登場人物たちの中にうごめく“黒い感情”が交錯し、衝撃の結末へと突き進んでいくダークミステリー『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』。真梨幸子の同名小説を原作にした物語の始まりは、女子高生が恋人の男に洗脳され、実の両親を殺害する事件から。18年後、事件を題材にした小説を新人作家が週刊誌で連載することになる。だが、その小説を世に送り出すことであらゆる人間の運命が狂っていき……。連載の担当編集者・橋本涼役の桐谷健太ら実力派キャストが顔を揃える中、事件で死刑判決を受けた大渕秀行役でA.B.C-Zの橋本良亮が出演。「今までで一番悩んだ作品」という本作について語る。

初挑戦の死刑囚役を演じるために13㎏の減量

――大渕役との出会いについて聞かせてください。

橋本 ある日、マネージャーさんから「死刑囚役です。痩せてください」と言われて。その1週間後くらいに作品の台本を渡されました(笑)。

――何よりもまず、「痩せてください」だったんですね(笑)。

橋本 そうです(笑)。その後、プロデューサーさんにA.B.C-Zの2年前のライブ写真を見せていただいて。「このときの状態にしてきてください」とかなりガチな目をなさっていて(笑)。実際、当時のライブにお越しいただいたときに、僕を大渕役にと決めてくださったそうなんです。なので、これはやるしかないなと思い、まずは実際の死刑囚の食事を真似てみたんですが、全然体重が落ちない。もっとハードにやる必要を感じ、毎朝8km、毎晩8kmを走って13kgほどガツンと落としました。

――台本を読んだ感想は?

橋本 最初は正直、難しかったです。どんな感じで撮影するかイメージできなかったですし、大渕役が僕に務まるのかなって。そもそも、死刑囚の役作りってどうすればいいのか、考えるほど分からなくなりましたね。

――死刑囚であり、女子高生を洗脳したと言われる元ホストであり……。

橋本 複雑な男ですよね。でも、僕からしたら、どこか恨めない人で。サイコパスな中にも優しさがあると思ったんです。ただ、それをどう演じたらいいのか分からない。ホストをしているときも、チャラチャラした普通の青年なのか、誰かを思ってチャラチャラしているのか。表情ひとつも難しかったです。しかも、表情で芝居をするシーンが多くて。「その感情じゃないね」と監督に指摘されることも度々あり、かなりNGを出してしまいました。

――美しい外見も大渕の大きな特徴ですね。

橋本 プレッシャーでした(笑)。原作小説にも「爽やかなイケメンが前から歩いてきた」みたいな描写があって。ドラマの中では礼子(蓮佛美沙子)がずっと褒めてくれますし。困ったなと思いましたけど、なんとか自分を信じてやりました。

――裁かれる側の大渕はもちろん、大渕の事件を連載小説にする主人公の編集者も、大渕と獄中結婚した礼子も、登場人物たちは全員、“黒い感情”に絡め取られていきます。

橋本 大渕である僕が言うのもなんですけど、みんなどうしようもない奴ら(笑)。裏表があって、「まさか、こいつが?」「いや、違うな。まさか、こいつが?」の連続なんです。ある意味、全員が主人公のドラマに感じられて、それがいいなとも思いました。ひとりひとりが個性的で、全員がカギを握っている。物語を受け取る皆さんはパズルを組み立て、また壊して……の繰り返しになると思うんですけど。

――二面性があって、ひと筋縄ではいかない人物だらけで。

橋本 でも、それが嫌だなというよりは、助けたい気持ちになりました。この物語の中に僕自身が入るとしたら、理解して、ひとりひとりを助けたい。実際は、確実に飲まれちゃうでしょうけど。皆さん、圧がすごいので、気で溶かされちゃうと思います(笑)。

――ご自身の中に、大渕に通ずる部分はありますか?

橋本 難しいですね。「ない」とは言いたくないんです。大渕のことが好きだから。なんとか共通点を探したいんですけど、僕より遥かにミステリアスで、頭の回転も速くて。どちらかと言うと、憧れの存在と言ってもいいのかなと思います。

――笑顔が武器なのは、橋本さんと大渕の共通点かと。

橋本 笑顔を振る舞っていますからね、大渕は。僕も仕事柄そうですし。でも、笑顔の種類は違いますよ。彼の場合、笑顔は凶器ですから。僕はそんな目でファンの皆さんのことは見ません(笑)。

「僕、成長できてました?」って聞いてみたい

――緊迫したシーンの多い作品ですが、撮影現場の様子はいかがでしたか?

橋本 正直に言うと、キャスト同士で楽しく会話をする雰囲気ではなかったです。なので、すごく緊張したんですが、その緊張感が必要だったのかもしれない。はじめましての方が多かったんですが、(大渕の元愛人を演じる)斉藤由貴さんとは以前、舞台(『良い子はみんなご褒美がもらえる』)で共演させていただいて。すごく気さくで素敵な方なので、愛あるお叱りも率直にくださるんですよね。でも、今回はそういったことはなく。その真意は聞けていないんですけど、ちょっと嬉しかったです。聞きたくないけど、聞いてみたいですね。「僕、成長できてました?」って。

――桐谷健太さんとも、お芝居を密に交えるシーンがありますね。

橋本 作品にとっても大事なシーンですし、何度も台本を読んで練習しました。なんとか食われないように、逆に僕が食ってやるくらいの意気込みで。そもそも、こんなにもお芝居の上手な皆さんの中に僕が入るって、相当なことじゃないですか。なので、気合いを入れましたし、どう戦うかをすごく考えました。今までで一番悩んだ作品かもしれないですね。だからこそ、僕を知らない方にも「いい芝居をするな」「もっといろんな作品に出ればいいのに」と思われたい。できていたかどうかは分かりませんが、それくらいの自信でやりました。30代になって1本目のドラマですし、この経験を大事にしていきたいですね。

――30代の展望も見えてきましたか?

橋本 この作品では特に、表情の勉強をさせていただいたなと思います。これまでも映像は表情で芝居をし、舞台はオーラや覇気で芝居をするという考えがあったんですが、それをより一層感じる撮影でした。あと、僕の場合、舞台ではわりと激しい役を演じることも多いんですが、ドラマではあまりなくて。表現についてより学べた分、感情を露わにして叫んだり、目で殺したり……といった役もやってみたいなと思いました。複雑な役も好きですしね。とにかく、いろんな作品に挑戦していきたいし、その中で求められるものを超えていきたい。作品の作り手に対しても、受け手となる皆さんに対しても、予想をさらに超え、驚かせ、圧倒できる存在になっていきたいです。

取材・文:渡邉ひかる

WOWOW『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』

毎週日曜午後10時よりWOWOWプライム、WOWOW4Kで放送中(全5話)
WOWOWオンデマンドで第1話無料配信中

『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』