航空自衛隊で最初にF-35Aを運用するようになった第302飛行隊には、防空とは別にF-35パイロットの教育という任務も付与されているのだとか。そのような特色ある部隊の内情はどんな感じなのか、飛行隊長に話を聞いてきました。

二足のワラジ履く最新鋭機装備の飛行隊

2024年2月現在、航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F-35AライトニングII」は、青森県の三沢基地を拠点に運用されています。ここには第301と第302の2つのF-35飛行隊が所在しており、前者がカエルをモチーフにした部隊マークを、後者がオジロワシをデザインした部隊マークを、尾翼に描いています。

なお、第302飛行隊は、通常の領空防衛任務のほかにF-35パイロットの教育も担っているため、たとえるなら航空自衛隊における「ステルス戦闘機の学校」的な存在、と形容できるでしょう。

このように、現状「二足のワラジ」を履いているといえる第302飛行隊について、隊長を務める入田太郎2等空佐に、任務や教育に関することなど色々聞きました。

「現在の第302飛行隊は、通常の防衛任務を行いつつ、同時に新しいパイロットに対する機種転換訓練を担当しています。2つの役割を並行して行うのは本当に大変なことではありますが、我々が『航空自衛隊F-35乗員育成を担う部隊』という自負をもって任務に当たっています」

302飛行隊の特徴として教えてくれたのが、パイロットの多くが飛行時間の多いベテランパイロットだという点です。

「教育を担当するパイロットは、通常のF-35パイロットよりも高い技量と機体への理解力が必要ですし、何よりも人を教え育むという教官としての資質も必要です。このため、飛行隊に所属するパイロットはベテランが多く、平均年齢は(ほかの飛行隊と比べて)すこし高い感じです」

ベテランの多い “F-35学校”。では、ここに配属される新人パイロットは、どんな隊員なのでしょうか。

航空自衛隊では、操縦経験のない新入隊員が戦闘機パイロットになるためには、約2年間の基礎的な操縦教育を受けたうえで、さらに4か月間から約1年間の飛行訓練を受ける必要があります。それらを経て、ようやく各飛行隊に配属されるのですが、F-35の場合は、まったくの新人パイロットが訓練を受けることはないのだそう。それまで、F-15F-2F-4EJなど、他の戦闘機で任務経験がある現役戦闘機パイロットだけに、その資格があるのだといいます。

F-15はもちろんF-2やF-4EJ乗りも バラエティー豊かなパイロットたち

さまざまな戦闘機の操縦経験者が混在するというのは、訓練を受ける側だけでなく、教える側である教官役のパイロットも同様です。入田2佐自身もこの飛行隊に赴任する前は、F-15Jパイロットとして様々な飛行隊で勤務してきた経験を持っています。このような出自の異なるパイロットだけで要員が構成されるというのは、通常の航空自衛隊の飛行隊にはない特徴といえるでしょう。

では、異なる機種のパイロットが集まった飛行隊とは、どのような雰囲気なのでしょうか。

「似たような疑問はよく聞かれますね。異なる戦闘機パイロットが『ひとつの部隊で仲良くできるのか?』ということですよね(笑)。実際のところ、飛行隊に機種ごとの壁みたいなものはありませんし、同じ航空自衛隊戦闘機パイロット同士であることから、コミュニケーションなどに関する問題はまったくありません。ただ、個性という意味では、これは完全な私見ですが、F-4出身のパイロットは陽気でよく喋る人が多いような気がします」

パイロットたちの円滑なコミュニケーションについては、F-35航空自衛隊にとって次世代を担う新型機だということも大きいようです。第302飛行隊に所属する隊員たちは、自分たちが最新鋭機を運用しているだけでなく、新しい運用方法を確立したり、教育者として次世代の人材育成を担ったりしており、新しい分野を開拓してくフロンティアスピリッツ的な想いが強いように感じました。

