近年、「発達障害」に関する情報が多く取り上げられるようになってきて、以前にくらべれば当事者やその家族が感じるつらさに理解が寄せられやすくなってきています。


 佐藤綾子さん(仮名・38歳)の夫・拓郎さん(仮名・40歳)も発達障害。綾子さんは夫の特性を理解した上で結婚しましたが、息子が生まれたことを機に夫婦関係が上手くいかなくなってしまいました。


◆どこか空気が読めない年上男性とマッチング婚



※写真はイメージです(以下、同じ)



 綾子さんが拓郎さんと出会ったのは、某大手マッチングアプリ。7年前、女子会の席で友達とアプリを見ながら盛り上がり、ノリで連絡をした相手が拓郎さんでした。


「アプリを開いたとき、たまたまオススメに出てきたんです。年収800万円ほどとまずまずの条件だし、顔もそんなに悪くないから、いいね押してみなよって友達に言われて、いいねくらいならいいかと思って」


 拓郎さんから返信が来たのは、女子会後。友達との酒のツマミにならなかったなと残念に思いつつも、誠実さが感じられる文面に好感を持ち、綾子さんは連絡を取ることにしました。


「初めて会ったとき、この人ちょっと変わってるなと思いました。空気が読めないというか終始マイペースで、物言いがすごくストレート。嘘がない人なんだなと、私は好感を持ちました」


◆「発達障害」のカミングアウトを受け入れて結婚



 交際をスタートさせてからは拓郎さんのストレートな物言いに傷つき、喧嘩をしたことも何度かありましたが「俺、実は発達障害で相手の気持ちがよく分からない」とのカミングアウトを聞いてからは、特性なのだと受け入れるようになったそう。


「生まれ持ったものは彼のせいではないので、責めたくありませんでした。私が理解すればいいんだと思って、いろんな本を読み、上手く付き合うコツを勉強しました」


 そうした努力のおかげもあってか、2人はめでたく結婚。結婚生活は比較的、上手くいっているように思えました。


 しかし、子どもが生まれると夫婦仲に変化が。型にはまったルールが通用しない子育ては拓郎さんにとって理解できないことの連続だったようで、綾子さんにばかり負担がのしかかるようになったのです。


「例えば、子どもが泣いていても『この時間には○○をする』というルーティーンがなかなか崩せなくて。柔軟に対応してほしいけれど、空気が読めない夫にはそれが難しいことも分かるから、どうすればいいのだろうと悩むようになりました」


 次第に夫婦仲は冷めていき、拓郎さんは育児から遠ざかるように。息子と関わるのは、何か悪いことをして叱るときだけでした。


「だから、息子はパパ嫌いの子になってしまいました。私が仕事に行かなければならなくて、家で夫と2人になる時には『ママ行かないで』と泣かれて心が痛かったです」


◆宿題に悩む息子に「バカじゃん」との暴言を吐く夫



 拓郎さんは、ストレートな物言いを我が子にも連発。


 例えば、綾子さんが「息子の宿題を見てやって」とお願いすると、答えが分からずに悩む我が子に向かって「こんな問題も分からないの? バカじゃん」とひどい言葉を口にするのだとか。


「一緒にお風呂に入っていた時、息子が会話の中で突然『僕はバカだから』と言い始めたので、どうしてそう思うのかと尋ねたところ、一連の流れが発覚したんです。私はすぐ、夫に注意をしました」


 しかし、拓郎さんは「だって、学校で習ったことが宿題として出てるんでしょ? 分からないはずないじゃん」と反発。


 我が子に「ごめん」と謝りもしませんでした。どんどんいびつになっていく親子関係に危機感を覚えた綾子さんは今、離婚も視野に入れつつ、拓郎さんに子どもへの寄り添い方を教えています。


◆専門家の力を借りながら一緒に生きていく
「夫は、『絶対こうでなければいけない!』というこだわりの強い特性を持っていて、自分の意見を息子に押し付けてしまいやすい。それでは息子は生きづらいと説明していますが、理解をするのはなかなか難しいようです」


 発達障害の特性やその度合いは個人差があり、家族だけでフォローをしようとすると難しい場合もあります。綾子さんにはひとりで頑張らず、専門家の力を借りながら親子関係・夫婦関係の再構築を目指してほしいものです。


<取材・文/古川諭香>


【古川諭香】愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291