ダッソーが製造している戦闘機ラファール」の需要に応えられない可能性が報じられました。原因は工場のトラブルなどではなく、注文の殺到でした。

人気過ぎて生産が間に合いません!

2024年3月5日フランスの航空宇宙・防衛企業であるダッソー・アビエーションが戦闘機ラファール」の需要に応えられない可能性があるとアメリカのニュースサイト「ビジネスインサイダー」が報じました。

これは、ダッソーの製造工場の機材にトラブルが発生したというわけではなく、単に、購入国からの注文が殺到したことが影響しています。

ダッソーは注文を受けてから3年以内に「ラファール」を納品することを、これまでセールスポイントにしていました。しかしビジネスインサイダーの報道によると、ダッソーには261機の注文があり、これを守れない可能性があるとのことです。同紙によると、ダッソーの「ラファール」年間生産量は15機前後で、需要を満たすため生産力の向上を図ろうとしています。

なお、ダッソー3月11日に増産体制を整備したことを発表。これにより月産1機から3機まで生産能力は向上するようです。

2024年現在、「ラファール」はフランスエジプトギリシャインドカタールクロアチアアラブ首長国連邦UAE)、インドネシアの8か国で採用されており、フランスインドネシアUAEエジプトが現状で追加の発注を行っています。

同機は2000年12月の運用開始から20年以上経過していますが、2015年頃から徐々に需要を増加させ、2023年には、アメリカのロッキード・マーチン製であるF-35を除く全ての競合機を上回る発注数を記録しています。

また、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は2024年3月11日、2019年から2023年までの世界の武器輸出・輸入量に関する調査結果では、ロシアを抜いて調査開始以来初めての武器輸出量ランキングでアメリカに次ぐ世界2位となっていますが、この躍進に関しても同機の販売の好調が強く影響しています。

アメリカの審査の厳しさとロシアへの経済制裁が追い風に

ここまでの需要増の背景としては、アメリカ製の最新鋭機を購入するハードルが上がったことと、ロシアが2014年3月にクリミア併合を行った影響があります。

アメリカが現在、売り込みをしているF-35は、ステルス機能を有する第5世代機ということで、機密保持のため購入先はアメリカの友好国であることが前提です。たとえ同盟国であっても、ロシア製の防空システムを使っているトルコなどは拒否されており、購入の基準はかなり厳しいものになっています。

そのため、西側諸国と同盟関係のない第三国では、スホーイなどロシア製の戦闘機が最良の選択肢でした。しかし、エジプトSu-35の購入に動いていたものの、ロシアクリミア併合後、これを破棄し2015年2月に「ラファール」を24機購入する案に変更。インドネシアに関しても当初、次期戦闘機としてSu-35を11機購入する意向を示していましたが、2022年2月に「ラファール」購入に変更しました。

これらは、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした、西側諸国の防空システムとの互換性重視してのこととされていますが、クリミア併合以降に行われれている西側諸国の経済制裁により、ロシアから機体や部品などが滞ることを懸念しての決断だったともいわれます。

ロシア戦闘機の部品や機体の納入の滞りは、2022年2月に始まったウクライナ侵攻によりさらに問題となっており、かつてロシアと同じくソビエト連邦を構成していたカザフスタンウズベキスタン旧ソ連系機体の代替機の選択肢としてフランス政府が「ラファール」を提案するまでになりました。

ただ今回、増産を発表したものの“3年以内に機体納入”のルールが崩れかけている点と、強力なライバルであるロッキード・マーチンが製造するF-16の最新モデル、ブロック70の生産が本格化したということで、この人気は一時的である可能性もない訳ではありません。

駐機された「ラファール」(画像:フランス航空宇宙軍)。