昨秋公開の大ヒット映画『沈黙の艦隊』に劇場未公開シーンをふんだんに加え、その後東京湾で起こる海戦までを描いた完全版ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』がPrime Videoで現在全8話配信中。本作に、俳優の上戸彩がニュースキャスター・市谷裕美役で出演している。良きママのイメージの彼女だが、本作では原子力潜水艦をめぐる政府の情報隠蔽を疑い、真実を突き止めようと単身、権力に立ち向かっていく役どころを果敢に演じている。

一方、現実世界は今なお続くロシアウクライナ侵攻に加え、イスラエルパレスチナの衝突、止まらない物価高や裏金問題など相変わらず先が見えない。昨年、第3子が生まれ、仕事と家庭のバランスを取りながら充実した日々を過ごす彼女にとっても「他人事ではいられない」と語る。

◆出来事の裏にあるものを訴える強さが必要

――今回演じられた役ですが、役作りにおいてはどう取り組まれましたか?

私が演じた市谷は報道キャスターなので、自分が普段見ている報道番組のキャスターの方をイメージしながら、もちろん滑舌もですが、カメラの奥にしっかりと訴える“強さ”を意識して演じました。でも、改めて自分の演技を見返してみると、思っていたよりも強さが足りてない気がしてしまい、伝えることの難しさを感じました。

――特にフェイクニュースなどがあふれる今の時代は「信じること」が非常に難しいと思います。

そうですね。それでも真実を追いかける彼女の強さというか、ジャーナリストとしてのプロフェッショナルな姿勢はすごくかっこいいと思いました。

今、テレビの世界も歴史がいろいろ動きつつあると思います。撮影を終えた後のタイミングで、さまざまな報道番組で「真実を伝えるべきでした」と謝罪するキャスターの方々の姿に、私の中で市谷が重なりました。

ただ単に原稿を読むのではなく「真実」を追い求めるのがジャーナリストの仕事だと思うので、出来事の裏にあるものを訴える強さが必要だと感じました。

――上戸さんはさまざまな情報をどう受け止めていますか?

私は今、テレビを見る時間がほとんどないので、どちらかというと子どもたちが寝た後にスマホでニュースを読んで、いろいろな出来事を知ることが多いです。

芸能ニュースは自分が知っている世界だけに「文字だけを信じてはいけない」と思っています。でも、自分の知らない世界は知らないことが多すぎて、ついつい記事のコメントまで読み込んでしまいます。違う角度の読み取り方ができるので、法律関係などは特に勉強になります。

――たとえば?

子どもに関する記事は目に留まります。あとは今だと戦争について。関連記事やリンクをどんどん追っていくと眠れなくなってしまうこともあります。

――今、戦争という言葉が出ましたが、不穏な今の時代、一人の母親として「平和」に思いを馳せることはありますか。

もちろんです。でも、それは親にそうやって育てられたことが大きいかもしれません。
俳優のお仕事をしていくなかで自分にできることは何か考えたとき、「誰かのため、何かのためにできることがあればやりたい」と思うようになりました。

――お子さんともそういった話をすることは?

子どもたちもテレビで戦争のニュースを見ると「なんでこんなことするんだろう?」と素直に聞いてきます。そういうときは、どっちがいい悪いではなく「こっちにはこっちの主張があって……」と丁寧に説明するようにしています。

――答えの出しにくい問題ですが、避けるのではなく、まずは話すことが大事ですよね。

そうですね。ただ、人それぞれの考えがありますが、言っていいことと悪いことはあると思います。口に出してしまうことで、言葉が言葉を生み、良くない感情を生んでしまうことはあるので。育児に限らず、人と人との付き合いのなかで自分が気をつけています。目の前の幸せ、相手の幸せを願うことが大きな幸せにつながるといいと思います。

◆3人目が生まれて、父が大活躍しています

――ちなみに、上戸さんのご家庭は平和ですか?

どういうことですか(笑)!?

――すみません。お子さんの間で争いごとなどはありませんか? という意味です。

そういえば、4歳の弟が8歳のお姉ちゃんを最近、挑発というか逆撫でするようになってきました。取られちゃいけないものを取って走って逃げて、それを追いかけてケンカが始まったり。でも、何があってもお姉ちゃんは手を出さないし、二人とも性格はいいのであまり心配していませんが(笑)。4歳の子は普段は繊細ボーイだけど、お姉ちゃんにだけは強く出られるので、ほほえましく思いながら見守っています。

――SPA!には1年ぶりの登場となります。お話ぶりからは相変わらず家族ファーストな日々を送っているようにうかがえます。

幸いにも私は働きたくて働くことができていますが、子どもを犠牲にしすぎるのは良くないと思っています。子どもたちの様子を見ながら、自分のやりたいことをやりすぎないよう、うまくバランスを取っています。

――前回はマッサージが唯一の自分の時間だと語っていました。

今は一番下が0歳なので、離れようにも離れられません。自分の時間はしばらく持てていないですが、気持ち的にはしんどさと可愛さのミックスです。

子どもが3人となると周りの家族だけでは手が足りなくなってきて、今までは母親や叔母に手伝ってもらっていましたが、最近、そこに助っ人として父親と義理の姉が加わりました。

――まさに一家総出ですね。

ここにきて、私の父が大活躍です(笑)。この寒さのなかTシャツで4歳の息子とサッカーをしてくれたり、0歳児をずっと抱っこしてくれたり。私たちが子供の頃はあまり遊んでもらった記憶がないのですが、「こんなに子どもの面倒を見られる人だったのか」とすごく驚きました。

