最近のニュースでよく取り上げられる性加害問題。望まない性的な言動による性暴力の防止に向けたさまざまな取り組みが活発になっています。今回取材に応じてくれた女性もその一人です。入社したばかりの彼女に一体なにが起こったのでしょうか。

インターンシップでの出会い

 中川沙羅さん(仮名・23歳)が、就職先にアパレル会社を選んだ理由は2つあるそうです。

「私は、この会社のデザイン力の高さと、今後3年以内にグローバルな展開を表明しているところに強く将来性を感じ、インターンシップに参加しました。いざ会社を訪問すると、さすがアパレルといった感じで、おしゃれなコーディネートに身を包んだ社員さんが多く、それをみているだけでも感動していました」

 そんな中川さんをサポートしてくれたのは、チーフデザイナーのNさん(36歳)という男性でした。彼のデザイン力はアパレル業界でも有名で、交友関係も広いのだとか。

Nさんは、いかにもデザイナーって感じの雰囲気でした。服装はデニムに白いシャツというシンプルなのに、どこかカッコいいんです。仕事の教え方もとても優しくて、私の質問にもちゃんと答えてくれて…。いけないとは思いつつも、かなり好意を持ってしまいました」

◆気がつけば付き合っていた二人

 あっという間にインターンシップは終了し、最終日に中川さんはNさんから食事に誘われたそうです。

「最終日にNさんのデスクにお礼のあいさつに行きました。すると『食事でもどうですか?』と言われたので食事をご一緒したんです。それまで寡黙な印象だったんですが、二人だけになるととても話し上手で、自然と2軒目、3軒目と時間は過ぎて行き、その夜はホテルで朝まで時間をともにしちゃいました

 その後、中川さんは正式に就職試験に臨み、その会社に内定をもらいました。Nさんとの交際も順調で、入社までの数か月間はかなりの頻度で同じ時間を過ごしていたそうです。

◆先輩から聞かされたひどいうわさ

 無事に入社式を終え、晴れて社会人1年生となった中川さん。インターンシップの時は違い、いざ入社してみるといろいろと業務がかさみ、毎日会社と自宅の往復でヘトヘトだったといいます。

「正直こんなに忙しいとは思っていませんでした。でも、やる気だけは誰にも負けたくなかったので、一生懸命がんばりました。毎日がものすごいスピードで過ぎていき、気がつけばゴールデンウイーク前になっていたんです。そこで、ようやく入社してからNさんと一度も会えてないことに気づいたんです

 何度かLINEでコミュニケーションはとっていたものの、Nさんも多忙を極めていたこともあり、既読さえ付かなくなっていったそうです。さすがにストレスがたまってしまった中川さんは、先輩の女性社員たちと飲みに行くことになりました。

「久々の飲み会だったので、みんな羽目を外して浴びるようにお酒を飲んでいる時、突然先輩が私に向かって『あ、そうそう。Nチーフ、里帰りしてるの知ってる? というか、子供が生まれたらしいのよ』と。私は手が震えて止まりませんでした。急に気分が悪くなり、先に帰ったのを覚えています」

◆普通な態度を見て体が震えてきた

 どうやって帰ったかも覚えていないくらいあぜんと自宅にもどった中川さんは、そのままベッドに座ったまま朝を迎えました。

「自分はなにをしているのだろうって思いました。同時に、よくもあんなに平気な顔をして私と一緒に時間を過ごした彼に強い憤りを覚えました。こんな屈辱は初めてです。だんだん許せなくなりました」

 1か月後にNさんは出勤していました。特に変わった様子も見せず、いつものように仕事の指示を出してきたといいます。

「私、彼の普通な態度を見て体が震えてきたんです。悔しくて悔しくて……。もうどうなってもよいと思いました。もう我慢の限界だったんです」

 中川さんは、Nさんのデスクに向かってゆっくりと歩み寄り、「奥さんがいらっしゃることは知りませんでした。どうして私をホテルに誘ったんですか?」と周囲に聞こえるように伝えたといいます。

◆これ以上被害者を出さないための決断

 中川さんの言葉で、オフィスは一瞬にして静まり返り、皆の視線が彼女に向けられました。

「あの時、私はただ茫然として思うがままに言葉を発していました。Nさんはかなり驚いたようで、じーっと私のほうを見つめていて、しばらくしてから蚊の鳴くような声で『すまなかった』と言って、オフィスから出ていきました。言葉を交わしたのはそれが最後でした」

 その後、今回のことや過去の行動も含め、それらがようやく上層部の耳にも入り、Nさんは彼自身のキャリアには関係のない協力会社への出向が命じられたそうです。

 それから夏が終わる頃まで、中川さんは我慢して仕事を続けたそうですが、今回の一件が彼女に与えた影響は大きく、オフィスでも自分の居場所が無くなっていくような気持ちが日を追うごとに大きくなり、結局その後しばらくして会社を辞めることにしたそうです

<TEXT/ベルクちゃん>

ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

―[すぐに辞めた新入社員]―


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