劇団ひとりさん(47歳)が、公開中の映画『マーダー★ミステリー ~探偵・斑目瑞男の事件簿~』に出演しました。



 推理小説の登場人物となり、参加者が話し合いながら事件の解決を目指す体験型ゲームをベースにした劇場版であり、ひとりさんは主人公である探偵・斑目瑞男役、そして動画配信者を名乗る謎の男・八村輝夫を演じます。


 1993年にデビューしたひとりさんは2000年にピン芸人劇団ひとり」となり、テレビのバラエティ番組、俳優、小説家、脚本家、映画監督としてさまざまなジャンルで活躍中です。


 来年には「劇団ひとり」となって25周年を迎えますが、主戦場のお笑いの仕事は、「確固たる自信みたいなのを持てないことが、すごい商売だなと思う」と言います。


 今回の映画のこと、矛盾に満ちているお笑いの仕事、そして(意外な?)今後の課題について聞きました。


◆『ゴッドタン』以来の映画主演?



© 2024 劇場版「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」フィルムパートナーズ



――今回の映画は、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』以来の映画主演になるそうですね。


劇団ひとり(以下、ひとり):いや、主演じゃないと思うんですよ。主演だと思っていなかったです、今言われるまで(笑)。みんながメインキャストみたいなもんですからね。この『劇場版マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿』は、ちょっと特殊な現場なんで。そういう意味では『ゴッドタン』も特殊な現場なので主演っていう感じはしていなくて、むしろ両方ともほとんど情報を隠されたまま、何も知らないまま現場に放り出されているんで、かなり近い感じですかね。


――ご自身としては、普通の劇映画みたいにお芝居に集中して楽しみたい気持ちも?


ひとり:これはこれで楽しいですけどね。やっぱりアドリブの良さがあるし、両方とも好きです。ちゃんとセリフがあって、その一字一句の中で、どういう言い方で、どういう表情でやったらいいかすごく準備してやるっていう面白さもあるでしょうし、その場その場で、即興でやる面白さもあるでしょうし、どっちも好きです。


◆自分の不甲斐なさが勉強になった



――今回の『劇場版マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿』は、後者の即興性が要求される作品だと思いますが、撮影を経て何か改めての学びや気づきはありましたか?


ひとり:特になかったです(笑)。ただ、推理能力に関して言うと、自分の不甲斐なさは勉強になりました。本当にこういうの苦手なんだなと。なんならちょっと得意なんじゃないかと思ってたんですけど、こういう謎解き系は全然分かんなかったですね。しかも、あのキャラクター的に一発で正解に行くって感じじゃないので、難しかったです。


理想を言うと、この『劇場版マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿』では、本当は台本があったんじゃないかなっていうくらいの見事なアドリブと、最後の答え知ってたんじゃないの? って言われるくらいの名推理。この両方をやっぱり叩き出したいですよね。せっかく出るからには。


――名探偵でキメたかった?


ひとり:最後はやっぱり古畑任三郎バリの名推理を独白でやったらそれは気持ちいいでしょうね。で、それを当然みんなやろうとしたんですよ。でも本当にみんなズタボロで、推理内容もダメだし。頭の中整理されてないから、もう噛み噛みだし、見せられたもんじゃなかったですけど(笑)。編集にだいぶ助けられている感じです。


◆芸歴30周年を迎え「すごい商売だなと思う」



――ひとりさんは1993年のデビューから今年で芸歴30周年を迎えました。“劇団ひとり”となってからは来年で25年になります。その間に小説を出され、映画監督としても作品を出されて活躍の場を広げていますが、節目という意味で何か思うことはありますか?


ひとり:長いですよね。そんなにやっているとは思えないくらい、確固たる自信みたいなのを持てないことが、すごい商売だなと思うんですよ。まあ別に僕に限ったことじゃなくて、たぶん師匠クラスの人たちもそうだと思うんですけど、何十年もやってるのに平気でスベったりするじゃないですか。これ、なかなかあんまりない商売だと思うんです。


――要は失敗が多いということ?


ひとり:さすがに30年寿司握っていれば、間違えておにぎり出しちゃうみたいなことはないじゃないですか。でも僕ら平気でやるんすよね。なんならラーメン持ってきて「あれ? 違いましたっけ」ってくらい大きくスベったりする。だから逆に言うと、飽きずに続けられてんだろうなっていう感じはします。


――お笑いは、そんな簡単じゃないってことですね。


ひとり:簡単じゃないですね。当然経験はついてきたし、昔に比べたら多少は上手くできているんだろうけど、まあそれでもツルツルにスベることは多々ありますから。それは別に僕もそうだけど、売れてるって言われてる人たちでさえも、そんな瞬間なんて山ほどあるわけですよ。


だから、どんなにすごいって言われてる人でさえ、ちゃんと数えたら実質5割ぐらいじゃないかなって思うんですよ。惰性で笑っている時はあるけど、ちゃんとカウントしたら5割ぐらいだと思いますよ。難しいから。だから、面白いんだなと思うんですよ。


