日経平均株価が40,000円の大台をつけるなど、株式投資が盛り上がりをみせるなか、実は密かに注目されているのが「デジタル証券」という資産。昨年末、待望の流通市場が開設されました。取引価格はどうなるのか、どういった取引形態なのか、また、市場の存在意義はどこにあるのか……Hash DasH株式会社取締役の三好美佐子氏が、期待されるデジタル証券の特徴と今後の展開について解説します。

デジタル証券の総資産は2,500億円に迫る勢い

日本のデジタル証券市場は急激に成長しています。引き続き、不動産デジタル証券が主流ではありますが、大手対面型証券会社のほか商社系企業のオンライン販売も活性化してきているようです。[図表1]をご覧いただくとわかるように、成長に加速がついてきており、現在は総資産ベースで2,500億円に迫る勢いです。

期待される 「安定利回り」+「値上がり」 

不動産デジタル証券の魅力には、そもそもの投資対象である「不動産」の特性があります。不動産投資商品は家賃が原資となることから、分配利回りをあらかじめ見込むことができるのです。その点が、仕組債の販売が下火になった証券会社にとっては、それに代わって安定志向の顧客のニーズを満たすものとして、マッチしていると考えられています。

また、最近の傾向をみると、アウトレットモールやホテル、旅館など、コロナ禍では自粛せざるをえなかったところ、現在その反動で人が多く集まっているような「卒コロナ」テーマの物件が立て続けに発行されています。

このように、テーマ性をもって値上がり期待も見込めることも、証券会社の販売しやすさにつながっているのかもしれません。

投資家の視点から見ても、このような家賃収入を源とするインカム収入にテーマ性の値上がり期待をも兼ね備えた商品は、小口化された扱いやすさとともに歓迎されているのでしょう。

デジタル証券の流通市場「START」が開設

そして、さらにもう1歩、デジタル証券は進化を見せています。それが、待望の「流動性向上」となる、二次流通市場たる取引所の開設です。

2023年12月25日、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)はデジタル証券向けの取引所「START」を開設しました。

注文方法は、株式市場と同様に、値段を指定しない「成行(なりゆき)」と値段を指定する「指値(さしね)」の2つがあります。

また、高い買値・低い売値を優先する「価格優先」の原則と、同じ価格であれば時間の早いほうが優先される「時間優先」の原則をもって、オークション形式を採用した点も株式市場と同じです。反対に、株式市場との違いは、主に次の2点が挙げられます。

1.値段がついて約定するのが1日に2回(11時30分と15時00分に注文を付け合わせ、板寄せ)。注文の受付は「午前10時~11時29分(セッション1)」「午後0時~2時59分(セッション2)。

2.値幅は、原則として前日の終値から±5%の範囲。

株式のように“時々刻々”のトレードではなく、また、値幅制限も株式市場の一般的な範囲である15%~30%に比べるとかなり狭く設定された点で、比較的安定的な推移が想定されています。

不動産投資を指向する投資家にとっては、「不動産物件と無関係な事情による価格変動」がREITの短所と捉えられていますが、「START」の値幅は±5%ですから、ほどよい値幅感といえるのではないでしょうか。

まだ緒に就いたばかりのこの市場は、2024年2月末日現在で、取引参加者は4社のみ(大手証券会社2社、システム会社、信託銀行がサポーターとして各1社)。取引銘柄は、「ケネディクス・リアルティ・トークン ドーミーイン神戸元町」「いちごレジデンストークン 芝公園・東新宿・都立大学・門前仲町・高井戸・新小岩」の2銘柄となっています。

不動産取引でも“スピーディ”かつ“簡単”に売買可能

現在、多くのデジタル証券が一応の流動性はあるものとして、「売りたい投資家から証券会社がいったん買い取り、買いたい投資家に転売する形」をとっています。

なかなか冗長なやり方ではありますが、好利回りと安定した価格推移が持ち味の不動産デジタル証券は、もとより「なるべく長く持つつもり」で購入した投資家が多いはずで、実際のところ当社でも売却を希望されるお客様はなく、業界でもほとんど聞かれてはいません。

とはいえ、常に売りを出せる市場が存在する安心感は大切です。さらに、どれくらいの値段で売れるのか、いま買いたい人がいるのか否かが一目でわかる取引所の板情報等は、換金ニーズが発生した投資家にとっては頼れるインフラとなるでしょう。不動産投資の一番のウィークポイントである「簡単に売れない」プレッシャーを軽減するものといえます。

売却時に書類のやり取りや面倒な手続きがなく、換金までわずか2営業日といった点も、不動産投資として考えると“革命的”です。 

また、数少ない売却事例ではありますが、証券会社が買い取ったデジタル証券を転売するにあたり、すぐに買い手が見つかったと聞いています。

現在の低金利下において、相対的に好利回りの不動産投資商品はたしかに魅力的な投資対象でありますが、いざ買おうと思うと、どこかの証券会社で募集が始まることを待つことになります。

一方で、二次流通市場で「たまたま売りが出ていれば気軽に入手できる」という環境は、不動産商品を資産づくりの手段として積極的に使っていこうと考えた場合、非常に魅力的です。

特に注目したいのは、「適時開示」の存在です。適時開示とは、投資判断に重要な影響をおよぼすなにかが起きたときに、発行者に対してタイムリーな情報提供が義務づけられる制度で、デジタル証券でもこの適時開示が義務づけられています。

ネット上で発行者のウェブサイトや株式市場の「TDnet」に相当する適時提供情報閲覧ページ「START-NET」にアクセスすれば、誰もがどこにいてもその情報が見られます。この点も、いままでの不動産投資には成しえなかったことです。

このように、より透明度の高い環境で、より便利に、より安心して投資できるインフラが整いつつあります。デジタル証券がこれから、より多くの投資家に普及していくものと期待されます。

誰もが知る「超有名不動産」への投資も夢ではない

デジタル証券向けの取引所「START」では、1日の制限値幅が±5%と定められました。株式市場よりも小さいとはいえ、3日連続でストップ高となれば+15%でもあります。これは、原則として安定した運用資産でありながら、強い需給があれば、それなりに儲けられることを意味しています。

現在、デジタル証券では、「鑑定評価額と同等または低い値段で仕入れることができた物件で、分配金水準が3%以上の商品」がスタンダードなものとして発行されています。

しかし、今後は需給での値上がりも期待できるとなれば、分配金水準が仮に1%以下であったとしても、取引市場での値上がり期待が持てるのであれば、十分に魅力的といえる商品が考えられます。

高い利回り水準や発行時の物件価格を気にしない商品開発ができれば、麻布台ヒルズ、あべのハルカススカイツリーリッツカールトンなど、誰もが知っている超有名不動産に、個人が投資することも夢ではありません。

また、STARTのマッチングシステムは、「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」のクラウドサービスを利用しています。決済は証券会社間の相対で行われ、売買契約締結日の2営業日後と、まだまだアナログ感、インフラ構築途上感が残ってもいます。

今後、ブロックチェーンとの連携が実現していくとすれば、ステーブルコインなども活用して、約定と同時に決済されたり、もっともっと効率的な取引プラットフォームとなるかもしれません。

どんどん進化するデジタル証券から、目が離せません。

三好 美佐子

Hash DasH株式会社

取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)