いよいよ日本時間3月11日(月)に行われる、第96回アカデミー賞授賞式。A24作品が大旋風を巻き起こした前回から早1年。脚本家組合と俳優組合のダブルストライキでハリウッドメジャースタジオの作品に大きな影響が出るなど、様々なことが起きた2023年の映画界。どの部門も激戦が予想される今年のアカデミー賞では、いったいなにが起こるのか?授賞式をより楽しむための見どころをチェックしていこう。
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■2023年の主役は『オッペンハイマー』で堅いのか?
まず注目すべきは作品賞をはじめ13部門にノミネートされ、今年の候補作のなかで最多ノミネートを獲得したクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(3月29日公開)。“原爆の父”と呼ばれた理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーを描く3時間の伝記映画であり、サマーシーズンに公開されるや『バービー』(23)と共に興行を牽引。週末興収ランキングで一度も1位を取れなかった作品としては歴代1位となる、北米累計興収3億ドル超えの大ヒットを記録した。
アカデミー賞史において13以上のノミネートを獲得した作品は(部門数に多少の変化があったとはいえ)、同作が14本目。過去の13本のうち8作品がその年の頂点となる作品賞を獲得していることからも、『オッペンハイマー』が順当に主役を飾る可能性は非常に高い。そうなると期待されるのは、“何部門獲れるのか?”。歴代最多受賞は『ベン・ハー』(59)、『タイタニック』(97)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(03)の11部門。今年それに挑戦できるのは『オッペンハイマー』だけである。
前哨戦などの結果を踏まえると、助演女優賞と脚色賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の5部門では他の候補作にリードを許している。もちろん有力視されている8つの部門でも、強力なライバルたちが顔を揃えており油断は禁物。少なくとも、上記5部門で逆転することがあれば、今年の流れは完全に『オッペンハイマー』に向いていると解釈することができるだろう。
現代ハリウッドを代表する巨匠にまで成長を遂げたノーラン監督にとっても、今年はオスカー獲得の最大のチャンス。かつて『ダークナイト』(08)で高評価を集めながら作品賞候補にあがらなかったことがきっかけで作品賞の枠が増えたとも言われており、その後『インセプション』(10)で作品賞など8部門にノミネートされ技術部門を中心に4部門を受賞。『ダンケルク』(17)でも作品賞など8部門ノミネートで3部門受賞。自身初の監督賞にもノミネートされていた。
『メメント』(01)で脚本賞にノミネートされてから22年。ノーラン監督自身は作品賞と監督賞、脚色賞の3部門で候補にあがっている。第92回授賞式での『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノ監督のように、何度も壇上にあがって喜びのスピーチを披露する可能性も十分に考えられる。
■日本映画3作品はどれも受賞の可能性十分!
続いてのトピックは、やはり日本勢の活躍だろう。今年は3つの部門に日本の作品がノミネートを果たしており、いずれも受賞にたどり着く可能性が高いと期待を寄せられている。
そのなかでも特に受賞に近いと思われているのが、視覚効果賞の『ゴジラ-1.0』(公開中)。名だたるハリウッドの超大作映画が毎年顔をそろえることでお馴染みのこの部門に、日本映画がノミネートされたのは本作が初めて。5本のノミニーに選ばれただけでも歴史的快挙ではあるが、驚くべきことに前哨戦では他の候補作を凌駕する受賞ラッシュを展開。
ライバルとなる可能性が最も高いのは、奇しくも“ハリウッド版ゴジラ”を手掛けたギャレス・エドワーズ監督の『ザ・クリエイター/創造者』(23)で、しかも同作には日本から渡辺謙が出演している。日本の映画ファンにとっては注目が尽きない対決になりそうだ。
また、長編アニメーション賞には宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(公開中)がノミネートされている。前哨戦のゴールデン・グローブ賞ではスタジオジブリ作品初の受賞を達成。強敵となるのはアニー勝で圧巻の受賞劇を見せた『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(23)。一騎打ちを制し、『千と千尋の神隠し』(01)以来の快挙を達成できるのか楽しみだ。
そして国際長編映画賞にはヴィム・ヴェンダース監督と役所広司がタッグを組んだ『PERFECT DAYS』(公開中)がノミネートされている。日本代表でこの部門に出品された作品はこれまで『おくりびと』(08)と『ドライブ・マイ・カー』(21)が受賞している。こちらの強敵は、作品賞など主要部門でもノミネートされているイギリスの『関心領域』(5月24日公開)やNetflixの『雪山の絆』などのヨーロッパ勢だ。
■あの名作のキャスト&監督が、オスカー会場で顔を合わせるかも!
演技部門4賞は、前哨戦などの結果からいずれも一騎打ちの様相が強まりつつある。主演男優賞では『オッペンハイマー』のキリアン・マーフィーと『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(6月21日公開)という、名脇役として名を馳せてきたいぶし銀俳優の決戦。一方、強力コンテンダーと思われていた『バービー』のマーゴット・ロビーが落選となった主演女優賞は、『哀れなるものたち』(公開中)のエマ・ストーンと『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(公開中)のリリー・グラッドストーンの“ストーン対決”となりそう。
さらに助演男優賞では『オッペンハイマー』のロバート・ダウニーJr.が前哨戦の段階から独走ムード。追いかけるのは『哀れなるものたち』のマーク・ラファロ。つまり“アイアンマンvsハルク”の戦いというわけだ。そこに『バービー』のライアン・ゴズリングも虎視眈々。そして助演女優賞では『ホールドオーバーズ』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが前哨戦を圧勝しており、逆転の可能性があるのは作品に勢いがある『オッペンハイマー』のエミリー・ブラントだけだろう。
ちなみにダウニーJr.とラファロの「アベンジャーズ」のほか、ストーンとゴズリングといえば『ラ・ラ・ランド』(16)のコンビ。こうした過去の名作で共演した俳優たちがアカデミー賞の会場で顔を合わせるのも醍醐味のひとつ。今年は助演男優賞に『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のロバート・デ・ニーロがいて、助演女優賞には29年ぶりにオスカーの舞台に帰ってきたジョディ・フォスター。そして監督賞には歴代2位の10度目のノミネートとなったマーティン・スコセッシがいる。名作『タクシードライバー』(76)のチームが揃うことになる。
主要部門以外で特に注目すべきは、短編実写映画賞。『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(Netflixにて配信中)で、ウェス・アンダーソン監督がノミネートされているのだ。『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)での作品賞や監督賞に加え、同作を含む3度の脚本賞候補、2度の長編アニメ賞候補歴のあるアンダーソン監督が、自身8度目のチャンスでついにオスカーを獲得できるのか。今年のアカデミー賞は隅々まで目が離せない!
<第96回アカデミー賞ノミネート一覧>
●作品賞
『アメリカン・フィクション』(Prime Videoにて配信中)
『落下の解剖学』(公開中)
『バービー』(公開済み)
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(6月21日公開)
『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)
『哀れなるものたち』(公開中)
『関心領域』(5月24日公開)
●監督賞
ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
ジョナサン・グレイザー『関心領域』
●主演男優賞
コールマン・ドミンゴ『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』(Netflixにて配信中)
ポール・ジアマッティ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
ジェフリー・ライト『アメリカン・フィクション』
●主演女優賞
アネット・ベニング『ナイアド〜その決意は海を越える〜』(Netflixにて配信中)
リリー・グラッドストーン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ザンドラ・ヒューラー『落下の解剖学』
エマ・ストーン『哀れなるものたち』
●助演男優賞
ロバート・デ・ニーロ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ライアン・ゴズリング『バービー』
マーク・ラファロ『哀れなるものたち』
●助演女優賞
アメリカ・フェレーラ『バービー』
ジョディ・フォスター『ナイアド〜その決意は海を越える〜』
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
●長編アニメ映画賞
『君たちはどう生きるか』(公開中)
『マイ・エレメント』(公開済)
『ニモーナ』(Netflixにて配信中)
『ロボット・ドリームズ』(11月公開)
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(公開済)
●国際長編映画賞
『Io Capitano』(イタリア/公開未定)
『PERFECT DAYS』(日本/公開中)
『関心領域』
●脚本賞
『落下の解剖学』
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『May December』(公開未定)
『パスト ライブス/再会』
●脚色賞
『バービー』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
『関心領域』
●衣装デザイン賞
『バービー』
『ナポレオン』(公開済)
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●作曲賞
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(公開済)
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●短編アニメ映画賞
『Letter to a Pig』
『Our Uniform』
『Pachyderme』
『War is Over! Inspired by the Music of John & Yoko』
●短編実写映画賞
『彼方に』
『Invincible』
『Knight of Fortune』
『Red,White and Blue』
『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(Netflixにて配信中)
●長編ドキュメンタリー賞
『ボビ・ワイン:ゲットー・プレジデント』
『Four Daughters』
『To Kill a Tiger』
『実録 マリウポリの20日間』
●短編ドキュメンタリー賞
『The ABCs of Book Banning』
『ラスト・リペア・ショップ』(ディズニープラスにて配信中)
『世界の人々ふたりのおばあちゃん』(3月22日よりディズニープラスにて配信)
●音響賞
『ザ・クリエイター/創造者』(公開済)
『マエストロ:その音楽と愛と』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(公開済)
『オッペンハイマー』
『関心領域』
●美術賞
『バービー』
『ナポレオン』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●編集賞
『落下の解剖学』
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●撮影賞
『伯爵』(Netflixにて配信中)
『マエストロ:その音楽と愛と』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
●視覚効果賞
『ザ・クリエイター/創造者』
『ゴジラ-1.0』(公開中)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(公開済)
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』
●メイクアップ&ヘアスタイリング賞
『Golda』(公開未定)
『マエストロ:その音楽と愛と』
『オッペンハイマー』
『哀れなるものたち』
『雪山の絆』
●歌曲賞
「The Fire Inside」『フレーミングホット!チートス物語』(ディズニープラスにて配信中)
「I'm Just Ken」『バービー』
「It Never Went Away」『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』(Netflixにて配信中)
「Wahzhazhe(A Song for my people)」『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
「What was I Made For」『バービー』
文/久保田 和馬
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