◆“悔しいという気持ち”が自分にとって大事な価値観



――なかなか極められないから続けていられる職業なんですね。


ひとり:もしも僕がもう完全にお笑いっていうものを攻略して10割いつでも好きな笑いを取れてるってなったら、とっくに辞めてるかもしれないです。まあ、そうなりたくて頑張ってるけど、実際そうなっちゃったら、辞めてんのかもしんないです。もう飽きちゃってね。


やっぱり「ウケるかな? スベっちゃうのかなあ? ダメだったかな」とか、そういうのがあるから面白いんだろうなと思います。それは別にお笑いに限んないけど、世の中にある全部の仕事、スポーツにしたってそうかもしれないけれど、上手くいかなくて、そのことにちゃんと悔しがれるっていうのがないと。


逆にその悔しいっていう気持ちがあるってことが、自分にとっての大事な価値観なのかもしんないですね。だって僕が別にバッターボックスに立って三振したって何も悔しくないけど、それは僕にとっての野球だからで、野球選手からしたら、なんであの球が打てなかったんだってって、夜も眠れないわけでしょ。


逆にその野球選手が、バラエティのコメントでスベって夜眠れないってことはないと思うんですよ。やっぱり自分がどこに対して悔しいって思うかは、自分にとっての価値観なんだろうなとは思いますけど。その悔しいも、糧にしてってことですよね。糧にして、明日はもうちょっと、と。悔しいから、またやりたくなるんでしょうね。


――簡単にできちゃったら、確かにつまらなそうです。


ひとり:ね。簡単に出来るようになりたくて練習してんだけど、実際になっちゃったらつまんないんだろうなっていう。だからすごい矛盾してますよね。まあ、なんでもそうだと思うんですけど。ゴルフ好きだけど、ゴルフなんか全然上手くなんないんですよ。


もう10年以上やってるけれど。でも毎回落ち込んで帰るんすけど、だから面白いんだろうなと思うんです。今回の映画だって、簡単に謎が解けちゃったらつまんないんですよ。開始早々5分でもう犯人分かったってなったら、たぶんやっても何も面白くないでしょうね。


だから人生ってのは、ほどよく難しいのがちょうどいいんでしょうね。難しすぎると今度は投げちゃうから。ちゃんとご褒美ももらいつつ、悔しがるっていう、そのくらいがちょうどいい。


◆30年もやっていたらもっと上手くなると思っていた



――先ほども言いましたが、お笑い芸人としてとも、そのほかの面でも芸能界で成功されていると思いますが、ご本人としてはなりたい自分になれたとでも言いますか、思い描いてた自分の現在地でしょうか?


ひとり:さっきの話になるけど、30年やったらもっと上手くなると思ってました。もっとあたふたしないものかと思った。現場で30年もやってりゃ。だって30年ですからね。もうちょっと上手くできんのかなと思ったけれど、いや、できないですね。あと、なんだろうな、ダラダラとかしないと思っていました。


大人になったら、すごいダラダラするんですよ。やんなきゃいけないことあるのにね。スマホ見たりとか、くだらないどうでもいい芸能ニュースとかずっと見たりとかして、なんかよくわかんないコメント欄までちゃんとつぶさに読んだりして。こんなことで時間を消費するような大人になっている予定じゃなかったんですけどね。あと、夜寝る前とか暴飲暴食するつもりもなかったし、寝る前にポリンキー要らないだろうって(笑)。


――それはかなり意外です(笑)。


ひとり:ちょっと3分の1だけ食べようと思っていたのが、全部食べちゃったりとかね。ああいうところが、なんかちょっと情けないですよね。もうちょっと自制できる大人になっていると思ってたし。今日も朝起きたら「紗々」っていうチョコレート、一箱食べちゃいましたから。


本当は2枚くらいの予定だったのに、ついつい一箱丸々食べちゃったんです。子どもには「2枚だけだよ」とか言いながら、自分は一箱食べているんです。ああいう時にダメな大人になったなと思うんです。もうちょっと、お坊さんぐらい自分を律することができるようになってるつもりだったんです。47歳にもなれば。でも、あんま変わんないですね。そこら辺のだらしなさ。


◆大人として、当たり前のことをちゃんとしたい



――ひとりさんが想像していた40代後半とはかなりのギャップがあったと。


ひとり:歯も磨かないで寝ちゃうとか絶対しないと思ってたんですけど、やっちゃいます。今日はいいやと思って。酔っぱらってる時とか。子どもには言うくせに、自分は歯磨かないで風呂入んないで寝たりするから、ああいうところが情けないし、下手したらこんなん俺、70歳になってもやってんのかなと思ったりする。


ちょっと今日は眠いから明日風呂入ろうとか言って、そこにちょっとガッカリします、自分に。やっぱり大人になったら、自分をちゃんと律すること、歯磨きはちゃんとしたいです。嫌ですね、自分が最後、死ぬ直前に歯磨かないで死ぬの。ちょっと歯磨くのめんどくさいからって言ってるうちに死ぬのなんか嫌だから(笑)。


――ちゃんと生活するようになりたいと(笑)。


ひとり:当たり前のことをちゃんとしたいですね。歯磨きを1日3回して、ちゃんと夜寝る前にお風呂入るっていう。40代後半ですけども、それを目標に生きていこうと思います(笑)。


<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>


【トキタタカシ】映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。