「記憶力が落ちてきた」「年を取って怒りっぽくなった」など、老化に伴う不安は尽きないもの。例えば、認知症対策として挙げられることの多い「脳トレ」ですが、実際に効果はあるのでしょうか? 本記事では、和田秀樹氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、認知症対策や起こりやすい悩みに有効な対策を解説します。

認知症対策に「脳トレ」は有効?

認知症対策として「脳トレ」を思い浮かべる人は多いかもしれません。500字程度のひらがな文のなかから「あいうえお」の表記に丸をつけていく「かな拾い」や、9×9のマス上に1から9までの数字をルールに従い埋めていく「数独」などは、高齢者施設などで実践されており、よく知られています。

しかし、「かな拾い」であれ、「数独」であれ、認知機能全般に対する効果としては、限定的だと言われています。たしかに、トレーニングを繰り返すことで点数が上がっていくことは事実ですが、別の種類の認知機能テストをやってみると、点数が上がらないことがわかっています。

つまり、与えられた課題のトレーニングにはなっても、それ以外の脳の認知機能は改善しないことは、欧米の調査研究でも実証されています。体の部位に言い換えれば、腕だけ鍛えて脚と腰は鍛えていないということです。

では、落ちてきた脳の機能を維持・向上したり、あるいは脳から若返るためには、どうするのがいいでしょう。それには「脳を全般的に使う活動」をする。具体的には仕事をしたり、他者と会話したり、という日常生活を続けることです。

たとえば家の中でするなら「料理」でしょう。献立を考えて材料をそろえ、包丁で切ったりするなどの準備を進めながら、鍋を火にかけたり、その間に電子レンジで冷凍の食材を解凍したり……。様々な作業を並行して進めるので、頭も体もフルに働かせることになります。

材料の買い出しのためにスーパーなどへ出かけて食材を買う行為も、自然と頭と体を使うことにつながります。買い物のために外に出れば、他人と会話する機会も当然増えます。

実は脳を使ううえで最も効果が高いのは「会話」です。会話は、相手の話す内容を聞き取って理解し、すぐに言葉や表情、仕草で返さなくてはなりません。喜怒哀楽の感情にも影響するので、前頭葉をしっかり働かせることにもなります。会話は、脳にとって高度な知的作業をこなすための重要な出来事です。

声を出すこと自体にも、認知症対策としての効果があるようです。趣味として詩吟(しぎん)を続けている私の患者さんには、認知症の進行が非常に遅い方がいます。カラオケや合唱も含め、声を出す活動は脳の活性化に役立つ可能性があります。

「怒りっぽくなった」は老化のサイン

近頃「怒り」の感情が強くなってきたと自覚したら、前頭葉の老化が原因の可能性があるので注意が必要です。もともと怒りっぽい性格など、個性の範疇に括られる場合だけでなく、意欲や感情を司る脳の前頭葉が老化により萎縮することも、「怒りっぽくなる」原因と考えられるからです。

まだ会社員など現役で働いている場合は、一時の怒りによる失敗が命取りになることもあるのでさらに注意すべきでしょう。定年後だとしても、怒りに任せて相手に謝罪を強要したり、手でも出してしまったら取り返しのつかない結果になる恐れもあります。

昔と違い、防犯カメラが街中や車中などに設置され、手元のスマートフォンで録画や録音が簡単にできる現代では、「怒りの感情を爆発させたほうが負け」かもしれません。

大きな個人差はあるとは言え、誰もが歳を重ねれば前頭葉の機能が落ちてきて、湧いてきた怒りを制御する機能が弱まることを知っておくべきだと思います。

そのうえで、もし自分が「カッとしやすい」と感じるなら、「アンガーマネジメント」に取り組んでみるのも一つの手かもしれません。

「怒り」の感情を上手にコントロールする手段の一つとして知られるようになりましたが、これは「怒らない」ための対策ではなく、自分の「怒り」の内容にきちんと向き合い、その表し方をコントロールして、他者とうまくコミュニケーションをとるために行われるものです。

ただ私自身は、前頭葉の老化によって無感動・無表情になっていくことよりも、カッとなった時に素直に怒りの感情が表せる方のほうが、老人性うつや認知症予防の観点からはいいと思いますし、人間的にも魅力的な方が多い印象があります。

和田 秀樹

精神科医

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)