真田広之が主演&プロデュースを務めハリウッドの制作陣が手掛けるドラマ「SHOGUN 将軍」が毎週火曜にディズニープラスのスターで配信中。同作は、ジェームズ・クラベルのベストセラー小説を原作に、日本に漂着したイギリス人航海士ジョン・ブラックソーン(のちの按針=コズモ・ジャーヴィス)の視点から戦国の陰謀と策略を描いた物語で、「トップガン マーヴェリック」の原案を手掛けたエグゼクティブプロデューサーのジャスティンマークス氏に加え真田も制作陣に名を連ね、ハリウッド制作陣が本気で作り上げた戦国スペクタクルだ。このほど、WEBザテレビジョンでは今作に参加しているエグゼクティブ・プロデューサーのマークス氏とレイチェル・コンドウ氏に単独インタビューを行い、ドラマが生まれた経緯から制作に関するエピソード、日本に対する印象や影響を受けた日本人監督などについて聞いた。

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■世界的にヒットを記録

同作は2月27日より配信が開始されてからの6日間で、全世界再生回数900万回(ストリーム総時間を1、2話の合計時間で割り出して算出)を記録。スクリプテッドゼネラルエンターテイメント・シリーズ作品として、ディズニープラスの歴代1位となった他、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」のレビュー評価で配信開始直後までは100%フレッシュを記録。その後も99%をキープ(3月6日時点)するなど、世界中から注目を集めている。

――「SHOGUN 将軍」にエグゼクティブ・プロデューサーとして関わるようになった経緯から教えてください。

マークス氏:私たちが関わっている「FX」というスタジオから、「新しい世代にこれを届けたい」ということで1冊の本が送られてきました。それがジェームズ・クラベルの「SHOGUN」だったんです。ベストセラー小説ではありますが、親の世代が読んでいた作品だったので、私たちはそれを読んだことはありませんでした。でも読んでみたらすごく良くて。この物語は、ある異文化に出会った時、どのようにその文化を知るべきなのかが描かれていましたし、自分自身を知ることにもなると気付いたんです。

――物語の舞台は1600年ですが、異文化に触れるということは今の時代でもあることですからね。

コンドウ氏:まさにその通りで、時代は1600年、戦国武将やサムライなどいろんなキャラクターが登場しますが、登場人物は現代の私たちと同じような感情を持っていたりするので、共感することができるんです。

■真田の印象は「話すと長くなります(笑)」

――主演の真田さんは“日本を正しく伝えたい”という思いをもって、この作品に臨まれたということですが、一緒に仕事をしてみての印象は?

コンドウ氏:真田さんから本当にたくさんのことを学びました。話すと長くなりますけど、取材の時間どれくらいあります?(笑)

マークス氏:本当にどれだけでも話せるくらい、たくさんありました(笑)。とにかく、真田さんがいなかったら、この「SHOGUN 将軍」というドラマは出来てなかったと思います。主演というだけでなく、プロデューサーとしても貴重な存在でした。私たちが真田さんと最初に会って話したのは、彼の役柄や今回の作品のストーリーではなく、「今までハリウッド映画がどうして日本を正しく描けなかったのか」ということでした。

コンドウ氏:そのことについて最初に話し合えたことが、その後の制作のことを考えると大きなことだったなと思います。

マークス氏:(大きく手を広げるしぐさ)こんなにも長いリストを彼からもらいました(笑)。

コンドウ氏:それは真田さんからの提案だったんです。

マークス氏:そこに書かれていた内容はすごく理解できるものでしたね。例えば、「所作の指導者に参加してもらう」とか「衣装、メイク、小道具に関しても日本の専門家にしっかりと見てもらう」とか、時代考証に関してもキッチリと行うというようなことが書かれていたんです。たくさんの項目がありましたけど、それは決して難しい要求ではありませんでした。私たちも、こういう作品には専門家の方が必要だと思っていたので。

――「これがダメ」「あれがダメ」ということではなく、「これはこうしましょう」という提案のリストだったんですね。

コンドウ氏:そうなんです。細かく代案を用意してくれていたので、すごく助かりました。

マークス氏:そのリストを基に、制作も進めていきました。今回の作品にはカナダやアメリカのスタッフもたくさん関わっています。彼らもプロフェッショナルなので、ただ言われたことをやるわけではありません。リストを基に、「なぜこれが間違っているのか?」というふうに理由を聞いて、それに対する答えをもらって納得するという形で。一つ一つ確かめながら、日本から参加されたスタッフの方との信頼関係を築いていったんです。

