1月クールの火曜ドラマ「Eye Love You」(毎週火曜夜10:00-10:57、TBS系)で主演を務め、人の心の声が聞こえる力“テレパス”を授かった本宮侑里を演じている二階堂ふみ。それと並行して、2月27日からはディズニープラスのスターで独占配信中のドラマ「SHOGUN 将軍」にも出演。本作で“ハリウッドデビュー”を果たした二階堂が演じる落葉の方は“淀君”からインスパイアされた人物で、「Eye Love You」とはまったく違った姿を見せている。今回は話題作に続々出演する二階堂のこれまでを振り返り、印象的な作品や役柄を紹介したいと思う。

【写真】ハリウッドデビュー作「SHOGUN 将軍」では底知れぬオーラをまとう落葉の方を演じる二階堂ふみ

■大河ドラマで“淀君”を演じた経験も

「SHOGUN 将軍」は陰謀と策略が渦巻く戦国の世が舞台。ハリウッドが日本のスタッフ・キャストとタッグを組み、日本の心や美学などを“正しく描く”戦国スペクタクルとなっている。同作で二階堂は“淀君”からインスパイアされた“落葉の方” を演じているが、二階堂は2014年の大河ドラマ「軍師官兵衛」(NHK総合ほか)で淀君を演じた経験もある。

太閤の子どもを産んだ唯一の側室である落葉の方は、無慈悲で計算高く、信じるのは自分のみ。息子を守るためには手段を選ばないという。本記事執筆時点で配信されている第3話までの出演場面でも、言葉数は少ないが、視線、表情、所作の一つ一つが多くを語っていて、真田広之が演じる主人公・吉井虎永との場面も見ている側が緊張してしまうほど。「Eye Love You」の侑里とのギャップ、振り幅の大きさに驚かされる。

侑里でのピュアな演技はもちろんのこと、芯の強い役、ぶっ飛んだ個性の強い人物と、本当にどんな色(役柄)にも染まってしまう。俗に言うカメレオン俳優、いや、もはやオールラウンダー俳優と言ってもいい活躍だ。

■「沖縄美少女図鑑」がきっかけで芸能界入り

1994年9月21日生まれ、沖縄県出身の二階堂は、12歳の時に「沖縄美少女図鑑」に掲載されたことがきっかけで芸能界入り。2007年放送のドラマ「受験の神様」(日本テレビ系)で女優としてのキャリアをスタートさせ、2009年に公開された役所広司の初監督作品「ガマの油」で劇場映画デビュー。2011年には「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」で映画初主演を果たした。

注目度が一気に高まったのが2012年公開の映画「ヒミズ」。この作品で二階堂染谷将太とW主演を務め、「第68回ベネチア国際映画祭」でマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)をそろって日本人初受賞する快挙を遂げた。同作は「行け!稲中卓球部」で知られる古谷実氏の漫画を、東日本大震災後に設定を変更して実写化された作品で、染谷は平凡な生活を夢見ながらも過酷な現実に直面する住田を演じ、その住田に恋をして献身的に支えていく茶沢を二階堂が演じて強烈なインパクトを与えた。

このあたりから出演作も一気に増えていき、映画では「悪の教典」で生徒側の主人公にあたるショートボブが印象的な片桐怜花を、生田斗真主演の「脳男」では連続無差別爆弾魔のサイコキラー・緑川紀子を演じた。「地獄でなぜ悪い」では、國村隼が演じる組長・武藤大三の娘でギャルのミツコを演じたが、この役も組長の娘だけあって肝が座っていて少々のことには動じないという性格だった。「四十九日のレシピ」のイモも、ロリータファッションと厚化粧で武装するエキセントリックなキャラ。

「私の男」は、地震による津波で両親を失い10歳で孤児となった少女・花と、彼女を引き取ることになった遠縁の男・淳吾(浅野忠信)の禁断の愛の物語。繊細な花の心情をこれほどうまく表現できるのは二階堂しかいないのではないか。そう思わせてくれる演技を見せた。浅野とは最新出演作「SHOGUN 将軍」でも共演している。「渇き。」では茶髪プリンのヤンキー・遠藤を演じて、眼光も鋭く、眼を引く存在感を放った。

