フジテレビが開局65周年を記念して、新旧ドラマ40超のタイトルを無料動画配信サービスTVer」とフジテレビのビデオ・オン・デマンド「FOD」で順次、無料配信しています。なかでも2002年7月の“月9”枠で放送された『ランチの女王』は、X(旧ツイッター)でトレンド入り。ドラマ好きのアラフォー筆者も、配信日を心待ちにしていました。



『たびぼん 竹内結子タヒチ旅日誌』(SDP



そうして過去のドラマを振り返る中で、ある女優の存在感に改めて圧倒されました。


2000年代の絶対的ヒロイン・竹内結子
配信開始当日に、まず『ランチの女王』を一気見! 竹内結子を中心に、堤真一江口洋介妻夫木聡山下智久山田孝之、森田剛……と主演級の俳優たちの群像劇を堪能しました。なかでも、筆者が何より惹きつけられたのは竹内結子の“ヒロイン力”。美味しそうにオムライスをほおばる姿は、20年以上たっても変わらぬ輝きを放っていました。彼女の演技がもっと観たくなって、こちらも初配信となった『ムコ殿』(2001年)も視聴。改めて、竹内結子の“ヒロイン力”に圧倒されました。



YUICHIRO SAKURABA in ムコ殿(2)』[VHS](ユニバーサルJ)



2000年代、彼女は主演だけでなく、実に数多くの映画・ドラマでヒロインを務めています。どの作品も主演俳優の魅力を引き立たせつつ、共感しやすいヒロインを演じてきました。


【映画】
黄泉がえり』(2003年)
『春の雪』(2005年)
ミッドナイトイーグル』(2007年)
『なくもんか』(2009年)
ゴールデンスランバー』(2010年)


【ドラマ】
『スタイル!』(2000年)
『白い影』(2001年)
ムコ殿』(2001年)
『ガッコの先生』(2001年)
プライド』(2004年)
『新ニューヨーク恋物語』(2004年)
『薔薇のない花屋』(2008
『夏の恋は虹色に輝く』(2010年)


今回初配信となった『ランチの女王』『ムコ殿』を再視聴して、改めて感じた竹内結子の“ヒロイン力”を分析します。


◆絶対的な地位を築いた“泣き”の演技
まず特筆したいのは、彼女の“泣き”の演技です。映画『黄泉がえり』公開の際には、「泣きたい夜には、竹内結子」のキャッチコピーがつけられたほど、“泣き”には定評があります。単に上手いということではなく、彼女の“泣き”は実にバリエーション豊か。切ないのか、嬉しいのか、悔しいのか、悲しいのか……はたまた哀しいのか。また、その度合いによっても“泣き”の表現は全く違います。



黄泉がえり』[VHS](東宝)



トップスターの桜庭裕一郎(長瀬智也)と極秘結婚するヒロイン・新井さくら役を演じた『ムコ殿』でも、様々な“泣き”を披露しました。家族からの心ない振る舞いには、悔しさからくる怒りを爆発させる激しい“泣き”。裕一郎との関係を秘密に続けることへの淋しさと切なさを募らせ涙が溢れてしまった切ない“泣き”。ふたりの関係が世間に知れ渡り、傷つく家族と裕一郎を想って「別れ」の決意を伝える静かな“泣き”など、ひとつとして同じ“泣き”はありません。シーン毎にヒロインの感情を豊かに体現しており、観る者の心に訴えかける“泣き”は、彼女の真骨頂といえるでしょう。


そもそも彼女の“泣き”が注目されたのは『ムコ殿』の前クールでヒロインを務めた、中居正広主演の『白い影』。恋人を亡くすヒロインとして“泣き”が話題を集めました。悲恋の物語『白い影』の“泣き”から、あたたかなホームドラマ『ムコ殿』での“泣き”。この全く違うドラマ両方で圧巻の“泣き”により、ヒロインの地位を確立したといっても過言ではないでしょう。


◆か弱くない!“強さ”を秘めたヒロイン像に共感
しかし竹内結子のヒロイン像に惹かれるのは、“泣き”だけではありません。か弱くて、男性の後ろをついてくるような男性的ご都合主義のヒロインとは性質が全く違うことも大きいのではないでしょうか。どんな役にも、女性らしい“強さ”を感じるのです。『ムコ殿』や『プライド』で演じた、男性を献身的に支えるようなヒロインであってもその“強さ”は変わりません。“強さ”の原動は、恋人や家族への愛だったり、自分の信念だったり、はたまた使命だったり作品によって違います。



プライド 1』[VHS](ビクターエンタテインメント



ランチの女王』の主人公・麦田なつみは、天涯孤独ながら、明るく元気なヒロインでした。しかし、信じていた元カレ・修史(森田剛)に裏切られたり、幼い頃に父親が蒸発したり、心に傷を抱えた女性です。ツラかったとき、ランチに支えられた経験から、レストランでずっと変わらず美味しいものが提供されることの尊さを知っています。そんなレストランの真髄を守りたい、そこで働く人たちとずっと一緒にいたい。過去に邪魔されようと、多くの葛藤を抱えようと、自分の生きる道を全うしようとする“強さ”が光っていました。


2000年代、竹内結子が女性の共感を集めた理由
彼女チャーミングな瞳に宿る“強さ”に惹かれたのは、男性だけでなく女性も多かったはず。2000年代は、女性が社会に出て働くことが当たり前となりつつあった時代。女性がより自由に生き方を選択できるようになり、「仕事も恋も全部手に入れる!」そんな気運が高まっていたように思います。だからこそ“強さ”をもって、生き様を貫こうとする竹内結子の姿に、多くの共感が集まったのではないでしょうか。


“泣き”という武器を自在に扱う高い表現力で、人が生きる美しい“強さ”を役に宿すことでヒロイン像を創り上げる。それこそが、竹内結子の才能でもあり、魅力でもあり、彼女が積み上げてきた努力の結晶でもある“ヒロイン力”だと言えそうです。


◆唯一無二の存在である女優・竹内結子
そんな圧倒的な“ヒロイン力”を放ちながら、2010年代に入ると『ストロベリーナイト』での心の傷と葛藤しながらも強くて美しい刑事・姫川玲子役や、『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(こちらもTVerにて配信中)での、しなやかで逞しい敏腕弁護士・氷見江役など。王道ヒロインだけではない新境地を次々と切り拓き、私たちを魅了し続けてくれました。



ストロベリーナイト DVDスタンダード・エディション』(ポニーキャニオン



唯一無二の存在である女優・竹内結子。亡くなってしまった今も変わらず、彼女は私たちの“心のヒロイン”であり、これからも色あせることはないでしょう。


<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>


【鈴木まことtricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201



『たびぼん 竹内結子タヒチ旅日誌』(SDP)