■日米のスタッフがきちんと意見交換

――日本のスタッフ、ハリウッドのスタッフの双方がちゃんと意見交換ができて、納得した上で進めていったと。

マークス氏:はい。その作業はとてもクリエイティブなものだったと思っています。

コンドウ氏:私は日本の血が入っているので、自分としては日本のことを結構知ってるつもりだったんですけど、知らないことや新しい発見がたくさんありました。私は日系アメリカ人でハワイで生まれているので、日本で生まれ育った人とはやっぱり感覚的に違う部分も多いんだなという気付きもあって、すごく貴重な経験になりました。

マークス氏:レイチェルさんが言ったように、日系アメリカ人、日系カナダ人のスタッフもたくさんいたんですが、日本からのスタッフとのやりとりの中でいろんなことを知れたのは大きかったなと思います。

――制作に関しても、日本のやり方と、ハリウッドのやり方で違うところがあると思いますが、そのあたりはどういうふうに進めていったんですか?

マークス氏:これも真田さんと話し合って決めたんですが、日本のスタイルで撮るのかハリウッドのスタイルで撮るのか、どちらかにではなくて、両方のいいところを採用していくやり方で進めていきました。

コンドウ氏:制作する現場のことだけじゃなく、見る人に対しても、一つのスタイルで進めてしまうと「アメリカの視聴者には合うかも知れないけど、日本の視聴者には合わないかも知れない」とか、その逆とか、そういうことがないように両方のやり方を融合していった感じですね。

――日本人キャストが多く、名もなき侍の役も日本人が起用されていますが、キャスティングの重要性はどのように考えていましたか?

マークス氏:キャスティングに関しても、日本人の役は日本のキャストがいいというのは私たちと真田さんの意見が一致していました。日本人キャストの方は時代劇を経験されている方も多くて、すでに所作や殺陣などを習得されていたりします。そういう細かな部分が結構時間がかかったりするので、日本人キャストを起用することは私たちにもメリットが多いんです。

コンドウ氏:お辞儀の仕方とか、そういう所作はやっぱり日本人の方のほうが慣れていますし、美しかったりするんです。

マークス氏:これはキャストの話ではないんですが、撮影の時に日本のスタッフの方の意見ですごく良くなったことがありました。家の中を撮影する時に、縁側にカメラを設置して中を撮ろうとしたんですけど、壁がすごく殺風景だったんです。「もう少し面白い画が撮りたいんだけど」と言ったら、日本のスタッフの方が「それはカメラのアングルが間違ってるんですよ。逆に向けないと。日本の家屋は室内から庭を望むように作られているから縁側があるんです」と教えてくれました。

コンドウ氏:外から中を撮るんじゃなくて、中から外の庭の方を撮る。カメラを置く場所を変えて逆方向にしただけで、全然違う風景が広がっていました。

■影響を受けた日本人クリエーター

――ちなみに、日本人監督の作品で好きな作品、影響を受けた作品はありますか?

マークス氏:時代劇は黒澤明監督の作品で知りました。黒澤さんの作品が好きで、時代劇も好きですけど、「天国と地獄」「悪い奴ほどよく眠る」「醉いどれ天使」といった現代を舞台にした作品の方がもっと好きですね。大学生の頃に日本に来たことがあるんですが、それも黒澤監督の影響でした。最近は、是枝(裕和)監督の作品が好きです。なので、今回、日本を舞台にした作品に関われたことが本当にうれしいです。

コンドウ:私は子どもの頃あまり日本の映画を見てこなかったんですけど、大人になってから日本の文学にハマりました。特に好きなのが遠藤周作さんの「沈黙」と安部公房さんの「砂の女」です。

――日本の映画や文学に興味を持ってらして、今回、日本を舞台とした作品を作られたということですが、また次に日本人キャスト、スタッフと組んで何かを作るとしたらどういう作品がいいですか?

マークス氏:「SHOGUN 将軍」は西洋人が日本に漂着して、全く新しい文化や国を知るという物語だったので、次に何か作るとしたら、その逆も面白いんじゃないかなって思います。日本人がアメリカに来て、初めて世界の文化を知る、みたいな感じで。ぜひまた何かできたらいいなと思います。

◆取材・文=田中隆信

「SHOGUN 将軍」主人公の吉井虎永(真田広之)/(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks