あなたは「生活保護」と聞いてどんなイメージをもちますか? 日本はここ数十年間、65歳以上のシニア層における、生活保護受給者の増加がつづいています。65歳といえば年金の受け取りが始まる年齢です(原則)。なかには、現役時代に年収が1,000万円以上あり、年金を平均額以上に受給しているにもかかわらず、生活保護を受給するケースがあります。このような事態はなぜ起こるのでしょうか? シミュレーション例をもとに解説します。

増えつづけるシニア層の生活保護受給者

日本における生活保護受給者の数は、最新のデータで約202万人です。(令和5年12月分概数)。令和4年(3月速報値)の受給者は約204万、令和2年205万人と、平成27年ピークに受給者全体の数は減少傾向がつづいています。対前年同月と比べたとき、3,584人、0.2%減少しています。

一方で、 年齢階級別に受給者数の推移をみると、65歳以上のシニア受給者は増加傾向にあります。下記の図表1をご覧ください。

65歳以上の受給者の割合が約52%(約105.5万人)と、過半数を占めています。(令和2年速報値)以降、

50~59歳が約27万人で、13.5% 40~49歳が19.4万人で9.6% 30~39歳が9.6万人で4.7% 20~29歳が5.4万人で2.6% 19歳以下が約19.5万人で9.6%

とつづきます。

19歳以下を除いて、押し並べて年齢の上昇とともに受給者数が増加していくのが分かります

生活保護受給者における高齢者の割合が高いワケ

高齢者の保護率が高い要因として、全体人口の少子高齢化や、単身世帯の増加が挙げられます。65歳以上のシニア保護世帯における単身世帯の割合は92.3%にのぼります。(令和4年3月時点)

単身世帯は、2人以上で構成される一般世帯と比べて家賃、光熱費、食費などの生活費を1人当たりに換算した場合、支出が高くなる傾向があります。にもかかわらず、世帯収入は一般世帯と比べて低い傾向にあります。

特に、保護率の上昇幅が大きい単身男性は、年金受給が始まる前の40歳代から60歳前半に生活保護を受給しているケースは少なくありません。こうした場合の受給のきっかけは主に疾病、障がい、離婚、失職などです。

では、疾病や障がいがなく現役時代の収入が1,000万円以上あり、潤沢な退職金を手に定年退職を迎えた、配偶者と暮らす元エリート会社員が老後破産に陥るケースはなぜ生まれるのでしょうか。シミュレーション例をもとに見ていきましょう。

元エリート会社員の例~老後の家計収支シミュレーション~

現代のシニア夫婦世帯にもっとも多いのが、元会社員と専業主婦(夫)という組み合わせです。一般的に元会社員の配偶者は国民年金厚生年金、専業主婦(夫)の配偶者は国民年金に加入します。

元会社員の配偶者が年収1,000万円で年金保険料を全期間納付し、65歳から受給開始した場合、年金受給額は以下のとおりです。

国民年金 (老齢基礎年金)   月額6万8,000円 (令和6年度、満額、昭和 31年4月2日以降生まれの場合)

厚生年金 (老齢厚生年金)   月額16万3,878円

※ 平均標準報酬月額・平均標準報酬額を65万円とする ※ 保険料納付期間は40年とし、総報酬制の導入前・後で計算式が変わることから、2003年3月以前を240ヵ月、2003年4月以降を240ヵ月とする

令和5年9月時点の年金額とする

(出典:日本年金機構

(注釈:各々最新の政府調査・政府公開データを組み合わせて試算しているため、実際にモデルケースの方は存在し得ません。あくまで概算としてご参考ください)

夫婦2人ともに国民年金を満額もらう場合、月の世帯年金収入は

国民年金 6万8,000円 × 2人分 + 厚生年金 16万3,878円 = 29万9878円

約30万円です。

年金収入は所得税社会保険料等が天引きされます。年金が約30万円の場合、天引き額はだいたい5万円程度です。ここでは手取り額を約25万円とします。

生命保険文化センターの調査によると、令和4年65歳以上の老後生活での最低日常生活費は1ヵ月あたり約23万2,000円、夫婦2人におけるゆとりある老後の生活費は1ヵ月あたり月約37万9,000円です。

現役時代と同じく、ゆとりある生活をつづけると……

現役時代に年収1,000万円をもとに豊かな生活を送っていたファミリーは、当然ゆとりのある生活に慣れ親しんでいます。現役時代と同じ生活水準で生活をつづけるとすると、

年金手取り額 月約25万円 - ゆとりある老後の生活費 月約37万9,000円

 = 月約-12万9,000円

月々の年金で賄うことのできない支出を貯蓄で賄う場合

月々の年金で賄うことのできない支出が約12万9,000円生まれます。投資などによる不労所得がなく、これを貯蓄で賄おうとした場合、

月 約12万9,000円 × 12ヵ月 = 年間 約154万8,000円

です。

もし95歳まで生きると仮定すると、65歳以降のシニア生活は30年なので

年間 約154万8,000円 × 30年間 = 約4,644万円

必要です。

ですが老後の出費は月々の生活費だけではありません。シニアライフにはさまざまなまとまった出費が待ち受けています。たとえばマイホームを所有している場合、住宅ローンの返済や、固定資産税、修繕費等があります。その他、親や自分たちの医療費・介護費、親の葬儀代やお墓の維持費、子どもや孫へのお祝い金など――枚挙に暇がありません。

人生100年時代ーーしっかり備えよう

長年ゆとりのある生活をしてきた人のなかには、家計の収支を細かく把握する習慣がなく、定年退職後も現役時代と同じ消費行動をつづけることに抵抗をもたない場合があります。ですが不労所得がない場合、ゆとりのある生活をつづけると月々の生活費だけで貯金がみるみるうちに減少していくことになります。

また、資産運用にもリスクはつきものです。リスクを十分に鑑みずシミュレーションが甘い場合、かつて高収入だった人でも、あれよあれよといううちに悲鳴をあげながら老後破産に陥る可能性があります。大金を一気に失う大きなトラブルーーたとえば詐欺被害やギャンブルによる大損などに見舞われていないにもかかわらずです。

人生100年時代ーー本来喜ばしいはずの長寿が命とりにならないよう、しっかり備えましょう。

参考:生活保護制度の現状について|厚生労働省

   高齢者に対する支援のあり方について|厚生労働省

   生活保護の被保護者調査(令和5年12月分概数)の結果|厚生労働省

   生活保障に関する調査(令和4年度)|生命保険文化センター

THE GOLO ONLINE 編集部

(※写真はイメージです/PIXTA)