け取れる年金額は大きく差が出ないことがわかっていただけたと思います。

さて、老後が大変なのは、3人のうち誰でしょうか? 単純に考えると一番年金額の低いAさんのようですが、老後に苦労するのは一番年収の高いCさんかもしれません。理由は「生活レベルを落とすことは簡単ではないため」です。生活レベルの高い人が月20万円の生活に慣れるのは大変です。

年収が高いと貯蓄も十分あるかもしれませんが、老後資金の確保は必要ですから、場合によっては年金の繰下げ受給も検討しましょう。受け取り開始時期を1ヵ月遅らせるごとに、受け取る年金の額は0.7%増えていきます。たとえば、  

・1年遅らせて66歳から受け取る場合:8.4%増額(0.7%×12ヵ月分) ・5年遅らせて70歳から受け取る場合:42%増額(0.7%×60ヵ月分) ・10年遅らせて75歳から受け取る場合:84%増額(0.7%×120ヵ月分)

繰り下げる場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に遅らせることも可能です。なお、加給年金*は、老齢厚生年金を繰り下げようと遅らせているあいだは受け取れませんので注意しましょう。

* 加給年金とは、年金受給者が65歳未満の配偶者や18歳未満の子どものいる場合、経済的に支えていくための年金で扶養手当と同様の役割を持ちます。

また、加給年金は、繰り下げた老齢厚生年金の受け取りを開始しても、増額の対象になりません。65歳になったときに加給年金を受け取れそうな人は、繰下げが本当に有利かどうか試算して決定しましょう。  

<参考>

※ 厚生年金保険料額表(令和5年度版)

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)