3月9日に放送された『R-1グランプリ2024』(フジテレビ系)は、街裏ぴんくが22代王者となり幕を閉じました。




秀逸なネタバトルのなか、吉住が披露した1本目が、デモ活動を行っている女性が交際相手の実家に結婚のあいさつに訪ねるネタ内容で、大きな話題となり放送当時X(旧ツイッター)のトレンド入りしました。


構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんに、吉住をはじめとした最終決戦進出者3名や個人的に気になったファイナリストのネタを考察してもらいました。大輪さんはかつてピン芸人「大輪教授」として活動し、2007年にはR-1ファイナリストに選出。現在はお笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめています。


◆吉住「過激な活動家」ネタで賛否、二本目の方が実は問題発言
――最終決戦は街裏ぴんくさん、街裏さんに次いで芸歴が長いルシファー吉岡さん、『THE W 2020』の覇者である吉住さんの三名で争われました。吉住さんは街裏さんと一票差で、惜しくも準優勝となりました。




<吉住さんの魅力といえば、彼女の持つ「毒」だと思いますが、それを中和させる塩梅(あんばい)が絶妙になってきたように思います。『THE W』優勝した頃のような「誰もが敵だ!」みたいなトゲのある空気がなくなって、お笑いファン以外にも届きやすくなったのではないでしょうか。以前よりどんどんブラッシュアップされていると感じました。


個人的には一本目の「活動家」の最後で、結婚相手の家族に対して「もっと骨のある奴かと思った」と言ったセリフが好きですね。このキャラクターは、結論はどうでもよくて、戦うことに意義を見出してることが伝わってきて、その一貫した姿勢が良いと思いました>(大輪さん 以下山カッコ内同じ)


――ただ、一本目のネタについては、放送された途端にSNSで賛否両論を巻き起こしています。


<あれは活動家を揶揄(やゆ)しているわけではないと思うんですよ。吉住さんのネタって、「出会いの化学反応」を使ったものが多いです。一本目であれば、過激な活動家の女性が結婚の挨拶に行くということ。二本目ならば、鑑識の女性が仕事で行った先が彼氏の会社だったということ。その出会い、掛け算を見せているだけじゃないですかね>


――二本目については特に議題に挙げられていませんが、職業倫理的に絶対に言ってはいけないことを言ってましたよね(笑)。


<そうなんですよ。二本目の方が実は問題発言してる(笑)。でも彼女のネタはすべてにおいて、どんな人にも恋愛してる顔や私生活があるって想像をさせてくれるのが楽しいですよね。人間を多面的に描いているネタともいえるかもしれません>


ルシファー吉岡、最終決戦は逃げ切れず、二本目の魔物が住む?!
――ルシファー吉岡さんは、ファーストステージを一位で通過したものの、最終決勝では票を得られずに三位となりました。




<一本目のルシファーさんは、なんとなく準決勝の時よりも雰囲気が良くて、それが得点にも反映されていましたね。そのまま最終決戦まで逃げ切ると思っていたのですが……やはり二本目には魔物が住んでいる(笑)。


いや、「やらかした」とまではいかないのですが、一本目で期待値が上がりすぎてしまったのだと思います>


――とはいえ、今回で6回目の決勝進出を誇るルシファーさんの実力はダテじゃないと証明はされましたね。


<そうなんですよ。下ネタから脱却しても、これだけクオリティが保たれているどころか、むしろパワーアップしている。これが芸歴制限がかかる前にされていたら、また歴史は変わったとは思いましたけど(笑)。


ネタ分析をさせてもらうと、一人コントにおいては「ネタの中で起こる事象の被害者」の立場を演じた方が笑いをとりやすいんです。ルシファーさんの二本目は被害者のように見えて加害者。構造が少し難しかったのかもしれませんね>


◆サツマカワRPGがみせた円熟味、大会直後に結婚発表
――決勝進出メンバーの中で、大輪さんが特に気になったファイナリストがいれば教えてください。




<6位のサツマカワRPGは作品性が一つ抜けて高かったと思います。あの設定であれば、ブザーの音の種類などの大喜利を広げて笑いにする選択肢をとる芸人が多いと思いますが、あの物語の収束の向かい方には円熟味すら感じました。


実をいうと少し前に結婚の話を聞いていたので、せっかくならダブルでおめでとうと言わせて欲しいとは思っていました(笑)>




◆トンツカタンお抹茶は『M-1 2002』テツandトモに近い
――順位は関係なく、大輪さんが個人的に好きだったネタはありますか?


<トンツカタン お抹茶ですね。個人的にはとても好きでしたし、準決勝の段階でも「これは決勝いくな」と思っていました。


ただ、審査員からもありましたが「面白かったし楽しかった」という読後感はあるけれど、点数はどうつけたらいいのか?というネタだったとも思います。『M-1グランプリ2002』のテツandトモにつながる、あの感覚に近いかも知れません」>




――立川談志師匠から発された「ここはおまえらが来るところじゃない」というテツandトモ評に近いものがあった、と。


<あの才能を『R-1』という箱に入れてはいけないとすら思いました。彼がハマるメディアが何なのか、それが未だに発見されていないんですよね、きっと(笑)。彼のクリエイターとしての才能が、どうか誰かに見つかって欲しいです。鳥山明先生における鳥嶋和彦さん(※元『週刊少年ジャンプ編集者。新人だった鳥山明さんを発掘し二人三脚で並走)みたいな。


でもそういう意味では、多くの人の目に触れる機会が生まれただけでも、今大会で一番得をしたのはお抹茶である可能性もありますよね>


◆アマチュアながら4位!どくさいスイッチ企画




――唯一のアマチュアながら4位に食い込んだどくさいスイッチ企画さんについてはどう思いましたか?


<正直、これは最終決戦進出あるぞと思っていました。めちゃくちゃ面白かったです。あのネタは、内容の面白さもさることながら、演技的に取り回しがしやすい構造になっています。時間がブツ切りなので、流れに沿って感情の機微や変化を表現する必要がないんです。


もちろん時間がワープするので、その都度テンションを変えるなどのテクニックは必要になってきますが。あの台本、ピン芸人なら誰もがやってみたいネタじゃないですかね。「めざましじゃんけん」のくだりなどでは、大喜利の強さも発揮されていました>


――しかし、審査員の点数は思っていたよりは伸びていなかった。


<これはもしかしたら、生で見るのとテレビでとの違いがあるのかな、と。テレビとなるとカメラワークや音声によってプロの芸人と変わらないクオリティに見えますが、生で審査員が見た時に、立ち振る舞いやちょっとした目線、声の質の違いで、少し見劣りしてしまったのかもしれないですね。もちろん、想像の域での話ですが>


◆芸歴制限の撤廃がもたらしたものは?
――2021年より続いていた芸歴制限が撤廃されて初の開催となった今回の『R-1グランプリ』。くしくも優勝は、芸歴20年目のベテランピン芸人の頭上に輝きましたね。


<芸歴制限については、もちろんメリットもあったと思うんですよ。その間に若い芸人さんは知られるきっかけが増えたし、実力の底上げもされた。でも、やはり撤廃されることでベテランの層の厚さやレベルの高さを感じざるを得なかったですね>


――ありがとうございました。


<文/もちづき千代子>


もちづき千代子】フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama



(画像:R-1グランプリXより)