2024年初から運用が始まった新NISA。非課税限度額が拡大したことにより、課税されずに投資ができると、前向きな姿勢を見せる人も少なくありませんが、始める際に注意しなければならないケースもあって……。本記事ではAさんの事例とともに、新NISAにおける税務上の注意点について、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。

マイホーム購入時、銀行からNISAの申込を勧められ…

年収1,000万円の40代のAさん夫婦は、近々マイホームを購入予定です。住宅ローンを申し込んだ銀行から、NISAを申し込むか、クレジットカードを申し込むと住宅ローンの金利が少し優遇されるというキャンペーンのお話を受けました。

これまでマイホームのために夫婦で節約を頑張って貯金をしてきましたが、次は投資のために頑張っていこうと、2人は早速NISAを申し込むことで優遇金利を受けられるという契約を進めることとしました。

2024年から始まった新NISAのことを考えると、本当にいいタイミングだったとAさん夫婦は思いました。

新NISAと旧NISAの違い

それから、Aさん夫婦はNISAについて確認をしてみることにしました。

これまでのNISAは積立NISAか一般NISAのどちらかしか選べませんでした。非課税保有限度額も積立NISAは800万円、一般NISAは600万円だったものが、つみたて投資枠は120万円に、成長投資枠は240万円と拡大し、さらに、これらは併用できるということがわかりました。非課税保有限度額は1,800万円になります。

投資枠が大幅に拡大しているので、夫婦で最大限メリットが受けられるようにそれぞれで申し込むことにしました。たとえば夫婦2人で最大の投資枠を使ったとしたら年間360万円の2人分で720万円です。この枠はとても大きいと考えました。

「夫婦2人で同じように投資をして運用益が出たら、単純に2倍になるということか……」Aさん夫婦はかなり乗り気になりました。

Aさんの家族構成

Aさんは40代の会社員でAさんの妻は専業主婦。Aさん夫婦には、幼稚園と小学生の子供が2人います。まだまだ子供が小さく、現状、そこまで大きな教育費はかかっていませんので、できる限り投資に回そうということで意見が一致し、申し込むことに。

しかし、Aさん夫婦は大きな間違いを犯していました……。

妻が専業主婦の場合は要注意

Aさんの妻は専業主婦ですので、NISAの投資資金はAさんが支払うことになります。そうすると、もし、このつみたて投資枠と成長投資枠の両方を使って投資するとなると、360万円となり、Aさんから渡す妻への資金は贈与となってしまいます。

せっかく、NISAの非課税のメリットを享受しようとしても、その前の段階で税金がかかってしまうということです。

最大の投資枠を使った場合…

たとえば、最大の360万円をAさんから妻に渡した場合、27万5,000円の贈与税がかかります。

夫が専業主婦の妻のお金を渡して、妻の口座で投資をするとその時点で贈与が発生したことになるためです。

こちらは贈与税の非課税の限度枠を超えた部分に対してかかる贈与税になります。この非課税の限度額は110万円なので、この金額を超えた資金を渡すと贈与税がかかってしまうということになります。

そうすると、月額10万円であっても年間120万円となってしまうので、贈与税の非課税の限度枠内にするとしたら月額9万円くらいまでが目安となります。

『配偶者にまとめて渡す』『配偶者から渡されたお金を貯めておく』はNG

しかし、ご夫婦のなかには「専業主婦の妻にそれ以上のお金を毎月渡しているけど?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

それは、生活費や教育資金などのお金なので、贈与税の対象外ということになります。

しかし、その生活費や教育資金の余ったお金でへそくりをしたり、投資をしたら、そのお金については、贈与税の対象となってしまいます。

そのため、たとえ生活費や教育資金であったとしても、『まとめて渡す』ということはしないようにしましょう。基本的には毎月一定額を渡すといった形が望ましいです。まとめて渡して、そのまま使わないで残っていたり、投資や貯金に回していたりしたとすると、それは贈与税の対象になるということになります。  

しかし、なかには「妻の預金で、ましてやへそくりなどが税務署にバレることがあるのだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。

税務署にバレる理由

どんなタイミングでバレてしまうかというと、よくあるケースが相続のタイミングです。相続税の税務調査のときには、被相続人だけでなく、相続人の通帳もチェックすることになりますし、過去の被相続人の通帳の動きも確認することになります。税務署は過去の口座を把握することができるからです。

税務署は専用のシステムによって、過去10年間分の収入や通帳等の財産を把握することができます。このシステムは国税総合管理システム(KSK)といわれています。

国税庁や税務署では、これにより納税者情報を管理しており、そこには給与や確定申告のデータが登録されているため、そこに記録されている所得状況と預金の状況を照らし合わせて調査をします。

これらと照らし合わせて、預金の使い道を調査していくのです。これまでの蓄積された過去データがあるため、膨大なデータをもとに照らし合わせることでバレないと思っていることも預金の出入りなども高確率でバレてしまうということになります。

夫婦間で、日常的にお金のやり取りをしていると、気づかないうちに、贈与が発生してしまっていたということがあります。

新NISAで非課税だったはずなのに、知らないうちに脱税になってしまっていたとなってしまっては残念です。知らないでは済まされないのでくれぐれも注意して進めましょう。  

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)