■大河ドラマは3作品に出演

活躍のフィールドは映画ばかりではない。「地獄でなぜ悪い」の時期(2012年9月)から大河ドラマ「平清盛」に平徳子役で出演した他、「軍師官兵衛」(2014年)に淀君(茶々)役で出演し、その後「西郷どん」(2018年)の愛加那役と、多くの俳優が出演を目指す大河ドラマに計3作品出演している。

2016年も印象に残る作品に数多く出演。石井岳龍監督の映画「蜜のあわれ」に主演し、作家の妄想から生まれた妖艶な金魚を演じた。「オオカミ少女と黒王子」では、後戻りできないうそをついてしまったオオカミ少女・エリカを演じ、山崎賢人(※崎はタツサキが正式表記)演じるドS王子・恭也に振り回されてしまう。純粋で素直なエリカに引かれた人も多いのでは。

「SCOOP!」では福山雅治と共演。かつては数多くのスクープを手にしたスター的存在だったカメラマン・都城静を福山が演じ、写真週刊誌「SCOOP!」の新人記者・行川野火を二階堂が演じた。都城とバディーを組まされた行川は、アシスタント的な役割で芸能人のスキャンダルネタの張り込みなどに付き合わされてしまう。最初は頼りない新人記者という感じだが、現場で鍛えられ、記者としても強くなっていく。その成長と変化をうまく表現しているところも大きな見どころ。2018年公開の「リバーズ・エッジ」のハルナ役も、二階堂にとって重要な役となった。原作となった岡崎京子の同名コミックを10代の頃に読んだ二階堂は、ハルナとして“生々しい感情や欲望”を演技でぶつけている。

■「翔んで埼玉」では生徒会長“男子”に

いろんな役を演じてきた二階堂も、2019年に初めてのチャレンジとなった作品がある。それは「翔んで埼玉」。演じた壇ノ浦百美は、東京屈指の名門校・白鵬堂学院の生徒会長を務める“男子”。初の男性役で、「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」というセリフとともに、このキャラクターを印象付けた。2023年には続編「翔んで埼玉琵琶湖より愛を込めて〜」も公開され、関西圏を巻き込みスケールアップした。

2020年には、連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか)でヒロイン・関内音を演じた二階堂。歌うシーンもあり、力強い女性を生き生きと演じていた。同年公開された映画「ばるぼら」にも注目。手塚治虫氏の生誕90周年を記念して実写化された作品で、稲垣吾郎が人気小説家・美倉洋介を演じ、堕落した生活を送っていたが不思議な魅力があって美倉のミューズとなる“ばるぼら”を二階堂が体当たりで演じた。独特の雰囲気を放つばるぼらも“挑戦”と言える役だったと思われる。

■グローバルな撮影の「VIVANT」を経てハリウッド

「エール」以降のドラマだと、「プロミス・シンデレラ」(2021年、TBS系)の桂木早梅も夫に不倫され、離婚し、スリに遭って路上生活するところからスタートする個性的な役。「VIVANT」(2023年、TBS系)では世界医療機構の医師で、バルカ共和国で医療に従事する柚木薫役で出演。芯の強い性格で、思いやりのある薫は、複雑に展開するストーリーの中で欠かせないキャラでもあった。

そこから「Eye Love You」「SHOGUN 将軍」と続いていくわけだが、あらためて作品ごとに違う色を見せてくれていることに気付く。

ハリウッドデビュー作となった「SHOGUN 将軍」のジャパンプレミアに登壇した際、二階堂は「本当にビックリするような経験の毎日で、作品を作るプロセスも全然違いましたし、ぜいたくな時間を過ごさせていただいて。最初にセットを見学させていただいたときは、こんなに大きい照明が世の中に存在するのかと思うぐらいの大きな照明とセットでした」と語っていた。日本でいろいろな現場を経験してきた二階堂ですら驚きを隠せないスケールだったそう。

それでも“オールラウンダー”な二階堂らしくきっちり順応し、プロデューサーも務めた主演の真田が「まさしく存在感が素晴らしいです。自分の役として、髪飾りの選び方一つ、履き物の選び方一つまでこだわられていました。彼女のシーンも僕は全部付いていて、演技を見ていました。割と早く向こうの現場になじんで、後半はクルーとも友達になってやりとりしていました。そういうところも彼女の良さですね」と彼女を評している。

ここ最近はグローバルな作品への出演も続いているが、今後もどんな色にでも染まれる日本を代表する役者として自由に“翔んで”いってほしいものだ。

◆文=田中隆信

二階堂ふみ/※2024年ザテレビジョン撮影