ジャイアントパンダ」といえば、その白黒模様が非常に愛らしく特徴的です。

しかしそんなジャイアントパンダには、その模様が薄い茶色いになってしまった亜種の茶色パンダが存在します。

そして現在、唯一の茶色パンダである「チーザイ」は、世界中から注目を集めています。

この茶色パンダは、個体数が少ないことから、長年謎に包まれていましたが、最近になって中国科学院に所属するデンファン・グアン氏ら研究チームが、毛の色が明るくし「茶色になる原因」を発見しました。

研究の詳細は、2024年3月4日付の学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。

目次

  • 中国の特定の山脈だけに生息する「茶色パンダ
  • 茶色パンダの毛色が茶色になる原因遺伝子を特定

中国の特定の山脈だけに生息する「茶色パンダ」

茶色パンダの「チーザイ」
茶色パンダの「チーザイ」 / Credit:Wikipedia Commons_Qinling panda

通常のジャイアントパンダは黒色と白色ですが、「茶色パンダ」または「秦嶺パンダ」と呼ばれるジャイアントパンダの一種(学名:Ailuropoda melanoleuca qinlingensis)は、茶色と白色の模様を持っています。

このパンダは、中国中部を東西に貫く標高1300~3000mの秦嶺山脈(しんれいさんみゃく)」にのみ生息している貴重な存在です。

1985年に最初の1頭が発見されて以来、世界中がこの茶色パンダに注目してきました。

2005年には、ジャイアントパンダの亜種として正式に認められています。

ほとんどの茶色パンダは、ジャイアントパンダとほぼ同じ大きさで、体長は1.2~1.8m、体重は60~190kgだと言われています。

通常のパンダの色と比べると、茶色パンダの毛色の明るさが際立つ
通常のパンダの色と比べると、茶色パンダの毛色の明るさが際立つ / Credit:Canva

これまでに写真や実物が確認されているのは7個体ですが、秦嶺山脈には野生の茶色パンダが200~300頭生息していると推定されています。

最初に記録された茶色パンダのメスは、「ダンダン」と名付けられ、動物園で保護されたようです。

その後ダンダンは2000年に亡くなりました。

ところが2009年、秦嶺山脈で親から離れて衰弱している茶色パンダの赤ちゃん(オス)を発見。秦嶺ジャイアントパンダ研究センターで保護することに成功しました。

彼は「チーザイ」と名付けられ、現在飼育下で生存している唯一の茶色パンダとなりました。

では、どうして茶色パンダはそのような特殊な色になるのでしょうか。

今回、グアン氏ら研究チームは、貴重な茶色パンダの遺伝子を調べることで、その原因を明らかにしました。

茶色パンダの毛色が茶色になる原因遺伝子を特定

今回の研究では、茶色パンダであるチーザイの遺伝子を解析し、通常のジャイアントパンダ29頭の遺伝情報(ゲノム)と比較しました。

その結果、「BACE2」と呼ばれる遺伝子の変異が、黒色ではなく茶色の模様を生み出す可能性が高いと判明しました。

くつろぐチーザイ。この明るい毛色は、BACE2遺伝子の変異が原因だった
くつろぐチーザイ。この明るい毛色は、BACE2遺伝子の変異が原因だった / Credit:Wikipedia Commons

研究チームによると、このBACE2変異は、メラニン色素を含む細胞小器官「メラノソーム」の量を減少させるようです。

このメラノソームは、被毛や皮膚の色素に影響を与えているため、これが減少することで、黒色から茶色へと、色が薄くなったものと考えられます。

実際研究チームは、茶色パンダのメラノソームが、通常のパンダのメラノソームよりも小さく、数が少ないことを発見しました。

BACE2変異が原因であることを確かめるため、研究チームは、さらに192頭の通常のジャイアントパンダのゲノムを調べました。

その結果、BACE2変異を持つ「通常の色のジャイアントパンダ」は1頭も存在しませんでした。

さらにチームは、最終確認として数匹のマウスの遺伝子を編集し、BACE2変異を持たせました。

BACE2変異マウスは、毛色が明るくなる
BACE2変異マウスは、毛色が明るくなる / Credit:Dengfeng Guan(Chinese Academy of Sciences)et al., Proceedings of the National Academy of Sciences(2024)

その結果、それらすべての遺伝子編集マウスの毛色が明るくなりました。

これらの結果から、やはり茶色パンダの明るい毛色の原因は、BACE2遺伝子の変異だと考えられます。

ちなみに、このBACE2遺伝子はアルツハイマー病との関連が知られていますが、研究チームは、「この変異が茶色パンダに及ぼす他の生理学的影響は不明のままです」とコメントしています。

それでもBACE2変異マウスにおいては、「生存能力と生殖力があり、目立った身体的異常はない」とのこと。

非常に貴重で世界中から愛されている「茶色パンダ」だからこそ、彼らのことをより深く理解し、これからも健康でいてもらいたいものです。

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参考文献

Scientists Find Genetic Basis Making Some Pandas Brown
https://english.cas.cn/newsroom/cas_media/202403/t20240306_657988.shtml

Scientists decode genetic enigma of brown-coated giant pandas
https://interestingengineering.com/science/scientists-decode-genetic-enigma-of-brown-coated-giant-pandas

Not all black and white: How brown pandas got their unique coats
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/not-all-black-and-white-how-brown-pandas-got-their-unique-coats/

元論文

Taking a color photo: A homozygous 25-bp deletion in Bace2 may cause brown-and-white coat color in giant pandas
https://doi.org/10.1073/pnas.2317430121

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

白黒模様が薄くなった「茶色のジャイアントパンダ」の毛色の原因を特定