孫が生まれたことでこうして家族と会う機会もさらに増えたと思うので、家族みんなをつなげてくれる存在として、孫の力は大きいと感じています。母親も70代でジムに通い出したり、公園の遊具に登って孫と一緒に遊んでくれたりしています。運動している姿なんて見たことなかったのに。子どもが家族の活力になっているなと実感します。

◆「40代の上戸彩」に向けて新たなステップアップを

――では、現在の上戸さんの仕事に対する考え方、モチベーションの上げ方について聞かせてください。

家族や近くにいるマネージャーさん、自分を一人の「人間」としてちゃんと見てくれている人たちのためにも「働きたい」というエネルギーが湧くし、子育てが大変だからこそ仕事で家をでるときの開放感に幸せを感じます。家に帰るときに「今日も一日仕事しちゃってゴメンね」という思いが子どもをより愛しく感じさせてくれます。

連続ドラマなどの場合、予定通りにはなかなか進まないので、「こんなはずじゃなかったのに」と思うこともあるのですが、そんな忙しさがあるからこそ、子どもと過ごせる時間が貴重に思えます。

――若い頃はどうでしたか?

ずっと仕事オンリーで、もともと自分の時間はほとんどありませんでした。だからかえってそれほどストレスになってはいないですが、今は「マッサージ行けるかな」「今日、お風呂一人で入れるかな」とはずっと思っています(笑)。最近は子どもにタイマーを渡して「これが鳴ったらお風呂に来て」と言って、10分間だけ一人でゆっくり入らせてもらっています。

――昨年のインタビューで、とうとうネットショッピングでロボット掃除機を買ったと言っていました。

最近、ネットでしか買い物してないので、家に段ボールが山積みになっているんですよ。

去年、赤ちゃんが生まれたので、お尻拭きとかおむつとか粉ミルクといった、赤ちゃんの生活用品を買うのに使わせてもらってます。ロボット掃除機も便利だけど、音がするので、赤ちゃんがいるとなかなか使えません。なので、抱っこ紐で寝かせるタイミングで、自分で掃除機をかけて、終わる頃には寝ている……というのが日常です。ロボット掃除機は今ちょっとお休みしています。

――まだ少し先ですが、40代を迎えるにあたって、これまでを振り返りつつ思うところはありますか。

もともと自分のなかで「20歳」はすごく目標があって、結婚して仕事も辞めたかったんです。そうして何かすごく「形」にしたいなと思うなか、29歳で出産して、これはすごくいい30代を迎えられそうだなと思ったのが30歳。40歳……どうしよう……(笑)?

仕事面では、周りのスタッフさんたちが「40代の上戸彩」についてすごくプランを考えてくれているので、それに乗って行きたいなと思っています。今は家庭にかける時間のほうが断然多いし、自分の気持ちの割合も大きいのですが、ここから40代に向けて、俳優としての新たなステップアップができたらいいですね。子どもに胸を張れるお母さんでいたいです。

――前回も言いましたが、上戸さんといえば『3年B組金八先生』第6シリーズ(2001年)の鶴本直が忘れられません。

ありがとうございます。でも、そういうことを言っていただけるのも、年齢を重ねるにつれどんどん嬉しく感じています。

――いつの日か上戸さんが学園ドラマで中学生の母親役を演じるなんてことがあったら、ドラマファンとしては胸がアツくなること間違いないです。

「直〜! あの直が!!」みたいな(笑)。

上戸彩
′85年、東京都生まれ。′97年、全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞してデビュー。ドラマ、映画、CMなど幅広く活躍。代表作にドラマ「絶対零度未解決事件特命捜査~」「半沢直樹」「昼顔」「アイムホーム」、映画『あずみ』『テルマエ・ロマエ』『マレフィセント2』(吹き替え)『シャイロックの子供たち』『沈黙の艦隊』など。2024年6月28日公開予定の映画『それいけアンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』にてルルンの声優を務める。出演ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』はPrime Videoにて全8話配信中。原作・かわぐちかいじ、主演・大沢たかお、出演はほかに玉木宏ユースケ・サンタマリア中村倫也中村蒼水川あさみ、橋爪功、、笹野高史、夏川結衣、江口洋介

沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』
日本の近海で、海上自衛隊潜水艦が米原潜に衝突し沈没した。艦長の海江田四郎(大沢たかお)を含む全76名が死亡との報道に衝撃が走る。だが実は、乗員は無事生きていた。事故は、日米政府が極秘に建造した高性能原潜「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だったのだ。 ところが、海江田はシーバットに核ミサイルを積載し、突如反乱逃亡。海江田を国家元首とする独立戦闘国家やまと」を全世界へ宣言する。 やまとを核テロリストと認定し、太平洋艦隊を集結させて撃沈を図るアメリカ。やまとを追いかける、海自ディーゼル艦「たつなみ」。その艦長である深町(玉木宏)は、過去の海難事故により海江田に並々ならぬ想いを抱いていた。

撮影/中村和孝 取材・文/中村裕一 ヘアメイク/猪股真衣子(TRON) スタイリング/宮澤敬子(WHITNEY)

【中村裕一】
株式会社ラーニャ代表取締役。ドラマや映画の執筆を行うライター。Twitter⇒@Yuichitter