人生100年時代といわれて久しい昨今、60歳で定年を迎えた後も再雇用で働くつもり、または働いている、という人は多いでしょう。ただ、再雇用は多くの場合、給与額が大幅に減ってしまうのが悩みどころ。そこで、再雇用で減った給与を補う「給付金」について、具体的な事例を交えてみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが解説します。

再雇用だと年収がほぼ半減…定年間近・Aさんの「悩み」

Aさん(男性・59歳)は、もうすぐ定年を迎えようとしています。25歳で就職してから35年近く会社に勤務し、2024年4月で60歳になります。

現在は月収が50万円、賞与が年間150万円で年収750万円。定年後も65歳まで再雇用で勤務可能ですが、月収が28万円、賞与が年間60万円程度で年収は400万円と大幅に下がるそうです。

Aさんはこれを聞いて、「そんなに給与が下がるなんて、やってられるかよ。貯蓄や退職金もあるし、60歳で退職してのんびり過ごすのもありかもしれないな」と思いました。

しかし、これを聞いて家計や老後資金のことが気になる妻・Bさんは難色を示します。Aさんが悩んでいたところ、知り合いのFPから「給与に上乗せされる給付金」の話を聞きました。

「高年齢雇用継続給付」とは?

老齢年金の支給開始年齢は、65歳です。したがって、Aさんが60歳でリタイアしてしまうと、65歳までの間は無収入となります。貯蓄や退職金があるからといっても、取り崩す生活を5年も続ければ、65歳以降の老後資金が心配です。

Aさんは65歳以降収入が大幅に下がってしまうことを嫌がっていますが、60歳以降再雇用で勤務し、60歳以降の賃金が60歳時の賃金と比べ大幅に減った場合には、「高年齢雇用継続給付」の支給を受けることができます。

この高年齢雇用継続給付には、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」という2種類があり、雇用保険の基本手当等を受けず、60歳以降継続勤務している人を対象としているのが「高年齢雇用継続基本給付金」です。最大で60歳から65歳まで毎月受給できます。なお、申請は原則会社経由で行うことになります。

具体的には、60歳以降の毎月の(支給対象となる各月の)賃金が、60歳時の賃金月額(60歳になる前の6ヵ月の総支給額÷180×30)と比べ、75%未満になった場合が支給対象です。

給与額が61%以下になれば、賃金の15%が給付金として支給されます。ただし、賃金の算出にあたっては、賞与は除きます。

つまり、60歳前と比べ賃金がどれくらい低下したかに応じて、60歳以降の各月の支給率や給付金の額が決まるということです。

Aさんがもらえる「給付金の額」は…

Aさんの給与は先述のように、

<現在>

年収:750万円(月収:50万円、賞与:年間150万円)

<60歳以降(見込み)>

年収:400万円(月収28万円、賞与:年間60万円程度)

となっています。

Aさんの場合、計算上「50万円」ではなく、賃金の上限額として設定された48万6,300円(2023年8月~2024年7月までの場合)が基準となるため、Aさんの給与は48万6,300円→28万円に低下するということに。よって、60歳以降の給与は定年前と比べて61%以下となります。

給与額が61%以下になると、賃金の15%が給付金として支給されます。よって、Aさんの高年齢雇用継続給付は28万円×15%=4万2,000円

Aさんには毎月4万2,000円支給されることがわかりました。これは年間に直すと50万円以上の給付金が支給されることとなり、65歳まで受給できれば合計250万円以上となります。

給与が下がってしまうことに変わりはないものの、「高年齢雇用継続給付」の存在を知ったAさんは、「けっこう大きな額だな。支給されるかされないかでは大きな違いがある」「これで足りない分を少しは補えそうだ」と安心したそうです。

法改正により、2025年度以降に60歳になる人の支給率は最大15%ではなく最大10%となりますが、Aさんの場合は2024年度で60歳になるため、最大15%の受給が可能です。

反対に、60歳で完全リタイアしてしまえば、給与収入がなくなるのはもちろんのこと、この給付金も受けられなくなります。

再雇用で働くと「年金」も増やせる

60歳から引き続き5年間勤務できると、他にもいいことがあります。60歳から65歳まで5年間勤務すれば、そのあいだ厚生年金保険料を掛けることになりますが、その分65歳からの年金額も増えるのです。

人生100年時代の昨今、5年分年金を増やせれば、退職後の年金生活もより安心できるものになります。Aさんの場合、60歳でリタイアするより65歳まで働いたほうが、年額20万円程度年金が多くなる見込みです。

もともとそんなに働き者ではないと自認するAさん。「早めにリタイアして自由な時間を増やし、夫婦で旅行でも行こうよ」と言いましたが、Bさんから「旅行なんて頻繁に行くものでもないでしょう。仕事をしながらでも、有給休暇を使って旅行に行けばそれでいいじゃない」と言われ、納得。

「そうか。結局余った時間はなにをして過ごしたらいいかわからなくなるかもしれないし、あと5年だけ頑張ってみるか……」と考えるようになりました。

後日、Aさんは改めて会社から定年後の再雇用のこと、高年齢雇用継続給付について説明を受け、再雇用としての雇用契約を結んだそうです。

定年前は「将来の家計の収支」を考える時期

かつては「60歳定年・60歳から年金受給」が常識でしたが、いまや65歳まで勤務するのが当たり前の時代になりつつあります。

定年が近づいている人は、60歳から受け取れる雇用保険の給付や退職後の年金のことも含めて、将来の家計の収支を考えておきたいところです。

井内 義典 株式会社よこはまライフプランニング代表取締役 特定社会保険労務士/CFPⓇ認定者

(※写真はイメージです/PIXTA)