「パイロットのバック・グラウンド(これまで乗ってきた機種)による差異があるとすれば、それは空対地任務に関する知見だと思います。F-2戦闘機出身のパイロットはそのような知見を豊富に持っており、F-35飛行隊で空対地任務のノウハウを構築していくうえでは、非常に重要な人的財産になっていると感じます。

逆に、私自身も含めたF-15出身のパイロットであれば空対空任務ではF-2よりも詳しい部分があります。このように、我々の飛行隊には航空自衛隊がこれまで培ってきた知見と人材が集まっており、それらが一丸となって新しいF-35の運用を作り上げているといえるでしょう。日々の訓練によってF-35の運用要領を自分たちがモノにしている感覚もあり、飛行隊長としても部隊の成長を日々感じています」

F-35戦闘機はスマホやPCと考え方一緒って?

入田2佐のハナシには、その節々に「成長」や「学ぶ」という言葉が多く含まれていました。一般的に訓練部隊の教官といえば、教える対象について隅々まで知り尽くしたベテラン的なイメージを抱くかもしれませんが、F-35という新型機では少し事情が異なるみたいです。

F-35は私が以前に乗っていたF-15と比べて能力が向上しただけでなく、任務で対応できるタスクも膨大に増えました。それは、同時にパイロットに要求される能力も高くなったといえます。また、その能力は一定レベルに達成したら完成するものではありません。F-35自体が段階的なアップグレードによって随時、能力向上が図られているため、それを完璧に使いこなすには我々パイロット自身も、知識の更新と技術の研鑽を続ける必要があることを実感します。そのため、我々は常に最新情報を収集することに励むとともに、部隊の能力向上を図っています」

F-35は機体内部のソフトウェアが定期的にアップグレードされているため、それによって機体性能や機能の拡充が逐次、行われています。これは一般人が使うスマートフォンやパソコンのOSがアップデートすることで新機能が増えるのと似ています。その機能を使いこなすにはパイロットも自身の技量と知識をつねにアップデートする必要があり、それは機体の運用が続く限り、終わることがない修練の繰り返しになるといえるでしょう。

教わる側も教える側も学び続けることに終わりはない

最後に入田2佐に伺ったのは、F-35パイロットに求められる能力でした。第5世代戦闘機であるF-35は、今までの戦闘機よりも能力が高く、これまでにない新要素も数多くあります。ゆえに、同機を操縦するパイロットにも、これまでの機体とは異なる「何か」が求められたりするのでしょうか。

F-35パイロットに要求される能力としては、さまざまな能力をバランス良く持ち合わせる『総合力』であるように考えます。操縦技量、システムへの理解力、情報処理能力、決断力など、いずれか1つの能力が飛び抜けているよりも、全体としてバランスよく能力を有していなければ、F-35の最大限の能力を引き出すことはできません。

このように言うと、従来のパイロットと比べて要素が少ないように感じるかもしれませんが、私が挙げたこれら能力はF-35Aという戦闘機を操縦しながら行うことが前提です。つまり、パイロットに求められる能力の根本部分は変わっておらず、そのうえで前述したような新しい能力をこれまで構築してきたノウハウの上に積み重ねる必要があるといえるでしょう。

とうぜん、それは私自身にもあてはまることで、これから勉強しなければいけないことがまだまだ山のようにあります」

F-35は、機体のシステムが高性能・自動化になったことや、コックピットのディスプレイがスマートフォンやタブレットのようなタッチパネルで操作できるようになったことなどから、当初はパイロットの負担が減り、操縦も簡単になったという印象が先行したこともありました。

しかし実際は、能力的により高度な任務が可能となったことで、パイロットには従来と異なる新たな能力が求められるようになりました。それらは、パイロット自身の努力と訓練の積み重ねでしか獲得できないものです。ゆえに、戦闘機パイロットは、昔と変わらず本質的には特別な存在なままといえそうです。

2022年の三沢基地航空祭で展示されたF-35A「ライトニングII」戦闘機。手前の機体は第302飛行隊所属で、一番奥が第301飛行隊の所属機(布留川 司撮影)。